勇者
《うぅ…》
俺は眠りから覚めた。
負けた…のか。
異世界に来ると《俺TEEEEEE!!》になると聞くが、どうやら《俺YOEEEEEEE!!》である。
今だ指先が痺れている。
掌に魔力を集中し、自分自身に回復呪文をかけた。
ミネヴァもロンベールもミントも俺を心配そうに覗きこんでいる。
…ん?ミントも?
「ミント。試合は今からか?」
「何を言っている。既に終った」
「え!!?」
あまりに早い。
俺は人生で初めて気絶したのだが、気絶ってそんなに長く意識を失うものなのか?
「いや。5分くらいじゃないか?」
ミントが答える。
え!!?だって、俺が気絶して…ピエロがコールして…あれ?
「旦那。勇者様の戦いは数秒だったんですぜ!!」
ロンベールが興奮して話しかけてくる。
まさか…
あの傭兵だって予選通ってきた強者だろうに。
ちらりと控え室の奥を見ると、一人の男が寝かされていた。
傭兵シェルである。
俺はシェルに近付き甦生呪文を唱える。
「ジェードさんって言うんですか!!?ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
うむ。
この件はもういい。
どうやって倒したのかと聞くと、皆、口を揃えて見えなかったと言う。
ミントですら「見えなかった」と言う始末。
しかしやっぱりミント強いな。
俺が倒れた後、優勝候補はミントだろうか?
しかしこれで準決勝の組合せは決まった。
ミネヴァVSロンベール
ミントVSジャスパー
うむ。
ある意味、身内最強決定戦なのだが…。
身内で準決勝出られなかったの俺だけじゃないか。
なんてこった。
しかしなぜ8人勢揃いなのだろうか? 試合は?
「旦那。準決勝迄のインターバルに3時間程休憩入ったんでさ。選手用に食事の用意もしてあるらしいス」
「ジェード。まだか?早く食事行くぞ」
うん。
ミント、めっちゃソワソワしてるよね。
ソワソワって文字が見えそうなソワソワは初めて見たよ。
「おう!!目覚ましたか!!悪かったな。やり過ぎちまった!!」
黒い鎧の男が覗き込んでくる。
ジャスパーである。
コイツホントに強かったな。
「睨むなよ。また機会あったらやりあおうぜ」と握手を求めてきたので俺は力一杯握り締めてやった。
「いてててて」と、おどけて見せながらも、俺の手を引っ張り起こしてくれた。
「戦いが楽しかったのはマジだぜ!!またやろう!!」
再び握手を交わす。
ジャスパーもなかなか気持ちのよい男である。
俺達は誰の戦いが凄かったとか、あの技はどうやるんだなどと言いながら選手用食堂に向かう。
そういえば朝から何も食べていない。
焼きトウモロコシは売れているだろうか?
食堂に着くと、ミントは既に着席していた。
早い。早いよミント。
ガチの食いしん坊である。
お酒もあるが、さすがに誰も呑まない。
大男は酒瓶チラチラ見てるが、我慢だよアゲード。
空気読んでいこうぜ!!ドンマーイ。
しかし和気あいあいとしているな。
初戦で負けた俺達は仕方ないが、この後戦う四人ですらリラックスしているのだ。
こういうメリハリができる者が本当に強い者なのかもしれない。
まだまだ食後の会話は盛り上がっているが、俺は一旦席を外す。
トウモロコシの売れ行きが気になるのだ。
選手用入り口の衛兵に声をかけ、外に出させてもらう。
サイン攻めにでも合うかと思ったが、問題なさそうで少しガッカリだ。
まあ完敗だったからな。
俺はアンバーの屋台に向かう。
いい香りだ。
予想以上の売れ行きじゃないのか?
選手とはいえ俺はきちんと行列にならぶ。
そんな俺に気づいたのか声をかけてくる者がいた。
(ファンか?)
振り向いたらオッサンガーネット…いや。名工ガーネットが手を振り近付いてくる。
「旦那!!残念でしたね…。まぁ相手が悪かったかな」
「あぁ…。強かった」
行列に並びながら会話をする。
まさか横入りするわけではなかろうな?
それはダメだよガーネット。
「そうそう旦那!!ロンベールのヤツにガツンと言っといてくださいよ!!やりすぎだって」
そう。タイミングの良いフリである。
俺もなぜあんなにロンベールが強いのか聞きたかったのだ。
オッサンTUEEEEである。
「あれ?あいつ言ってなかったスか?俺もあいつも昔は勇者様と旅してたんですよ」
「はあ!!!!?」
まさか勇者のお仲間…?ミントの?
「勇者様と言っても先代のですわ。うちの村出身の勇者で俺達と幼馴染みのヤツなんでさ」
「そうなのか?では先代勇者は…」
もしやロンベールと《愉快な仲間達》の一人か?
ガーネットも愉快な仲間達だったし。
「いや。20数年前から行方不明なんでさ。なんか思い詰めたツラはしてたけど、俺等に相談もしねえで…。」
「…悪い。無神経に聞いてしまった」
「いいんでさ。あいつは潔癖過ぎたんで」
「潔癖?」
「いや。旦那には関係ない話でした。ロンベールのヤツにガツンと頼みますぜ!!じゃあ応援席に戻りますんで!!」
…行ってしまった。
しかしロンベールもガーネットも勇者の仲間だったとは。
人に歴史ありである。
もしかしたらガーネットも戦士とかだったんじゃないか?
武器の扱い詳しいし。
ロンベールは金に目が眩んだようにしか見えなかったが、意外と凄いオッサン達である。
「ジェード様いらっしゃいませ!!」
会話している間に俺の番になっていた。
トウモロコシを8本頼む。
アンバーに焼きモロコシの売れ行きを聞こうと思ったがやめた。
忙しそうで声をかける雰囲気ではなかったし、売れ行きはこの行列でわかるものだ。
「じゃあまた」と声をかけ屋台から離れる。
食事したばかりだが、この香りで再び空腹感が現れてくる。
好きなものは別腹とはよく言ったものだ。
「ジェードー!!」
今日はよく話し掛けられる日だ。
あまり知り合いは多くないハズなのだが。
そな声の主は小さな女の子であった。
俺のズボンを小さくつまんでいる。
「ジェード。お腹痛くなかった?」
「あ…あぁ。大丈夫だよ」
(ジャスパーに腹を叩かれた事を言ってるのかな?)
「そっか。でもおまじない。私もお母さんによくやってもらうんだー」
そう言うと、少女は小さな手で、俺の腹を撫で「痛いの痛いの飛んでけー」とおまじないをかけてくれた
「じゃーねー!!また頑張ってねー!!」
痛いの痛いの飛んでけが異世界にあるのにも驚いたが、エルフとはいえ魔物に近付いてくる少女がいた事に驚いた。
お腹に神経を集中すると、まだ温もりが残っている。
俺の小さなファンだろうか?
気持ちの切り替えができた俺は控室に向かう
さあ!!応援頑張るか!!
いつも読んでいただき誠にありがとうございます。




