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バランサー

バランサーは俺の声に気付き、こちらに歩んできた。


「ああ。君はあの時の彼か?随分、可愛らしい姿になったものだね」



「ええ。まさか異世界で牧草に産まれ落ちるとは思いもよりませんでしたよ。」



「人も草も同じ生命だからな。命に尊卑はないのだよ。草が偉いわけでもないし、人が偉いわけでもない」



俺はイヤミを込めて言ったのだが、バランサーはニコリと微笑んだ。


「……さて。次はあちらのホムンクルスを始末するとしますか」


そういうと、ブラッドと剣を交えているホムンクルスを一瞥する。


バランサーは低く身構えユラユラと尾を踊らせた。


ドンッという爆発音と共に飛び出していく。


バランサーは自分の影すら置き去りにする程の早さで一気にホムンクルスの背後に回った。


ホムンクルスとしては堪ったものではないだろう。


ほぼ互角であるブラッドと戦っている最中に背後から襲われたのだ。



バランサーは躊躇うことなく、銀狼の爪でホムンクルスの心臓を貫く。



ホムンクルスは然したる抵抗も出来ず、糸の切れた人形のように、膝から崩れ落ちた。


バランサーは反り血を拭う事もなくホムンクルスを優しく抱き抱える。


「誇り高き魂よ……在るべき処へ帰れ」



その声が聞こえたかのようにホムンクルスは光の粒子になり、世界に溶け込んでいった。



その姿を見てブラッドは茫然としている。


それはそうだろう。


ブラッドからすれば、銀狼のホムンクルスが急に主であるセドと、仲間であるホムンクルスを殺したようにしか見えない。


そしてバランサーはジロジロとブラッドを舐め回すように睨め上げはじめた。


「あなた……おかしな魂の仕組みをしてますね。その魂はどうしました?」



ブラッドはレイピアを構え直す。


「貴様は誰だ!」


「答える義理はありませんよ。私の質問に答えなさい」



バランサーの威圧感は凄まじく、対峙していない俺ですら息が詰まる。


というかヤバイ!


バランサーのヤツはブラッドも消す気だ。


その空気を感じたのか既にガーネットは抜刀して飛び掛かっていた。


「てめえ! ブラッドから離れろ!」



バランサーはガーネットの剣を右手で受け止めた。


ガーネットはバランサーの手から剣を引き離そうとするがピクリとも動かない。


ならばと蹴り技を繰り出したが、バランサーに足を捕まれ投げ飛ばされた。


「あなたに用はありませんよ」


「ぐはっ!」


ガーネットは背中から叩き付けられた。



俺はバランサーの前に立ちふさがる。


「次は貴方ですか?私は彼に聞いてるのですよ」



「言いたい事は分かるが、あんたは秩序の神だろう? 今のブラッドは俺達に必要な存在なんだ!」



「必要か必要でないかの話ではありませんよ? 在るべき姿に戻すのが私の役目です。貴方も私の邪魔をするつもりなのですか?」


俺はバランサーの威圧で膝が震えてしまった。



その時である。


突如雷鳴が轟いたのだ。


その雷鳴を皮切りに異様な雰囲気に包まれていく。


そう。


首を落とされたセドの体から、黒いナニカが噴出し始めたのだ。


それはあまりに不気味な色をしており、不吉を感じさせるものだった。


その黒いナニカは意思を持った生き物のように集まり徐々に形を作っていく。


その形はまるで絵画に描かれた悪魔のようであった。



そのナニカは口を開く。


「我が名はメフィストフェレス。人間共め……。我の邪魔をしおって!!」


メフィストは爪を大地に突き立てる。


その一撃で大地に咲いた草木は枯れ果てていく。


その様子を見てバランサーは忌々しそうに呟いた。


「メフィストか……厄介なのが出てきたな」



バランサーは全身の毛を逆立たせ、メフィスト目掛けて弾丸のように飛び出した。


そのまま勢いを維持し、バランサーはメフィストの体に銀狼の爪を立てる。



肩口から一気に振り下ろす爪は火花を散らした。



その凄まじい攻撃すら意に介さないようにメフィストはバランサーの腹に拳をめり込ませた。


「ぐはっ!」


ホムンクルスはバランサーの髪を掴み顔を近づける。


「ふん。銀狼のホムンクルス。爪の強度が少し足りませんね。その程度では私の体に傷はつけれませんよ」



(バランサー!)


意識の前に俺の体が動く。


俺はバランサーの頭を掴んでいる腕に噛みいた。


「ガウウ! グウルウウ!」



俺の牙はメフィストの腕に刺さらない。


(なんだコイツは? 固すぎる!)



「クラック!!」


ブラッドは魔法を発動し、大地の波がメフィストに襲いかかる。


その波さえメフィストには通じない。


右手を波に翳すと、大地の波は動きを止めた。


「ふざけんな!」


その波の上から飛び降りつつ、剣を振り下ろす姿がある。


ガーネットだ!


「……煩わしいですね」


メフィストは右手を差し出し剣を受け止めようとする。


その手をガーネットが切り裂いた。


メフィストは驚きの表情を浮かべる。


「なんですか。その剣は?」


「ミスリル銀の剣だよ! 悪魔は昔っから銀に弱いと決まってるからな!」



メフィストの敵意がガーネットに向いたその刹那であった。



銀色の光が俺の視界の端に飛び込んできた。


俺が噛みついていた腕に衝撃が走りバランサーは地に落とされる。


「ヘルちゃん! 無理しちゃダメだってば!」


俺とバランサーはフェンリルに捕まれ引っ張られた。


メフィストは苦虫を潰したような表情でこちらを見ている。


「ガーネット!下がれ!」


聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。


「おうよっ!」


ガーネットが飛び退くと同時にメフィストに炎が襲う!


「ファイヤーバースト!!」

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