30 闘技大会に出る
コル・カロリからディアデムへ。
その移動の船の間は側に付いていると言う、ウミの言葉に甘え一時ログアウト。
ディアデムに付く前にログインする。
船に乗った時と同じ様に人形を抱え、船を下りる。
「ここで少し休憩しよう。明日の夜までに着けば良いからね。ゆっくり行こう」
宿屋でそう言い残し、次の出発時間を確認してウミはログアウトしていった。
さて、と。
「メシは?」
人形に尋ねる。
首を振って、拒否。
「じゃ、少し横になるか?」
小さく顎を引いて答える。
「そうか」
部屋まで付いていき、荷物を置く。
「俺は少し出かけてくる。出発前には声を掛ける。ゆっくり休め」
そう言い残し、部屋を出る。
町の外で、少しばかり狩りをし、そしてログアウトした。
◆
ログインし、人形の部屋をノック。
ややあって、バタバタと音がしてドアが開く。
「休めたか?」
そう尋ねながら、部屋に入り荷物を取る。
僅かに顎を引く人形。
「下で何か食べよう」
荷物を持ち、下へ。
人形は大人しく付いてくる。
既にウミが食堂におり。
「おはよー! さ、何食べる?」
◆
テーブルの上に、次々と皿が並ぶ。
パスタが多い。
いや、パスタばっかりか?
ウミが、少しづつ皿に取り分け、そして人形に渡す。
人形は、それを更に少しずつ口に運ぶ。
「この後はレグルスまで行くよ。レグルスからアルデバランまでは直通の特別船が出てるみたいだからそれに乗っちゃおう!」
「へー。そんなの出てるんだ」
「お祭りみたいだからね」
あ。
「申し込み忘れてた」
仮想ウインドウを開いて、闘技大会申し込み。
締め切り、1時間前。ギリギリセーフ。
「本戦に残れるように頑張ってねー」
「ウミは出ないの?」
「出ないよ。アリアと観客席から精一杯応援するから!」
「アリア……?」
誰?
「アリア」
ウミは、皿のパスタをゆっくりと口に運ぶ人形を指差した。
◆
船が出る、それまでの間ディアデムの町を三人で歩く。
「食べて、歩く!」
そう、ウミが提案したからだ。
いつも、ギルドに立ち寄りそのまま配達に出かけてしまう町は、何度も来たがこうしてゆっくり見て回ることは無かった。
「綺麗よね」
街灯が照らし出す、幻想的な町を歩きながら、ウミが言う。
コクリ、と人形が首肯をした。
◆
「ホイ! 完成!!」
レグルス行きの船の中。
俺の新装備を直していたウミからアイテムを渡される。
早速試着。
鎧は以前とさほど変わらず。
槍は、真紅にしてもらった。
刃先に返しがついていないそれは、投げるのにも丁度良く。
前の持ち主も同じ様に考えたのかもしれないと、顔も知らぬ英雄とやらに少し思いを馳せる。
そして、ローブ。
鎧に合わせた黒のローブは、首が隠れるようにしてもらった。
背中は腰までの短いデザイン。
そしてジップアップになった前は、ジップが付いているのになぜかまた、腹丸出し。
ローブというより、パーカーに近い。
いや、もう良いけどね。
全体的にスタイリッシュな印象。
「うん。最高だ。ありがとう」
お世辞をたっぷり含んだ感想を返す。
「思う存分暴れてきな! それと明日リーザと合流するから」
「了解。元気?」
「もちろん! ハルシュが女の子拾ってきたって言ったら呆れてた!」
「言うなよ」
「だってすぐバレるじゃん」
そりゃ、そうなんだけど。
「それはそうと、あの子の父親? 何者?」
「さあ? 何で?」
「本、まだまだ全然読めてないんだけど、結構高度な魔法っぽいよ?」
「へー。呪いの解除方法とかわかったら教えてくれ」
その、俺の願いに、しかし、ウミは答えずニマニマと笑うだけだった。
◆
甲板に出て、風を感じる。
もう直ぐ、レグルスに着く。
下を流れる雲をなんとなしに見ていた。
ふと、背後に気配。
振り返ると、手すりにもたれ掛かり、人形が立っていた。
「……ありがとう」
小さな声を人形が発した。
ひとまず俺は、愛想笑いだけを返すことにした。
◆
その後、レグルスの宿で俺はログアウトした。
◆
アルデバラン行きの直行便に乗り、そして、闘技場のある町へ。
ウミオススメの料理屋で、大皿のパエリアを食べる。
前菜に出た生ハムを、人形は、顔を引き攣らせながら口に入れ、そして、手で口を抑え、何度も噦き、それでも、目に涙を浮かべながら飲み込んだ。
