乳 一本釣り 3
「遅かった、か」
「お兄ちゃん! どうしたの!?」
「楓様、それ以上近づいてはにゃりません。もう勇士様は――」
「あっ、あれがリリス殿の真の姿でござるか……?」
「貴様、精を吸ったな?」
黒い翼、大きな角、鋭い爪。ああ、これがアタシの姿だった。
あはは、あはは、あはははははははははははははははははははは。
「ど、どうしたというのだリリス殿! 様子がおかしいでござるよ!」
「無駄だ。あいつはもう、狂っておる」
「狂ってる? それはどういう意味でござるか!?」
「見てみろ、血の涙を流しておる。勇士を下僕にして、精を吸ったことに耐え切れぬほどの苦しみを抱いたのだろう。心では拒否しても、身体はそうはいかんのだよ。それが淫魔たる所以だ」
「罪の意識に精神が耐え切れなくなって崩壊したんだ。あいつはもうただの狂った魔族だ」
「そんな……。セラルナ殿!? 何をするおつもりか!」
「決まっておる。殺すしかない。あいつが下僕にされた今、関係が切れるのは主人が死んだ時だけだ」
「他に何かあるでござろう!? 側近殿! 何か他に策は無いのでござるか!?」
「残念ながら……。せらるにゃ様の言うとおりです……」
「くっ! リリス殿! 正気に戻るでござるよ! 勇士殿の事は皆で考えればよかろう! とりあえず落ち着いて、話をするでござるよ。大丈夫でござる。我々は仲間でござろう」
勇士……? 勇士さん……。大切な人、勇士さん勇士さん勇士さん勇士さん――。
「ミサキさん! はにゃれて下さい!」
「ぐああっ!」
「ミサキさん。大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」
「ほほう。片腕で端まで吹っ飛ばすとは、案外馬鹿力だな」
「勇士様の精はある意味せらるにゃ様の魔力。彼女はせらるにゃ様の魔力を吸収したのとおにゃじ様なものですからね。相当にゃ力を手にしたと考えたほうよろしいかと」
「な、なんのこれしき……」
「ミサキさん! 怪我してますよ! 動かないで下さい!」
「心配いらぬ……。拙者はまだまだ平気でござるよ」
「側近、楓と部屋の外に出ていろ、本気でいかねばちと不味いかもしれんからな。バンシーの実を持ってくるべきだったな。まぁ良い、行くぞ!」
殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる。
死ね、死ね、死ね、死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
「くっ、これ程まで強いとは……。余の魔力は素晴らしいな……」
「そ……そんな事を言って……いる場合ではない、でござるよ……っ。このままだと本当に殺されてしまうでござる……っ」
「ござるよ、お前もうボロボロじゃ……ないか……」
「きっ、貴殿も……大魔王のくせに……」
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死――。
頭が真っ白になって、両手は血に染まって。
我に返った時に見たもの――それは両手を大きく広げた彼の姿だった。
「ま、まさか……。信じられんぞ、下僕が自ら動くなど……」
どうして、アタシの目の前に貴方がいるの?
こんなアタシを見ないで! 見ないで! 見ないで!
