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29 奴隷になる

「奴隷紋……」


 脱衣所の鏡の中の俺の姿。

 今まで無かった黒い入墨が首にある。

 あの人形が死ぬと、この首が切れる。そういう事か……。


「ざけんな!」


 その怒りは、しかし、ぶつける先はなく。

 長風呂をして、この上ウミの怒りを背負い込むのも面倒なので早々に風呂から出ることにした。

 宿に備え付けられたタオルで首を隠しながら。


 ◆


「巻き込まれた」


 事情の説明。


「何処で?」

「地図にない島」

「は?」

「飛空艇から落ちて、気付いたらそこに居た。一昨日の話」

「何それ」

「そこで迷い込んだ城に、スケルトンになったあの子の両親が居た」

「スケルトン?」

「ここに居ても先はないからあの娘を連れ出してくれ。そう頼まれた」

「随分とお人好しね」


 信じていないのだろう。

 ウミがジト目を寄越す。


 俺は首のタオルをずらし、そこに刻まれた刺青を見せつける。


「アレが死んだら俺も死ぬそうだ」

「は? 何それ」

「不死者の呪いだとさ」


 俺と、ベッドに寝たままの人形を交互に見比べるウミ。

 人形を見るその目に、幾らかの憐れみが見て取れる。


「で、ハルシュはどうするの?」

「どうするも何も、訳がわかんないのは俺の方なんだよ。先のことなんて考えられるわけ無いだろ?」

「ふーん」


 そう言ってウミは、テーブルの上に置かれた書物を一つ取ってページを捲る。


「読めないや」


 何ページか確認した後、そう呟いて、書物を戻す。


 そうだ。


「俺の装備品、直してくれ。外で首が見えないように」


 そう言って、城で受け取った、槍と鎧、ローブをウミに渡す。


「ついでに鑑定も頼む。素性が分からない」

「どうしたの? これ」

「スケルトンに貰った。有名人らしいぞ。傭兵のジジイ曰く」

「ふーん」


 そう言って、鑑定を始めるウミ。

 やがてその表情が凍りつく。


 鑑定結果がウミの仮想ウインドウに表示される。


 アイテム【英雄の槍】 ランク:LEGEND

 かつて不死者と戦った英雄の槍。

 祈りの力が宿る。

 銘は無い。


 アイテム【ミスリルスケイル】 ランク:8

 ミスリルが編み込まれた鎧。

 軽量化の魔法が掛けられており、見た目より軽い。


 アイテム【大魔導師のローブ】 ランク:6

 魔力とそれに対する抵抗力が向上する。

 その力を認められた魔法使いにのみ贈られる品。


「今の店売り、君の鎧と槍がランク5。私の剣が4。

 て言うとどんだけの品かわかるよね?

