ちっぱい 2
気がつくと、辺りはもう暗くなってた。
おかしいな、ついさっき家を出た気がするんだけど。
ぼーっとしてたのかな、何か変な気分。
時間をどこかに落としてきた、そんな感じ。
玄関のドアを開けた瞬間に香る、スパイシーないい匂い。
今日の晩御飯はカレーみたい。私の大好きな物の一つ。
「ただいまー」
いつもより一つ多いお帰りの声。
「楓。悪いんだけど皿準備してくれないか」
「はーい」
いつもより一つ多い食器。
「ん~。旨そうな匂いがするな! 匂いを嗅いでいるだけで唾が出てくるぞ」
「もう出来るから座って待ってろ。楓もな」
お兄ちゃんにお皿を渡し、テーブルにつく。
「なぁ楓。この料理は何と言う名前なのだ?」
「これはカレーライスって言うんだよ。苦手な人はほとんどいないんじゃないかな? 有名な料理だよ」
目の前にお皿が置かれる。お肉も野菜もいっぱい入った、大好きなお兄ちゃんのカレーライス。
「おお、かれーらいすと言うのか。この香り、近くで嗅ぐと一段と食欲をそそる。ではいただくとしよう!」
「いただきまーす」
「むむむ! 何だこれは! 今まで食べた料理の中でも一番、間違いなく一番旨い! こんなものがこの世にあるとは! うまい!うまい!」
「おおげさな奴だな。そんなに急いで食べるなよ、火傷するぞ」
うん、おいしい。セラルナちゃんは少しおおげさかもしれないけど、私もお兄ちゃんのカレー、世界一美味しいって思ってるよ。
今日はお腹いっぱい食べよう。お兄ちゃんの作った、私の大好きなカレーライス。
「おかわり!」
夕食を終えて、部屋のベッドでゴロゴロする。
ちょっと食べ過ぎたかも、お腹苦しい。
「楓、悪いんだけど先に風呂入ってくれないか」
突然部屋のドアが開く。お兄ちゃんだ。
「もう、ノックしてっていつも言ってるでしょ!」
何度も言ってるのにいつもすぐ忘れる。デリカシーっていうものがお兄ちゃんには無いのかな、こういうところはちょっと嫌い。
「ああ、悪い悪い。ってか飯食ってすぐ横になると牛になるぞ」
「横になったほうが消化にいいんです! その考え古臭いよ」
「そうなのか? でも良く言ってただろ親父――くっ!」
「お兄ちゃん!? どうしたの!?」
胸を押さえて苦しそうにうずくまる。この前と同じだ。
「待っててね! 今セラルナちゃん呼んで――」
その時、お兄ちゃんに強く肩を掴まれた。
「どうしたの?おに――きゃっ!」
そのままベッドに倒される。苦しそうに肩で息をして。
目が怖い、お兄ちゃんじゃないみたいな。獣の様な顔。
「ねぇ……。お兄ちゃん怖いよ……。やめてよ……」
私の言葉は届いていないようだった。
キャミソール一枚の上半身に覆いかぶさるようにして、お兄ちゃんの顔がせまる。
私の首筋から、胸元、腋の下と匂いを嗅ぐように。
嫌だ、まだお風呂入ってないのに。匂わないかな、恥ずかしい。
顔が赤くなっていくのがわかる。
「くっ! か、えで。ごめ……」
お兄ちゃん、苦しいんだ。辛いんだ。
わざとじゃない、それはお兄ちゃんの顔からはっきりわかった。
辛そうに顔をそむけて、それでも身体は求めてる。
「お兄ちゃん……。大丈夫だよ……」
胸に感じるお兄ちゃんの吐息。くすぐる鼻の感触。
くすぐったい、とは少し違うような。思わず声が漏れる。
恥ずかしい、恥ずかしいけど――。
「さかっておるな」
ドアの前、セラルナちゃんが立っていた。
「せっ、セラルナちゃん!」
ゆっくりとこっちに近づき、私の上に乗ったお兄ちゃんを抱きしめる。
「すまんな。怖い思いをしただろ?」
「うっ、ううん! 大丈夫だよ! ちょっとびっくりしたけど!」
声が裏返った。やだ恥ずかしい。
セラルナちゃんの胸の中、呼吸が落ち着いてきたお兄ちゃん。
すごい気持ちよさそう。なんだろ、ちょっと羨ましい。
「ありがとう。もう大丈夫だ……。悪かったな楓、びっくりしただろ?」
「大丈夫だよ。別になんともないし」
うん、大丈夫。でも、ドキドキしてる。
さっき、お兄ちゃんならいいやって思っちゃった。
何がいいのかは分からないけど、何となく、いいかなって。
「ふぅ、やっぱり風呂はいいな、疲れが吹き飛んでいくようだ」
二人で浴槽に入ってると、何か姉妹みたいな感じがする。
小さい頃はお兄ちゃんともよく入ってたな。流石にいまは無理だけど。
それにしても可愛い身体。胸も小さいし。
「ん? 余の胸が気になるのか?」
そう言って胸を寄せる仕草をするけど、全くと言っていいほど無い。
「む、今お前笑っただろ。余の胸を見て笑ったな!」
「そっ、そんなことないよ」
「余の真の姿はこんなものじゃないぞ、楓の十倍はある」
「十倍!?」
確かに私はそんなに大きくないけど。十倍って、十倍って。
「胸を大きくする方法、教えてやろうか?」
「あるの!? 教えて教えて!」
「よし、では後ろを向くがいい」
「こうかな? ひゃっ!?」
後ろから胸を掴まれた。やだ、何か触り方がすごくエッチだよ。
「おっ、中々感度は悪くないようだな。先程もいい声で鳴いておったしな」
聞かれてたんだ、恥ずかしい。
「んっ。ホントにっ、これでおおきくなるの……?」
「さぁ、どうだろうな」
「あっ騙したな! えい!」
「ふふふ、この大魔王に向かっていい度胸だ。それ!」
小さな大魔王と私の戦いが始まった。
「そんなになるまで何やってたんだよ、二人して」
「う~。頭が熱いのだ~」
のぼせちゃいました。全身が熱いです。
「ほら、アイスでも食えよ」
「あ、ありがとう。そういえば私はセラルナちゃんに近づいてもなんともないけど、大丈夫なのかな?」
「ああ、女には効かないみたいなんだ。だから安心していいぞ。ほらセラルナ、アイスだぞ」
「おお悪いな。まぁ効かぬには効かぬが、余の匂いがついてしまうことはある。さっきお前が妹に襲い掛かったのも余の匂いがうつっていたからであろう。身体に害はないが、兄に貞操を奪われぬように気をつけることだ」
そうなんだ。だからさっきお兄ちゃんは私に、何か残念。
あれ? どうして残念だなんて思うんだろう。やっぱ今日は何か変だ。
「じゃあ僕も風呂入ってこようかな」
お兄ちゃんの背中を見ながら、いつもより今日は早く寝よう。そう思った。




