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ちっぱい 1

 八月五日。気持ちのいい目覚め、とは言えない。

 朝だっていうのに、どんよりとした空。今日は雨が降るのかなぁ。

 ベッドから起きて、1階のリビングに向かう。

 テレビの前には一人の女の子。

「おお、おはよう楓」

「セラルナちゃんおはよ」

 第七十七代大魔王。セラルナ・スト……。なんだっけ。

 異世界から来た魔王様。本当はもう一人、一匹かな? 白猫の側近さんがいるんだけど、魔界に帰ったみたい。

 嘘みたいな本当の話。誰かに言っても絶対信じないと思うから言わないけど。

 いくら中ニだからって、自分から黒歴史を作るほど子供じゃない。


「おはよう楓。そろそろできるから歯磨いて来い」

 キッチンで朝ごはんの準備をしてるのが私のお兄ちゃん。

 たまに寝坊することはあるけど、いつも私より早く起きて朝食の支度をしてる。

 三年前からずっと。


 顔を洗い、歯を磨いて戻ると、テーブルの上にはちゃんとご飯が用意されている。

 目玉焼きとウインナー、サラダにお味噌汁。

 シンプルだけど、私の一番大好きな朝ご飯。

 お父さんとお母さんが事故で死んじゃって、まだ小学生だった私は毎日毎日泣いてばっかりいた。

 親戚のおばちゃんのご飯も、買ってきたご飯も食べなかった私に、お兄ちゃんが初めて作ってくれた朝御飯が目玉焼きとウインナー。

 目玉は飛び出てたし、ウインナーも真っ黒こげだったけど嬉しかった。

 それから毎日ご飯を作ってくれて、今ではもう何でも作れる。

 優しくて、かっこいいお兄ちゃん。


「おかわり!」

「しかしセラルナはよく食べるな。楓もおかわりするか?」

「しないよ。太ったらやだもん」

「楓もそんなこと気にする歳になったのか。少し前まではおかわりおかわりって沢山食べてくれたんだけどな」

 私だっていつまでも子供じゃない。

 そりゃあお兄ちゃんのご飯は美味しいけど。あんまり沢山食べる姿、見せたくないんだ。


「やー! とー! くそっ、このっ! あああああっ!」

 食後のテレビゲームに熱中するセラルナちゃん。動きがいちいち可愛いな。

 こんなに家が賑やかなのは久しぶり。なんとなく楽しい。

 どうして異世界から来た大魔王が家にいるのか、それは初めてセラルナちゃんが家に来たときの事。


 公園で倒れていたセラルナちゃんをお兄ちゃんが家に連れてきた。

 その時にお兄ちゃんが抱きかかえたのがいけなかったみたい。

 魔王の魔力。それは人間にとって毒みたいなものらしく、近づきすぎたお兄ちゃんはそれにやられちゃったとか。

 そんなお兄ちゃんを助けるために、セラルナちゃんは自分の涎を。このシーンはすごくエッチだったなぁ。ちょっとドキドキしちゃった。

 でもそのせいで、慣れるまで定期的に唾液を摂取しなきゃダメになっちゃったらしい。匂いでもいいみたい。

 だから慣れるまでウチにいるって事になった。

 何か、家族が増えたみたいで嬉しい。

 

 しばらくすると雨が降ってきた。やっぱりかって感じだけど、こうなっちゃうと遊びにも行けないからなぁ。

「楓~。これ見たいんだが、どうやって使うものなんだ?」

 セラルナちゃんの手にはアニメのBDが握られている。

「これはね、こうやって――」

「おー。でも凄いな。仕組みが全く分からんぞ。全くでんきというものは便利だな、是非魔界にも持ち帰りたいものだ」

 そっか、魔界には電気がないんだ。

 でも魔界ってどういう所なのかな。ゲームとかアニメの世界とあんまり変わらないのかな。

 セラルナちゃんや側近さんを見ていると、そんなに怖そうなとこじゃない気もする。


 何本かアニメを見ると、いつのまにかもうお昼になっていた。

 お昼ご飯を食べて、またアニメを見る。

 雨の日は本当に退屈。

 一日はこうして終わっていくんだろうな。


――あれ? ここはどこだろう?

 空が暗い。あの赤いのは月? かな。

 さっきまで家にいて、アニメを見てたはずなんだけど。

 何だろう、すごく不安だよ。お兄ちゃん、お兄ちゃん何処にいるの?

 誰かいる。あれは誰だろう、知らない人。

 誰かと話してる? あれはお兄ちゃん? お兄ちゃんだ。

 お兄ちゃん、何でそんな怖い顔してるの? 

 あれは剣? どうしてお兄ちゃんが剣なんか。

 嫌だよ。怖いよ。そっちに行っちゃダメだよお兄ちゃん。

 お兄ちゃん――。


 夢? いつの間にか寝ちゃってたみたい。何だろう、すごくリアルで嫌な夢。

 あの人、どこかで見たことあるような気がするんだけど……。

 ううん。夢の事なんて考えても仕方ないよね。

 もう四時か。雨も止んだみたいだし、ちょっと散歩でもしてこよう。

 何となく、家に居たくない気がした。


 雨で濡れたアスファルトの匂い、嫌いじゃない。

 水溜りを避けながら、近くの公園に。

 そういえばセラルナちゃんを見つけたのはこの公園だって言ってたな。

 異世界に繋がる公園、この滑り台を下りた先は、知らない世界。

 なんてね。でもそんなことを考えると少し楽しい。

 

 あれ? あの女の人、昨日も見たような気がする。

 綺麗な人だな、胸も大きいし。

 やっぱ胸大きい方がいいのかなぁ。

 揉めば大きくなるとかって聞いたけど、ホントに大きくなるんだったらおに――。

 やだ、私何考えてるんだろ。あぶないあぶない。

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