 しかも伝説級レジェンド

 神話級ミスティカルに次ぐ高ランクよ……」


「そりゃ……すごい……」


 その凄さに、しかし、イマイチ実感がわかない。


「じゃ、この本もそれなりの値打ちがありそうね」


 ウミがテーブルの上の書物を見ながら言った。


「読めないんだろ?」

「翻訳スキル買ってこようかしら」


 ウミが顔に好奇心を覗かせる。


「アレの荷物だ。興味があるなら世話の手伝いをして欲しいんだが。

 親バカの日記かも知れないけどな」

「それはそれで読んでみたいわ」


 少し空気が和む。

 二人は声を上げ、笑った。


 その声に反応したのだろう。

 ベッドに横になっていた人形が上半身をゆっくりと起こす。


「下から何か持って来るね」


 ウミがそう言って席を外す。


 さてと。


「喋れるか?」


 ベッドの横に椅子を動かし、人形に問い掛ける。


 微動だにしない人形の瞳を真っ直ぐ見据える。


「アリアシア」


 静かに、呼びかける。

 微かに、紫の瞳が揺れる。


 聞こえてはいるのだろう。


「君がどこまで理解しているかわからないが、君の両親は、死んだ。

 住んでいた城も無い。

 君を知る人は、もう誰もいない。

 それでも、君は生きなければ成らない。

 俺が君を護る」


 そこで、言葉を区切る。

 自分が吐いたその上っ面の言葉と裏腹に、状況を把握した頭の中にこの先の動きを思い浮かべる。


 こんな状況に置かれるに至り、もはや必死にこのアカウントにしがみつく必要も無さそうだと。

 この先どこかで命を失うだろう。

 そう言うゲームなのだから。


 このNPCがどうなるか分からないが、俺はそうなったら新しくアカウントを作り直せば良いだけだ。そこまでして、このゲームに戻って来るかは別として。


 レアスキルに続き、レアアイテムも手に入ったが、所詮はデータ。

 後生大事に抱えたところで、現実に持っていける物で無し。


 少し、派手にやろうか。

 そう。

 このアバターを決めた時の様に。


 下から戻って来たウミから、手にしたお盆を受け取る。

 そこからパンを一切れ。

 赤子に食べさせるほどに小さく千切り、口元に差し出す。


「食べるんだ」


 少し、間を置いてから少女はゆっくりと頭を横に振る。


「ゆっくりで良い。少しずつで良い。でも、食べろ。食べなければ死ぬ」


 どれくらい、そうしていたのだろうか。

 やがて、根負けした少女がゆっくりとした動作でパンの欠片を受け取り、そして口に運ぶ。

 大して咀嚼もせずに、それを飲み込む。

 すかさずグラスを差し出す。

 少女はそれを受け取り、一口水を口に含む。


「俺の名はハルシュ」


 再び、パンの欠片を渡しながら伝える。

 今度はいくらか、早い反応を見せる。


「さっきも言ったが、俺が君を護る」


 パンの欠片を差し出しながら、伝える。

 返答は無いが、言葉は伝わった。そう信じる。


 いくらどうなっても良いNPCとは言え、目の前で餓死されるのは流石に堪らない。


 人形は、ゆっくり、ゆっくりとパンの小さな欠片を飲み込んでいく。


 そんな俺達を横目に、ウミは何処で手に入れてきたのか、キャリーバッグの様な物を持ってきて、そしてテーブルの上に並べられた荷物をテキパキと詰め込んでいく。


 長い時間を掛けて小さなパンを半分ほど口にしたところで、手が止まる。


「もう、良いか?」


 問い掛けに、少女は小さく顎を引く。


「水は?」


 小さく、顔を横に振る。


「さて、荷物はまとめたから、出発しよう。歩け……ないかな? ハルシュは彼女、おんぶか抱っこ。荷物は私が運ぶわ」

「ん? 何処に行くんだ?」

「アルデバラン。闘技大会出るんでしょ? その様子なら途中で休みながら行ったほうが良いよ」

「あ、そうか」


 人形に向き直る。


「慌ただしくて済まない。これから少し移動する」


 人形は、こちらを見上げ小さく頷く。


「よーし、しゅっぱーつ」


 ウミがいつもの様に元気良く右の拳を突き上げた。

ハルシュ Lv.17

筋力値:19

魔力値:19

敏捷値:19


装備:

【英雄の槍】

【???】

【ミスリルスケイル】

【大魔導士のローブ】


セットスキル:

├[1]【飛行】Lv.1

├[2]【槍】Lv.2

│├─【防御】Lv.1

│└─【魔法防御】Lv.1

├[3]【???】Lv.1

│└─【魔力察知】Lv.1

├[4]【観察眼】Lv.2

│└─【暗視】Lv.1

├[5]【超反応】Lv.2

│└─【気配察知】Lv.1

├[6]【神聖魔法】Lv.1

└[7]【離脱】


所有スキル:

【回復】Lv.1

【夜目】Lv.1

【看破】Lv.1

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