別れ、家族、そして旅立ち 6
「ま、まぁ――」
「死んじゃったの……?」
目に涙を浮かべて、楓が言った。
「具合悪そうだったもん! 何で帰ったの? ねぇ! 教えてよ!」
「ゆっ、勇士殿! まさか本当に!」
「違います!」
大きな声を上げたリリスさんに驚いたのは僕だけじゃない。
「勇士さんは、何も知らないんです。だから、もうその話はしないで……」
「リリスさんは知ってるの? じゃあ教えてよ、セラルナさんが帰った理由教えて!」
「楓、いいんだ。聞かなくていいこともある。だから僕も聞いてないんだ」
「なにそれ、おかしいじゃない。知ってるのに言わないのは嘘付いてるのと同じだよ! これから家族になる人が嘘付いてたらおかしいよ!」
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
「楓、やめろ」
「リリスさんお兄ちゃんの事好きなんでしょ!? セラルナさんに取られたくないから隠してるんだ! この前みたいに! お兄ちゃんを怪物みたいにして独り占めしようとしてるんでしょ!」
――パチン。と乾いた音がリビングに鳴り響く。
初めて、妹に手を上げた。
僕は、最低の兄だ。
「あっ、楓殿!」
何やってるんだよ。こんなはずじゃなかったのに。
もっと楽しくて、笑って。
「ちょっと、楓殿の様子を見てくるでござるよ」
「すいません。お願いします」
ミサキさんが二階に上がっていく。
静かなリビング、すれ違う想い。
僕が望んでた家族、なりたかった家族はこんなものじゃない。
「両親が死んでから、ずっと楓と二人だったんだけど、皆と出会ってからはあいつ毎日楽しそうでさ。このまま一緒に居れたらなって思ったんだ」
「あいつの楽しそうな顔、久しぶりに見て嬉しかったんだ。僕じゃあんな顔させてやれなかったから」
「家族だなんて簡単に言ったけど、やっぱり無理なのかな」
「無理じゃない!」
いつの間にか下りてきたミサキさんと楓。
楓はリリスさんに抱きつき、泣いた。
「ごめんなさい! 私、私そういうつもりじゃなくて! お兄ちゃんも居なくちゃうんじゃないかって! 怖くて、寂しくて! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ううん。いいよ。私こそごめんね、怖い思いをさせて」
楓を優しく慰めるリリスさんの姿。
僕はさっきの自分を思い出して、少し恥ずかしくなった。
「楓ちゃんの言う事、間違ってないんですよ」
テーブルに座り、少し落ち着いた頃にリリスさんが口を開いた。
「大魔王様に取られたくない、そう思ってる。でも、それだけじゃないんです。理由を言ってしまえば、多分楓ちゃんも辛い思いをする。楓ちゃんだけじゃない、私も、ミサキさんも。それに勇士さんも」
「リリス殿、セラルナ殿は病におかされている訳ではないのでござるな? 命に関わる話ではない。そう解釈してもよいでござるか?」
「はい、ご病気などではありません」
「それならそれでいいでござらんか。異国の地で元気にやってると思えば、もしかしたらまた会えるやもしれぬ」
そうか、そうだな。無理に忘れようとするから話がおかしくなるんだ。
セラルナは魔界で元気に生きている。それでいいじゃないか。
「でもやっぱり、私は理由を知りたいよ」
「もういいじゃないか。終わったんだ」
「だってそんな寂しそうなお兄ちゃん見たくないもん。絶対後悔すると思うよ、リリスさんもそうだと思う」
確かに、後悔しないと言えば嘘になる。
知らないままで居たほうが楽。裏を返せば、知って傷つくのか怖いって事だ。
結局、僕は目をそらすことしか出来ない。
「それにね、セラルナさんが玄関を出る時、別れが辛いって顔じゃなくて。もっとこう、何て言うか、助けてって感じの顔してた」
「そんな事ないよ。普通の顔だったよ」
「いやはやそうでござったか。拙者もあの表情には何か違和感を感じたでござる。楓殿の言葉でようやく分かったでござるよ。確かに、拙者もそう思うぞ」
そんな顔していたか? 寂しそうな雰囲気はあったけど。
「勇士さん、バンシーの実はまだありますか?」
「あ、どうだろう。持って行ったんじゃないかな。ちょっと見てみるよ」
リリスさんの言葉に、冷凍庫を覗く。
バンシーの実は入ったままだった。
「入ってる。忘れていったみたいだ」
「忘れていった、ですか」
そう言って、リリスさんが少し笑う。
「楓ちゃん達が感じたのは間違いではないのかもしれませんね。勇士さんは女心に少し鈍いようですし」
それを言われると辛い。だけど、どういう事だ。
「バンシーの実も、置いてったのかもしれませんよ。私を置いて帰ったのも、また理由があるのかもしれません」
「どういう事ですか? 意味が全く分かりませんけど」
リリスさんは真面目な顔で言った。
「全て話しましょう。それからどうするかは、勇士さんが決めてください――」