無理するなと言う俺達の声に、しかし、彼女はその後も、ゆっくりでは有るが少しづつ食事を続けた。
その様子に、この人形は俺が思うよりもずっと強いのかもしれないなどと思う。
そして、ウミに注文する料理に少し気を付けるように後で言っておこうと決める。生肉、そして、虫を思わせるものは駄目だ、と。
◆
闘技大会。
予選第一回戦。
最大20人による、バトルロワイヤル。
舞台は円形の闘技場。
観客無し。
円形の闘技場に等間隔に参加者が並んでいる。
顔は分からない。
俺以外のプレイヤーはグレー一色。
名前も表示されていない。
手にした武器が、シルエットで判別ができる程度だ。
さて、槍の切れ味はどうかな。
「始め!」
響く声と同時に俺は隣の敵を一息に貫いた。
◆
闘技大会。
予選第二回戦。
流石は伝説の武器。尽く敵が弾け飛んでいく。
いや、相手が弱いという可能性も捨てきれないが。
それをこの戦いで確かめられるだろうか。
「始め!」
勝ち上がって来た猛者で有るはずの、横のプレイヤーは、しかし呆気なく俺の槍の餌食になった。
◆
<運営からお知らせがあります>
控室に戻されると同時にメッセージ。
メニューを開き確認する。
◆
【闘技大会本戦出場おめでとうごいます】
ハルシュ様
本戦出場、おめでとうございます。
つきまして、本戦で使用いたしますバトルネームを別途設定可能です。
必要あります方は、控室の案内ボタンからナビゲータをお呼び下さい。
明日の本戦は16時からになります。
遅れることのないように、ご注意願います。
星々の導きのあらん事を
運営チーム
◆
バトルネームか。
……いや、このままで良いや。
変に中二臭いの付けてもしょうがないし。
さ、戻ろう。
◆
ウミが人形と待っていると言う店へ。
小一時間程前に山程食べていた気がするのだが。
「どうだった?」
問い掛けるウミに親指を立てて笑みを返す。
それに合わせウミも同じ仕草。
その様子を見ていた人形が、ぎこちなく腕を突き出し親指を立てる。
そして、僅かに口角を上げる。
……笑ったのか? 今。
ウミもそれに気付き、嬉しそうに頭を撫で回す。
少し戸惑いながら、椅子に座る。
「ここですか?」
そこに、リーザが現れる。
「ここ、ここ! 久しぶり! どうだった?」
「お久しぶりです! もちろん勝ち抜きましたよ! ハルシュさんは?」
「負ける訳無いだろ?」
「アリア、この人、リーザ。アリアシア。ハルシュが連れて来たの!」
ウミが初対面の二人を紹介する。
「初めまして」
リーザが頭を下げる。
人形もそれに合わせる。
「さ、食べよう!」
ウミがテーブルの上の料理を取り分け始めた。
「暫く何してたの?」
リーザに問い掛ける。
「えーっと、攻略組って人たちと知り合いました」
「へー」
「みんな良い人なんですよ」
ま、本人が楽しいならそれで良いか。
「今度、紹介しますね」
「ああ」
あまり興味は無い。
<ポーン>
<運営からお知らせがあります>
インフォが流れる。
ウミとリーザが仮装ウインドウを開き確認を始める。
「無理に食べなくても良いぞ?」
取り分けられた食事と格闘している人形に話しかける。
「……大丈夫……です」
「そうか。食べれない物は無いか?」
小さく顎を引く人形。
「おいしいです」
そう言って、また、僅かに口角を上げる。
「そうか」
俺は取り分けられた魚を口に運ぶ。
「明日の組み合わせが決まったみたいです」
仮想ウインドウを確認していたリーザが言う。
「へー」
「私とハルシュさんは、当たるなら決勝ですね」
そう言って仮想ウインドウを俺に提示するリーザ。
トーナメント表の一番端に俺の名前。
そして、リーザの名前は無い。
代わりに黒騎士とか、黒刃とか、黒魔道士とか、黒い名前が並ぶ。
てかさ、黒多すぎじゃね?
「リーザは?」
「ふふふ。教えません」
きっと、黒のどれかだろうな。
◆
乳白色の湯に浸かり疲れを癒す。
人形は、ウミとリーザに預けた。
今頃三人で同じ風呂に入っている筈だ。
羨ましい。
心底羨ましい。
それにしても、少しずつ表情が豊かになって来ている様な人形の変化に戸惑いと驚きを覚える。
いや、まずは明日の闘技大会に集中だ。
そう、相変わらずの胸を揉みながら思う。
うーん、効能に豊胸って書いてあった気がするんだけど。ここの風呂。




