27 スケルトンの昔話を聞く
異様も異様。
食卓の上。
少女の前にのみ並ぶ調度品の様な銀器の上に乗っているのは、野草。鳥の生肉。……そして、虫。
骨ばった手にナイフとフォークを握り、無表情のまま芋虫に切り分け、鳥の血で赤くなった口に運ぶ。
生肉の血がこびりついた口。
何の冗談だろう。この悪趣味な光景は。
「さて、返事は如何に?」
顔を顰める俺に、向かいのスケルトンが問い掛ける。
「如何にも何も、そうしなければ結局殺されるんじゃないのか?」
俺の疑問に、沈黙で肯定を返すスケルトン。
「もう少し事情を聞かせて欲しいのだが。出来ればこの悪夢の様な光景の説明込みで」
少女は食卓から辞去した。
もう一体のスケルトンは食器を片付けている。
「私の名は、セシアル・ロル・ワンドランス。知っているか?」
自己紹介をするスケルトンだが、当然そんな名に心当たりなぞ無い。
「知らん」
もう一体のスケルトンが、紫色の液体が入ったグラスを俺の前に置く。
さっきの悪夢の様な光景を忘れるために、俺はそれを一気に流し込む。
上等なワインの味がした。
「そうか。既に名も残っておらぬか」
「何者だ?」
「私はアルカイオスの王宮に仕えた者である」
生憎と、この世界の歴史なんぞに興味は無い。
「聞いたこと無いな」
「そうか。外は最早、我の想像も付かぬ世に成っているのであろう」
「出て行けば良い。自分の目で確かめて来たらどうだ?」
目の無い、その体でどうやって物を見ているのか不思議だが。
「名は?」
「ハルシュ」
「ほう」
少し、声色が明るくなる。表情は変わり無いが。
「良い名だ」
……何言ってんだ? こいつ。
「嘗て、儂の配下にハルシュ・レノアルコウと言う者がおった」
あっそ。
「知らん」
「……関係のない話であったな。
だが、しかしそなたが空の神の寵愛を受けしものであるならばこれほど心強いことはない」
スケルトンが、今度は小さな小瓶を俺の前に置く。
「これは?」
琥珀色の液体が入ったその瓶を手に取り尋ねる。
「魔力の込められた回復薬だ。飲んでおくと良い。すぐに傷も癒えよう」
ふーん。
瓶を蓋を開け、一口。
僅かにHPが回復。
それを確認し、不快な苦味を伴う液体を全て胃に流し込む。
そして、口に残る苦味をグラスに僅かに残っていたワインで洗い流す。
「さて、話を続けよう。
儂は、アルカイオスの宮廷魔術師であった。おそらくは三百年程前の生者である。
この城は、ネッソスの反乱軍の攻めにあった。
折り悪く、配下の騎士団がおらぬ間でな。寡兵で城を守りはしたが、あえなく陥落した。
儂は、反乱軍が場内になだれ込む前に娘に『停滞』の魔法を施し城内に隠し、自分と妻に蘇りの呪いを掛けた。
反乱軍に捉えられ、二人は処刑された。
その後、不死者として蘇り、再びこの城に戻った時には物取りに荒らされ無残な姿となっておった。
儂は、まず城に、そして島全体に結界を施し現世から隔離した」
「飛んで入れたけどな」
「おそらくは、世界に異変が起きようとしておるのだろう」
「異変?」
「不死者を駆る者が表れ、世界を落とさんとしておるのだろう」
この世界でそう言う言い伝えがあるって設定なのか?
一体何を言いたいのかさっぱりだ。
ただ、島一つ隠せるような魔術師。
俺一人くらい訳なく殺せるのだろう。
「で、死んだ娘の騎士になるとはどう言う意味だ?」
「娘は死んでおらんのだよ。『停滞』の魔法を掛け時の動きを緩やかなものとしている。
そのせいであろう。感情も言葉も表に出すことは無くなってしまったがな。
この城から出ればやがてその魔法も解け普通の少女に戻るであろう。
さっきも言った通り、世界に異変が起きようとしている。
その前に信頼出来る何者かに娘を託したいのだ」
「俺が信頼できると?」
「空の神の寵愛を受けしものであるならば、託すに値する」
偶然スキルを手に入れただけだけどな。
「無事に城から外に出たら、直ぐにその娘を空に捨てるしれないぞ」
「それをする人間は、わざわざ警告なぞせずにやる。
そして、娘もろとも死ぬのだ」
もろとも?