「り、り、す……。だ、い、じょ、う、ぶ……」
どうして、どうしてこんなアタシを、この呪われた身体を抱きしめてくれるの。
何でそんなに優しい目をしてるの。
「しんぱ、い、ない、よ……」
「勇士さん……。勇士さん! 勇士さん! 勇士さん!」
アタシは、彼の名を叫んで泣いた。
いつまでも、彼の腕の中で。
「おお! 何でござるか! 傷が癒えていくでござる!」
アタシ達は、勇士さんの家に戻っていた。
バンシーの実を食べた大魔王様が、ミサキさんに回復魔法をかけている。
アタシの所為で、二人ともボロボロだった。
「ふふん。どうだごさる。余の力を甘く見るでない」
「先程まで半分死に掛けていたでござろう」
「おい、それを言うな。余はまだまだ戦えたぞ」
「大魔王様、ミサキさん。本当に申し訳ありません。この罪は命をもって償わさせて頂きます。どうか私を殺して下さい」
さっきあれだけ泣いたのに、また涙が出てきちゃった。
「そうだな。いくら狂っていたとは言え、貴様は余に歯向かったのだ。それが貴様の償いだと言うのなら殺してやろう」
「セラルナ殿! こうして頭を下げて詫びておろう! 拙者には魔族のしきたりなどは分からぬが、それはあんまりではござらんか!」
「いえ、ミサキさん。これは魔族の問題にございます。大魔王様に牙を向けてしまった以上、既に覚悟は出来ております」
そう、もう覚悟はしてる。アタシは許されない事をした。
それに、大切な人に抱いてもらって、もう思い残す事は何もないんだ。
「そんな……」
「貴様は殺す。ただし、それはそこで寝てる男が起きてからだ。最後の別れをさせてやる。そいつが起きて、殺しても良いと言ったら殺してやろう。それまではその命預けておく」
大魔王様は知っている。勇士さんが言うはずが無い事を。
知っていてわざとそんな事を。
「あっ、ありがとうございます……」
「礼を言うのはまだ早い。起きてみなきゃ分からんからな」
「何だかんだ言って、貴殿も優しいでござるな」
「うっ、うるさい! 余は大魔王であるぞ! 水でもぶっかけて早く起こさんか! 余はもう空腹で倒れそうだ!」
二度も命を救ってもらったことになるのかな。
一生この人の為に生きよう、一生この人の為に尽くそう。
私は今日、そう心に誓った。
「しかし不思議です。サキュバスの従僕にされて自我を取り戻せたにゃんて、今まで聞いたことありません」
「そんなにサキュバスというのは強力な力があるのでござるか?」
「うむ。魔王でさえ、その乳を吸うと虜になってしまうといわれておるからな。どれだけの魔力をもってしても淫魔の呪縛からは逃れられぬはずなんだが」
「人間である勇士様がにゃぜ。全く不思議ですね」
「しかし、いつまで経っても起きんな。ちょっと乳でも吸わせてみるか」
「な、何を突然言い出すでござるか。そんなことで起きるはずがないでござる」
「そんなものやってみなければ分からんではないか。このまま一生起きなくてもいいのか?」
「そ、それは嫌でござるが……」
「まぁ、ござるの乳では起きないから心配するな。お前のは旨くなさそうだしな」
「なっ、何を言うでござるか! そんなものやってみなければわからないでござる!」
「ふむ、じゃあこうしよう。皆で順番に乳をこいつの口に近づけるのだ、それで起きた者の乳が一番。それでよいな」
「面白い、受けてたつでござるよ」
「淫魔。お前もだぞ」
「えっ、でも私は……」
「心配ない。起きたら直ぐ離せば問題なかろう。楓は――三人でいいな」
「ちょ、ちょっと待ってよ。私もお兄ちゃんに早く起きて欲しいし!」
「ほう、お前の乳で起きるとでも思っているのか。冗談は乳だけにしとけよ」
「そ、そんなのやってみなきゃわかんないし!」
「おい側近。お前は何をしてるのだ」
「はい? 私は何もしてませんが」
「早く部屋から出て行かんか。それともお前は我らの乳を見たいと言うのか?」
「そっ、そんなことはありません! でっ、では先に下でお待ちしております」
「よし、皆服を脱いだな。では余が先行じゃ」
「す、すごいエッチな感じするんだけど」
「ほれ、ぱくっと来い。余の乳が好きだろう」
「む、セラルナ殿。少し長すぎでござろう。交代なされ」
「勇士殿、起きて下され。拙者の胸はあんなにだらしなくないでござるよ」
「あっ、貴様今ちょっと付けただろ! それは反則だぞ。交代だ」
「勇士さん、起きてください……」
「りっ、リリスさんも長くないですか! サキュバスなんだからハンデつけなきゃダメですよ!」
「楓のちっぱいじゃ届んぞ。次で余の勝利が見えたな」
「ちゃんと近づくもん! お兄ちゃん、起き――ひゃあっ!?」
「あっ」
「あっ」
「あっ」
「いっ、いっ、いっ、いやああああああああああああああ!」




