輸送
まだ太陽の隠れている薄暗い明け方、俺たちは目を覚ます。
昨夜、呑みすぎたオヤジ達は大丈夫だろうか?
案の定二日酔いらしく頭を押さえフラフラと起き上がってきた。
ロンベールに聞いた話だが、今日の国交を結ぶ調印式でオーク村産のトウモロコシが振る舞われる予定らしい。
なのでユグドラシルに直行はせず、オーク村を迂回するルートを取る手筈になっているという事だ。
そんな大事な任務があるのに深酒をするとは、ロンベールは、なかなかに剛胆な男である。
まあ、きちんと起きてきたから許してやるか。
「おう!お前らコレ着ていけ。」
ガーネットはブラッドに自分の服を。
そして俺とフェンリルにはローブをプレゼントしてくれた。
確かにブラッドは血糊がついていたし、俺達、銀狼族がユグドラシルに入るには尾が目立つ。
入り口のチェックはどうするのかと思ったが、まあロンベールがいるからなんとかなるだろう。
ブラッドに視線を送ると既に左腕は再生していた。
こういう時には助かるが、不老不死になるというのはどういう気持ちなのだろう?
自分に当て嵌めてみるが、なぜか羨ましいとは思わなかった。
そしてガーネットの家を出た俺たちはロンベールの牛舎に寄り、牛に荷車をつける。
朝から大忙しだ。
フェンリルは指をくわえて眺めている。
なんだか昨日から元気がないように感じるのだが、思い過ごしであろうか?
オーク村に到着した俺たちは山のように積まれたトウモロコシに腰を抜かしそうになるが、オーク達は手慣れた様子でトウモロコシを積み込んでいく。
(ほぅ……感心。感心。)
俺は現場監督のように顎に指を充て頷く。
指示を出しているのはオーク村の長老。通称ミネ爺だ。
本日、ユグドラシルとの国交を結ぶというのはオーク村の住人達にも伝わっているらしく、皆、期待に満ち満ちた目をしている。
「国交結ばれたら僕、ユグドラシルに遊びに行くんだー!」
「人間達が村に来る事もあるだろう。宿の用意もしなくてはならないな。」
思い思いの未来に夢を馳せている姿が微笑ましい。
作業が一段落した頃、長老がロンベールに近づき、手を取った。
「ロンベール様、このトウモロコシを宜しくお願い致します。」
深々と頭を下げる長老に向かい、ロンベールは照れ臭そうに頭をかじる。
「今日はガーネット様も…おや。他にもお客様ですかな?」
ロンベールは順にブラッドとフェンリル。ヘルを紹介していく。
ヘルの中身は俺なので少し気まずく感じた。
「そうでしたか。これからは気軽にオーク村にも遊びに来てくださいませ。いつでも歓迎しますぞよ。」
長老の優しい声にロンベールも頬を緩めた。
そして俺たちはオーク村を後にする。
俺達に同行してユグドラシルに行ってみたいというオークもいたが、それはガーネットが制止した。
確かに、調印式前では何があるか分からないし、もし調印前に人間とオークの間にイザコザでも起きたら、調印式自体に疑問の声が上がってしまう。
調印式が終わるまでは細心の注意を払いたい。
ナイスだガーネット。
俺達は大量のトウモロコシを積み、ユグドラシル目指してイズンの大地を歩いていく。
朝靄のかかる大地は緑の香りで胸がいっぱいになる。
天気も良いし、素敵な1日になりそうだ。
俺は腕を目一杯広げて大地の空気を思いっきり吸い込んだ。
「みんな!ユグドラシルの城壁が見えてきましたぜ。」
ロンベールが朗らかな声を挙げる。
その時だった。
「おやぁ?ブラッドさん。私と一緒にユグドラシルを攻めてくれるのですか?」
そこには隻眼の男と、その後ろには、深々とローブを被った2人が立っていた。
「セド!」
ブラッドは即座に抜刀した。
しかし後ろの二人は誰だろう?
エリクシールと白狼にしては体躯がおかしい。
それにどちらも顔がバレているのだから今さら隠す必要もないだろう。
「おやおや。抜刀したという事は、私の敵に回ったという事ですね。」
セドは肩を竦める。
敵もなにも、この男は先日ブラッドを血塗れにしておきながら何を言っているのだろうか?
ブラッドはロンベールに目配せをする。
その様子に気付いたのがセドは高らかに笑った。
「いいですよ。大事な荷物なんでしょう。あなただけはお通ししますよ。その変わり強いお味方を沢山連れてきてくださいね。」
なんだろう。この余裕は?
確かにブラッドを血祭りに上げる事が出来るのだから、セドが強いのはわかる。
俺も手が出なかった。
それにしても、目と鼻の先には王都ユグドラシル。
しかもそこの強者を呼んでこいとか舐めすぎではないか?
確かにユグドラシルが攻められてから、まだ日は浅いのは解るが、それにしても王都すべてが壊滅したわけではないだろう。
それに、ユグドラシルには勇者であるミントがいる。
セドはこちらをニヤニヤと眺めている。
ロンベールと荷物がこの場を離れるのを待っているのだろうか?
確かに時間を貰えるのは助かる。
実際問題、牛での移動は時間がかかるのだ。
それに、こちらとしては作戦を練る時間ができる。
ブラッドが口を開いた。
「ヘルは経験しただろうが、セドの目は見るなよ。あれは邪眼だ。」
「邪眼って?」
俺は邪眼に関して知識はない。
「邪眼とはその眼で睨み付けた相手を呪いにかける魔の力だ。」
ガーネットが驚いた声を上げる。
「昔、戦った魔女で邪眼のヤツがいたな……コイツは面倒になってきた。」
俺は口を挟んだ。
「邪眼ってそんなに厄介なのか?」
「あん?ああ。戦う相手の目を見ないと言うのは不可能に近い。これは本能だからな。」
「でも、ガーネットもブラッドも戦った経験があるんだろ?」
「あの時は相手が一人だったし、ロンベールも入れて3方向から同時攻撃したからな。だが今回は得体の知れねえローブの奴等もいやがるし……。ブラッド。どうするか?」
「どちらにせよ後ろの奴等をセドから引き離すしかない……か。」
ブラッドはそう言うと大地を足でトンっと踏みしめた。
「クラック!!」
大地がひび割れ隆起した土がセド達を襲う。
セドは軽やかに躱し、ローブの一人に指示を出す。
「ホムンクルス! お前の相手はブラッドだ! 楽しんできたまえ!」
その指示を受け、ローブの一人がこちらに向かい駆け出してくる。
その者の手にはレイピアが握られていた。