「……どういう事だ」
「お主に、呪いを掛けた。娘と命を同じくする呪いをな」
「何だと!?」
「娘が死ねばお主も死ぬ。そういう事だ」
どうも話がおかしいとは思っていたが……。
「ふざけやがって……奴隷じゃねーか!」
「娘に解呪の方法は教えてある。その内思い出すであろう」
「思い出さなかったら、あいつがババアになるまで守らなきゃなんねーのかよ……」
「何なら嫁にしてはどうだ?」
「お断りだ」
あんな骸骨みたいなガキ。
第一、俺のこの体も女だ。
「ふむ。母に似て可憐な娘なのだがな」
「そんな面影は一欠片も残って無さそうだけどな」
「せめて、人並な暮らしはしてもらいたいのが親心じゃ」
「……虫を食わすような真似してよく言うよ」
「……あれしか無いのだよ。ここでは食える物を手に入れるのも大変でな」
「それにしても、生肉は無いだろう」
「儂らは火を扱うことが出来ん。調理が出来んのだ。こう言っては何だが、あの娘が感情を無くしていてくれて助かっておる」
「そんな生活を三百年か」
「いや、ここは外と切り離されておる。この中ではせいぜい二年といったところだ」
「あっそ。それでも長いと思うけどな」
「今の娘は起こさなければ十日は平気で眠り続けておる。そして、起きて僅かばかりの食べ物を口にしまた眠りに付く。そんな風に生きておる」
厄介な物を背負い込んだ……。
「それで、初めの問いかけに戻るわけだが」
「引き受けるさ。それ以外選択肢が無いだろ?」
「そうか。恩に着る」
「うるせぇ」
「そうと決まれば、娘の旅立ちにせめてもの手向けだ」
骸骨は立ち上がり、歩き出した。
◆
「ここは?」
骸骨に案内され辿り着いた一室。
「宝物庫じゃ。と言っても略奪にあってもう殆ど何も残っておらぬがの。
僅かばかり、装飾品が残っておる。売って生活の糧にすれば良い」
「ふーん」
室内には、城内に残されていたものであろう、少しばかりの指輪、首飾りが積まれていた。
全部売れば、まとまった金額になりそうだ。
更に、壁に一振りの槍とその下に鎧と黒い布切れが置かれていた。
「これは?」
「嘗て、英雄と呼ばれし男が手にしていた槍だ。それは略奪に合わぬよう隠して置いたのだ」
槍を手に取る。
軽い。
俺が持っている店売りよりもずっと。
鎧も、見た目よりずっと軽い。
布切れは、フード付きのローブか。
「これでアンタを殺せるのか?」
「試してみるか?」
そこ言葉に微かにスケルトンが敵意を表に出す。
俺は首を横に振る。
止めておこう。勝てそうに無い。
◆
「後はこれも持って行け」
「そうじゃ、あっちにある書物も全て持って言った方が良い」
「食器、娘の使っている食器は要らんかの?」
「そうそう、枕が変わって眠れなくなると大変じゃ!」
「タンス! どこぞの国では娘の旅立ちにタンスを持たせると聞いたぞ」
……。
「いい加減にしろ!!」
タンスなんか持っていけるか! バカ!!
完全に嫁入り前の親バカだ。
「俺は少し休む。荷物は最低限にまとめろ!!」
もう一体のスケルトンに案内され、小さな部屋に通される。
こっちのスケルトンが母親か。
そう言えばこっちは、一言も喋ってないな。
まあいい。
案内された部屋にはベッドと長椅子が置いてある。
酷く黴臭いベッドに身を横たえる気になれず、長椅子にもたれかかる。
さて、この奇妙な状況、どうしたものか……。
それを考えながらログアウトをした。
◆
再びログイン。
黴臭い長椅子に横たえた体を起こす。
やはり、状況は変わっていない。
部屋から出て、城内を彷徨く。
これは、何かのイベントか?
本来であれば、闘技大会に向けレベル上げに励んでいる予定だったのに……。
しかし、妙に体が軽い……。
仮想ウインドウでステータスを確認。
見慣れぬ文字。
アイテム効果:【霊薬の加護】
ステータス向上。
状態異常耐性向上。
自動回復向上。
肉体を消失するまで継続。
……さっきの苦いやつの所為か!?
そして……【不死者の呪縛】……。
この状況に戸惑いながら、いつの間にか中庭に出ていた。
そこにローブ姿のスケルトン。
日に当たっても平気なんだな……。
「起きたか」
「ああ」
「あの薬は何だったんだ?」
「あれはそれなりに貴重な物でな」
ふーん。
そりゃ得をした。
気分的には全然マイナスだが。
「さて、手合わせでもしてもらおうかの?」
いつの間にかスケルトンの手には杖が握られている。
そして、一気に敵意の色が濃くなる。
やはり、殺す気か?
俺はさっき頂いた槍を構え、間合いを取る。
◆
「ふむ。まぁまぁと言ったところか」
結局スケルトンには、まともに相手に成らなかった。
俺の槍は杖で捌かれ、威力を下げたであろう魔法を御見舞される。
避けようにも、その魔法は俺を狙うように追いかけてくる。
空に逃げてもだ。
「何のつもりだ」
既に俺の命は尽きているだろう。相手が本気であれば。
「娘を預ける者の力を見たかったのだ。怒るな」
「どうだ? 弱くて失望したか?」
「なかなかどうして。面白い武器も持っておるしな。しかし使い方がなってないの」
「買ったばかりでな。出来ればそろそろここから開放してくれると有り難いんだが」
「日が沈まぬと、この島からは出れん。言った通り結界があるのでな」
そう言う事は先に言え!
「それよりも、もうおしまいか? その道具、使いこなして見せよ。寵愛を受けし者よ」
「ぶっ殺してやる!」
出れないなら仕方ない。
こいつでレベル上げだ。
負けても相当な経験値を貰えてるみたいだし。
完全に遊ばれているのは少々癪だけど。
ハルシュ Lv.14
筋力値:16
魔力値:16
敏捷値:16
装備:
【ダマスカスランス】
【???】
【ワイバーンスケイル】
セットスキル:
├[1]【飛行】Lv.1
├[2]【槍】Lv.2
│├─【防御】Lv.1
│└─【魔法防御】Lv.1
├[3]【???】Lv.1
├[4]【観察眼】Lv.2
│└─【暗視】Lv.1
├[5]【超反応】Lv.1
├[6]【気配察知】Lv.2
│└─【魔力察知】Lv.1
└[7]【神聖魔法】Lv.1
所有スキル:
【回復】Lv.1
【夜目】Lv.1
【看破】Lv.1
【離脱】




