幼馴染み2
ブラッドはトウモロコシに口をつける。
「……うまいな。甘さだけじゃない。このトウモロコシには未来が詰まっている。」
ガーネットが口を開く。
「おう。お前も相互理解の未来を掴むために、この銀狼族の娘達を連れて歩いてるんだろう?」
「いや……。この娘達は……。」
ブラッドは口籠もる。
「なんだ?また一人で抱え込むのか?」
「そうじゃないが……。」
暫く沈黙が訪れた後、ブラッドが語り始めた。
ブラッドは勇者を辞め、村を出た。
旅の途中、足を踏み入れた地域で銀狼族と何度か戦いを繰り広げたのだが、その時、ある銀狼族の男と出会う事になる。
「あんたら人間はなぜ俺達銀狼族と戦うんだ?」
「魔獣は人間を襲うだろう?」
「俺があんたを襲ったか?」
ブラッドは答えを失う。
そんな会話を交わした後、銀狼の男は去っていった。
その後もその後も同じ場所でその銀狼族の男と出会う。
「銀狼の男。貴様は毎日何をしている?」
「あんたに名前はないのか?」
「……僕はブラッドという。」
「だな。俺も名前がある。コーラルという。よろしくな。」
僕はその時、初めて魔物に名前があるという事を知った。
名前があるという事は個々の認識があるという事だろう。
僕はコーラルに興味を持つ事となり行動を共にしてみたのだ。
銀狼一族の村には文明があり、必要なものは自給自足されていた。
畑はあり、布は村で作られていたのだ。
僕はコーラルと徐々に親しくなり、ついにはコーラルの家族と寝起きを共にするようになる。
それは今まで王都ユグドラシルで過ごしていた僕にとっては衝撃の連続でしかなかった。
ユグドラシルの教え。
それは《魔獣は敵。魔物は悪しき者。》というものだった。
そして王都ユグドラシルに魔獣が攻めてこないのは、ユグドラシル精強な兵との城壁が鉄壁だからと攻め上がれぬのだと。
そうではなかった。
魔獣はユグドラシルに攻めてなど来ていなかったのだ。
王都ユグドラシルの壁には傷が少ない。
損傷がないわけではないが、魔獣が凶悪という教えの割りには傷が少なすぎたのだ。
気付く為の情報は幾らでもあったのに……聞いたものだけを全てだと思ってしまっていた。
自分の耳で聞き、自分の目で見て確かめるべきだったのだ。
きっと僕が手にかけた魔獣の中には人間界に何もしていないのに処断された者もいたハズなんだよ。
当時の僕は勇者と呼ばれ浮かれていたのだろう。
今にして思えば馬鹿だったと思う。
そして僕は銀狼村でコーラルから色々な事を目で見て教わり、そして学んだ。
しかし、ついにその時が訪れてしまう……。
ブラッドはチラリと俺達に視線を送る。
俺は「続けてもらって構わない。」とだけ伝えた。
きっとブラッドの言葉の中には、俺の記憶の答えがあるだろうから。
その声を聞いてブラッドは続ける。
僕が銀狼村の特産であるトウモロコシをユグドラシルに持っていく時だ。
(……トウモロコシ。)
僕は魔獣の文明を伝えていけばもしかしたら人間界と相互理解が拓けるのではないかと思っていた。
そしてトウモロコシを持ち込み、女王に接見したんだ。
女王はトウモロコシを一瞥したが最後まで口に含むことはなかったよ。
僕は女王に問うた。
「女王様。私は間違っていました。魔獣は敵ではありません。名前もあり文明もあります。これは銀狼村で作られたトウモロコシなのです。なぜお召し上がりくださらないのですか?」
「ブラッド。久々に戻ってきたと思ったら、お前の出した答えがそれか?魔獣はあくまでも人間の敵でなくてはならない。仮想敵国がなければ、いずれ人間同士が覇を争うようになる。それがわからぬか?」
僕はその時に気付いたんだ。
女王の思想が悪いとは言わない。
そういう教育は人間界を守るには必要な事かもしれない。
しかし……。
僕は答えも出せずに王都ユグドラシルを後にした。
そして城壁を出た僕の目に飛び込んできたものは、南西の方角に上がる煙だった。
銀狼村の方角だ。
僕の中に、松ヤニのようなベッタリとした不安が持ち上がる。
胸騒ぎを抑えきれず僕は走った!
何度も何度も転んでしまったよ。
気持ちに体がついていかないんだ。
その途中でユグドラシルとエルフの共同軍を見かけ不安は深まっていく。
そして村に戻った僕が目にした物は……人間に虐殺された銀狼一族だったのだ。
血に塗られた死体。
破壊された田畑。
燃え上がる家屋。
視界には動くものは見つけられなかったよ。
僕は震える手を必死に抑えつけながらコーラルの元に急いだ。
だが、僕の見た物は……無惨に殺されたコーラルの家族だった。
コーラルの死体の下、微かに声が聞こえてきた。
「……お父さん……お父さん……。」
コーラルが命を捨てて床下に匿ったんだろう。
それがこの銀狼一族の娘達だ。
僕はこの娘達を助けだし村を出た。
そして思ったんだ。
人間界は魔獣と相互理解は築けない。
いや。人間達に築くつもりがないのだと。




