命の実
今回は勇者ミントです。
「ここは……あれ?なぜだ……?」
目の前には《予言の巫女》と謳われたユグドラシル王女。
そして僕の母でもあるサファイアが玉座に腰を下ろしていた。
僕は驚き声を出す。
「王女!生きてらしたのですか?僕はてっきり……。」
しかし王女から反応はない。
玉座に座ったまま目を瞑り誰かを待っているようである。
周りには衛兵も宰相もいない。
異様な雰囲気ではあった。
「母親!いや。女王様!」
王女にふれようとした時である。
《ギイイィィィ》
重々しく扉が開き、誰かが入ってくる。
僕は振り向く。
そこには僕……いや。恭しく謁見する勇者ミントの姿があった。
その姿。
歳の頃で言えば14〜15であろうか。
そう。今の姿と変わらない勇者の姿がある。
「王女!御呼びでございましょうか?」
「うむ。勇者よ。いや……我が娘ミントよ。息災であったか?」
「はい!王女様もお変わりなき麗しいお姿で!」
「そう畏まらなくともよい。ミント…ちこう寄れ」
「は?」
「今は母と娘に戻させてくれ。もっと近くへ。顔を見せておくれ。」
勇者はミントになり、王女の膝に抱きつく。
王女はサファイアとなりミントの髪を優しく撫でた。
(ああ……あの時の記憶か。ならば今は夢の中。)
ミントは気づく。
あの日以来何度も何度も何度も何度も……幾度となく見た夢である。
母に甘える。
本来ならば誰しもが味わえる愛情であるのだが、ミントにすれば、それは特別な行為であったのだ。
父は知らない。
ミントが物心ついた時から母は王女であった。
そしてこの夢には先がある。
サファイアはミントの髪を撫でながら言葉を発した。
「ミントよ。勇者ミントよ。御主、イズンのリンゴを食べて我が国を守ってくれぬか?」
「イズンのリンゴとはなんですか?」
「不老不死となる命の実じゃ。それを食べて永遠に我が国を護ってもらいたい。」
「……不老不死…ですか。」
「そうだ。」
「敵は?」
「魔王や魔獣だ。」
「敵となる魔王や魔獣を絶やした後、僕はどうすればよろしいのですか?朽ちぬ体を持って私は如何にすれば…」
「−!!−い!おいミント!大丈夫か?」
目を開けると僕を覗き込むエルフの姿ある。
ジェードだ。
「おい。大丈夫だったか?なんか魘されてたぞ。」
「…ここは?」
「ああ。医務室だ。お前あの後、気絶したんだぜ。……王女様、ミントの母親だったんだってな。」
ジェードは哀悼の意を表そうとしているのだろうか?
とても悲しそうな表情を見せている。
その姿を見て、僕はオーク村との国交を結ぶ約束をして良かったと改めて思う。
「おい!貴様!ミント様は我が国の王女となられるお方だぞ!「お前」とはなんだ?「お前」とは!」
医務室天幕の外で護衛してたのであろうか。
黒い鎧の男が飛び込んでくる。ジャスパーだ。
「うるせえなぁ。俺はミントの友達だ。部下じゃない。」
「ジェード!きさまー!!」
うん。
僕は仲間に恵まれたようだな。
この騒がしい隣人と、忠誠心高い部下。
この者達は守っていかねばなるまい。
そして僕はハタと気づく。
「ジャスパー!王宮内に生き残りはいないという報告だったな!」
僕の声を聞きジャスパーは下を向く。
「は……残念ながら。」
「錬金術師のエリクシールは?いや…死体の数は確認したのか?」
「いえ。部下からの報告は《生きている者はいない》というだけでしたので。」
僕は医務室を飛び出した。
エリクシール。漆黒の髪をした美しい女。
いつからユグドラシルに仕えているのかはわからない。
しかし年老いることをしないその女は宮廷内で《魔女》と噂されていた。
そしてその女こそ、錬金術によりイズンのリンゴを生み出した張本人なのである。
もしその女が拐われたとなれば、イズンのリンゴが敵に渡ったも同然となる。
イズンのリンゴの作り方はエリクシールしか知らない。
知らないどころか、僕ですらイズンのリンゴを作ったのはエリクシールだと王女に聞いたくらいの情報なのだ。
しかしエリクシールは忠誠心で我が国に使えていた訳ではないだろう。
普段は研究室に籠りきり。
たまに出てきたとしても王女に謁見するわけでもなく、何を考えているかわからない女であった。
僕は宮廷地下にある研究所前に辿り着き、そしてドアを開けた。
研究所の中は荒らされた様子すらない。
分厚い本は開かれており、紫色の不気味な液体は火に掛けられたままだ。
エリクシール。
その女の姿だけが、失われていた。
僕は振り向き声を出す。
「ジャスパー!王宮騎士団を使いエリクシールを探せ!今すぐにだ!」
それは仮の王女となった僕の発した初めての命令だったのだが、その命令が果たされる事はなかった。
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