乳 一本釣り 2
いつの間にか寝てたみたい。
夕日って言うんだっけ、赤く染まる空。綺麗な色。
散歩がてら、晩御飯を買いに行こう。
空を見ながらのんびりするのもいい。
道を歩いてる途中、一台の車が目の前に止まった。
「すいませーん。おねえさんおねえさん、柳町通りってわかるかな? 俺達この街初めて来たから道に迷っちゃって」
柳町通りって言ったら、アタシがいつも立ってるあの通りだっけ。
「知ってますよ。何か書くものとかありますか?」
「あ~、今何にも無いんだよね。よかったら一緒に行ってくれるかな? 車乗ってさ」
別にいいか、用事があるわけでもないし。
「いいですよ。じゃあお邪魔します」
後ろにも人がいたんだ、四人か。ジロジロ見やがって、気持ちわりいな。
「次を右です。あ、右ですよ」
「あーごめんごめん。次曲がれそうなとこ曲がるよ」
ったく。ちゃんと聞いてろってんだよ。こっちは早く終わらせたいってのに。
おかしいな、どんどん離れてる気がするんだけど。柳町通りは逆じゃないか?
「あの、多分逆方向だと思うんですけど。一度止まってもらえますか?」
男達はニヤニヤ笑うだけで何も言わない。
しまった、罠だ。こいつら初めからアタシをさらうつもりで。
「ちょっと降ろしてもらえますか。おろし――」
「はいはいはい~。大丈夫だよ、大人しくしてくれれば怪我はさせないからさ。おい、ガムテで口塞げ」
くそっ、ふざけやがって。人間の分際で。
「いてっ、このクソガキ!」
「ぐふっ!」
「あー。リュウちゃん、女の子殴っちゃだめでしょう~」
「殴ってねーし。腹蹴っただけだし。オイそっち持て、手しばるぞ」
魔力さえあればこんなクズ共ぶっ殺してやるのに。くそっ、人間め。
「次暴れたらさくっといっちゃうよ。可愛い顔に傷が付くのは嫌だろう?」
ナイフか、殺される事はないと思うが。あーイライラする。
「ハイ到着~。ここなら誰にも邪魔されずゆっくりできるからねー」
廃病院か。随分手馴れてやがるなこいつら。
「ほらさっさと歩け。すぐ済むから大丈夫だよ、抵抗しなきゃ気持ちよくなれるんだからいいだろ」
下卑た笑い方。虫唾が走る。
「おいここらへんでいいだろ。早くやっちまおうぜ」
「よし、じゃあ俺からでいいか。この前お前だったから順番だろ」
「しょうがねぇな。中に出すなよきたねーから」
「へへ、わかってるよ。ほら、ガムテとってやるから大きな声出すんじゃねえぞ」
「やめてください! お願いします!」
「大丈夫だよ。すぐすむからよっ!」
服が破かれた。せっかく買った服、気に入ってたんだけどな。
臭い息。不細工な顔。これだから男は嫌いなんだよ、くそったれ。
性欲の為に女を襲うゴミ。人間のくせに、人間のくせに。
「静かになったな。たまんねぇぜ、すぐ気持ちよくなるからな」
「お願い、胸を吸って欲しいの。いきなりじゃ気持ちよくないから」
「こりゃあいい。お前も好きなんじゃねぇか。でけぇ胸しやがって、しょうがねぇからたっぷり舐めてやるよ」
気持ち悪い。胸を触るその手も、蛇の様に這い回る舌も、生暖かい唾液も。
「はぁ、はぁ、たまんねぇ……。たまんねぇ……」
「おい、あいつめっちゃ乳吸ってねぇか。マジウケんだけど」
今のうちに笑っていろ。クズ共が。
――さぁ殺して来い。そのナイフを奴らの首に刺すんだ。
「お? もう終わったのか? 乳吸ってイっちまったんじゃねえだろ――」
おお、噴水みたいだ。綺麗だねぇ。
「うああああああ! てめぇなにしてんだよお!」
――一人、二人、三人。まだ息があるよ、心臓を刺すんだよ。
――そうだ、いい子だね。アタシの腕のテープも切っておくれ。
――ありがとう、じゃあご褒美をあげようね。
「自分の心臓を刺しな」
「リリスさん!」
勇士さん? どうしてここへ?
「リリスさん! 大丈夫ですか?」
「ええ、何とか大丈夫です」
「立たなくていい。怖かったでしょう」
優しくアタシの肩を抱く。暖かい。
勇士さんアタシの胸見てる。ふふ、そんなに見――。
唾液だ。あの男の、あの人間の唾液。
拭かなきゃ。拭かなきゃ。拭かなきゃ。
汚い。汚い。汚い。汚い。汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い。
「リリスさん!」
あ、アタシどうしたんだろう。胸、赤くなってる……。
「ご、ごめんなさい、アタシ……」
「大丈夫、大丈夫ですよ」
そう言って、強く抱きしめる彼の腕はとても優しく、とても暖かかった。
「リ、リリスさん――」
しまった。アタシはついうっかり。
「はっ、離れてください勇士さん! このままじゃ!」
――目が堕ちている。
ああ、どうして。どうしてなの。
どうしてアタシは抱きしめてもらう事さえも許されないんだろう。
「い、いや……。勇士さん! やめて下さい!」
口をつけたら……。貴方まで……。
こんなに、切ない気持ちになったのは初めて。
まるで獣の様に胸を求める男を何人も見てきた。
不快感にまみれたその行為が、今はとても気持ちいい。
ああ、あんなに大きくなってる。私の為に、私の身体で。
ダメだ、もう身体が言う事聞かないよ。
どうしてアタシはサキュバスに生まれたんだろう。
どうしてこんなに涙が出るんだろう。
いっそ死んでしまえばいいのに。こんな呪われた身体――。




