戦いの後
《うぅ……痛い……痛いよ……》
闘技場のあちこちにから呻き声が聞こえてくる。
「おいっ!医療部隊こっちに来てくれ!」
あちこちで怒号にも似たような指示が飛び交っていた。
俺も駆け回り甦生呪文をかけていく。
かけていくのだが……。
そこで俺は甦生呪文が万能でない事を知る。
完全に事切れている者には効かなかったのだ。
救えた者は確かにいた。
だがこのフロアにいたであろう王族や貴族等、殆どの者達は救う事が出来なかったのである。
そんな血の臭いで噎せ返るような観覧席の中でミントは王女の骸の前に立っていた。
後ろから見たミントの肩は震えていたのだが、その震えは、怒りからきている物なのか悲しみに震えているものなのかは判らない。
俺はミントの肩に手を置く事しか出来なかった。
それにしても今回の計画はいつから仕組まれていたのだろうか…。
だが相手からすれば、この闘技大会は格好の的だったのは確かであろう。
闘技大会は王都ユグドラシルの国力と武力を示すものでもあった。
ならば王族だけでなく、衛星都市の有力者迄もが呼ばれていたのではないか。
この空間に為政者や眷属が集まっていたのだ。
そしてその警備を司っていた王宮騎士団隊長が敵の手の者だったのである。
情報は完全に筒抜けだったろう。
さらに白狼隊長自身が相手の奥の手だったのだろうから手の打ちようもなかったであろう。
そんな事を考えていると、一人の伝達兵が飛び込んできた。
「王宮内壊滅!!」
「なんだと!?生き残りはいないのか?」
伝達兵は躊躇しながらも応える。
「…残念ながら」
「−!!」
ジャスパーは愕然として立ち尽くしている。
やはり今回の目的は王都ユグドラシルを麻痺させる事だったのだろうか?
完全に為政者狙いに思えた。
混乱が収まらない中、意を決したようにジャスパーが近付いてきた。
「お人払いもせず申し訳ありません。本来、段階を踏むべきでありますが、時がありません。勇者ミント様…いや。公女ミント様。今後は王都ユグドラシルを貴女様に治めて頂きたく存じます。」
え ! ミントって公女様なのか!?
ミントは困ったような顔をしている。
「今、まさに王都ユグドラシル存亡の危機なのです。どうか!どうか!」
ジャスパーは頭を下げたままだ。
それを見たミントは意を決したように口を開いた。
「仕方ない。今は僕しかいないのならばやるしかないだろう。……しかし条件がある。」
その言葉を聞きジャスパーは顔を上げた。
「条件とは?」
「私には双子の妹がいるのは知っているだろう。旅に出ているハズだが、それを探してもらいたい。そして妹の方が王女に相応しければ妹に継いでもらおうと思う」
「いや…私はミント様に継いで戴きたく」
「僕は勇者だ。勇者は勇者の仕事がある。それを曲げて願いを聞くのだからそちらも理解せよ」
ジャスパーは唸っていたが渋々了承したようだ。
「では妹君を捜させていただきます。」
「それともうひとつ」
「はい。」
「これより南にあるオークの村と正式に国交を結べ。向こうは了承してくれるハズだ」
ジャスパーは驚きの表情を浮かべて固まっている。
「ま…魔物と国交を結ぶなど…!」
「僕は暫くオーク村に滞在していたんだ。そこで多くの事を学ばせてもらった。さっきジャスパー隊長が食べたトウモロコシもオーク村特産だし、傷を治してくれたジェードもオーク村の者だぞ」
「な……」
ジャスパーは目を白黒させている。
「その条件が飲めなければ僕は王女はやらない。」
ミントは俺に向かい微笑んだ。
(馬鹿野郎…ミント…目、真っ赤じゃないか。こんな時に俺達に気を使うなんて…)
俺は胸が熱くなる。
しかしまさかこんな形で国交が結ばれるとは思わなかった。
その様子を見て、ジャスパーは観念したように言葉を絞り出す。
「わかりました。私の尊敬するミント様のお言葉ですからオーク村の事も確かでありましょう。後日、そのように国内に触れを出します。」
「よし!俺も復興の為にミントの手伝いをするぞ!」
俺はミントの手を握る。
ミントは照れ臭そうに笑顔を見せた。
その時、俺の左目にノイズが走る。
いや。ジェードの目ではなく、俺の脳が認識しているのか?
暫くノイズが走った後声が聞こえてくる。
「ヘル…ヘル……大丈夫?」
「今は寝かしておきなさい。傷に障る。」
聞き覚えのある声だ。
いや…まさか…
俺は意識を集中していく。
まるで警備室で監視カメラを見ているようだ。
2つの映像が流れ込んでくる。
《ズキンッ!!》
激しい頭痛が俺を襲う。
しかし今、繋がなければならない気がした。
痛みに耐え意識を集中していき目を開く。
そこには先程戦ったハズのブラッドとフェンリルがいたのだ。
これにて題一部ジェード編は一休み。
続いて第二部「背徳の勇者編」にが始まります。
引き続きお付き合い戴けましたら幸いに思います。
御意見御感想ありましたらよろしくお願いいたします。




