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背徳の勇者編2

フェンリルとヘルには尻尾があります。


初登場の時に尻尾の事をうっかり書き忘れていました。



しかしここはどこだ…。


見覚えがある気はするんだけど…。


光の届かない程の深い森…そして甘い香り。


(−!!)


俺は思わず両手で鼻を塞ぐ。


この甘い香りは紫雨の(しうのもり)で嗅いだものだ。


俺の様子を見たフェンリルが人差し指をピンッと伸ばして、胸を張り、得意気に話しかけてきた。



「香りの元はセドが降らせる雨が原因なんだって。この香りに誘われて魔物が集まってくるんだ。だから湖の水は飲んじゃいけないんだよ。」


(…?説明がイマイチわからない)


「…魔物を集めてどうするの?どうして湖の水は飲んじゃダメなの?」


俺は再度質問をしなおす。


「えっと…えへへー。なんだっけ?教えてブラッドー!!」


俺の問いに答えられなくなったフェンリルはブラッドに助けを求める。


しかし改めて見ると、フェンリルもまだまだ子供だな。(ヘル)もだけど。


そんなやり取りを眺めていたブラッドは、やれやれという表情を見せつつも、俺達に説明する。


「セドは紫色の雨という形でこの森を支配しているんだ。特に魔力の濃度が濃いのはこの森の湖。フェンリル。ヘル。喉が渇いても、ここの湖水は飲んじゃいけないよ。」



「飲むとどうなるの?」


「セドの魔力が体内に入り、強い力が手に入る。しかし、セドの傀儡(かいらい)にされてしまうよ。」



ミネヴァが暴走したのはセドの魔力のせいだったのか…。


吐かせて正解だった。



あれ?でもブラッドってセドの仲間じゃないのか?


フェンリルとヘルだけはセドの傀儡にさせたくないという事なのか?

さっきも「無理はしちゃいけない」とか言ってたしな。


ブラッドと銀狼一族との間にはなにかがありそうだ。


「それよりさー。お腹すかない?」


フェンリルが話しかけてくる。


そういえばお腹ペコペコだ。


「狩りしよっか?」


なんというか、コンビニ行こっかくらいのノリで言われたが、俺もお腹すいているし、ヘルの体を動かしてみたいと思っているのでちょうど良い。


フェンリルは既に四つ足に構えて銀色の尾をユラユラ動かしている。


俺もフェンリルの真似をして四つん這いに構えた。


「いくよっ!!」


フェンリルに促されて俺も飛び出す。


その刹那、遠くに見えてたハズの木の幹が目の前に現れた!!


《ゴツンッ!!》


(痛ってぇ!!)


顔面を強打した俺は顔を抑える。


「あははー。ヘルちゃんのドジー!!」


フェンリルがこちらを見て笑っている。



目の前に木が現れる魔法でも使われたかと思ったがどうやら違うようだ。



「…プ。クク」


笑いを堪える声が聞こえた方を見てみるとブラッドが肩を震わせている。


もしかしてヘルは一足飛びでこの距離を駆け抜けたのか?

ってかブラッドも笑うんだな!!チクショウ。


「ヘルちゃん病み上がりだから、私がヘルちゃんのペースに合わせるね。」


フェンリルが俺の速度に合わせて走り始めた。


しかしこの体は凄い。ハイスペック過ぎるかもしれない。


こんなに移動速度が早いとは。


感覚で言えば、普通免許でF1マシンに乗るような物だろうか。


俺はおそるおそる走り出すのだが、凄まじい早さで景色が流れていく。


(ん……この先に何かいるぞ)


俺は鼻をヒクヒクさせた。


森の甘い香りに紛れ獣臭が混じっている。


俺は徐々に速度を上げて、獲物との距離を詰めていく。



(いた!!)


獲物を目視できる距離まで詰めた。


視線の先には猪がいる。


小声でフェンリルが話しかけてきた。


「大物だねー。おいしそう!」


うん。


おいしそうだ。


でかいけど。



体長5メートルはあろうか。


魔獣の住む森に住み着くくらいだから、この猪も危険だろう。


「ヘルちゃん。猪の突進は正面から絶対に受けちゃダメだよ。怪我するからね。」


フェンリルの指示を受け風下に回り込む。


《首を咬みきるぞ大作戦》とか言ってたけど大丈夫だろうか?


あの首が咬み切れるとは到底思えないけど。


俺の心配をよそにフェンリルが飛び出した!



猪の右後方から飛び出したフェンリルは猪が気づく前に首に咬みつく。


その牙の鋭さは凄まじく猪の首肉を拳大程咬みちぎった!


(凄い!)


フェンリルはこちらに向かい朗らかに手を振っている。


「ヘルちゃん見たー?カッコイイしょー。」


いや。まずいだろ。


猪の首を拳大程飛ばしたからといって、5メートル級の猪は止まらない。


俺は慌てて飛び出し猪の首に咬みつく。


その牙の鋭さと咬筋力は凄まじく、肉がまるでショートケーキのような柔らかさであった。


俺も拳大程咬みちぎったのだが、猪は止まらない。


フェンリルに向かい突進する。


まさに猪突猛進。凄まじい勢いだ。


「ちょっ!あぶっ」


フェンリルは慌てて飛び退く。


《ドスゥン》


猪は鈍い音を立てながら大木に激突した。


(お。この流れは猪、気絶か)


《メキメキメキメキ》


気絶どころか、大木をへし折っった。


猪はブルンブルンと頭を振りこちらへ向きを変える。



さてどうするか。


こちらが考える間もなくフェンリルは飛び出し猪の首にしがみつく。


「次はこーれーだー!」


フェンリルは鋭い爪をギラリと光らせ深々と猪に深々と突き刺す。


あどけなく見えるけど怖い少女である。



猪はフェンリルを振り落とそうと暴れまわるが、まるでロデオのように軽やかに乗り回す。


「ヘルちゃんも早くー!」


フェンリルに呼ばれて俺も再び飛びかかる。


爪で猪の首めがけ深々と突き刺す。


それすらお構いなしにと走り出した猪は壁のように聳え立つ巨大な岩に向かい突進する。


俺たちを押し潰す気であろうか。


「ヘルちゃん!飛び降りるよ!」


「うん!」


危険を感じた俺達は猪から飛び降りた。


《ドウウウウウン》


猪は腹に響く音を立て岩に激突したが、振り返ると再びこちらと対峙する。


まさか猪がここまで強いとは。


「およ?猪の足元怪しいぞ。」


猪は突然、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


岩に激突した衝撃で気絶したのか?それとも絶命したのか?


俺達は警戒しながら近付いていく。


呼吸音が聞こえないところを見ると絶命したようだ。



食事を摂るためとは言え、命を奪った罪悪感に襲われながらも、俺は手を合わせる。



そして目を開け横を見ると、フェンリルは俺の真似をして猪に向けて手を合わせていた。



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