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蛇でござる 5

「何を二人でこそこそと! ござる! 貴様も飲まんか!」

 真っ赤な顔をしたセラルナが、背後から突然現れてミサキさんの口に酒瓶を押し付ける。

 ちょっと待て、いつの間に酒なんて飲んでいたんだ。ってか酒なんて持ってきてないぞ。

「おい、お前どこから酒なんて持ってきたんだよ!」

「ん? レーゾーコに入っていたぞ」

 そういえばコテージの冷蔵庫に入っていたな。


「ってかお前、子供の癖に酒なんて飲んじゃダメじゃないか」

「余は子供じゃない! 大魔王様だぞ! ずがたかーい! ひかえおろー!」

 テレビで覚えたような言葉を口にする彼女は、完全に酔っ払っているように見える。

「お兄ちゃん……」

「どうした楓――っておい!」

 完全に目が据わっている。こいつまで酔っ払っているのかよ。


「側近! 何とかしてくれ――」

 皿を目の前に、腹を出してひっくり返っている白猫の姿がそこにはあった。

「す、すいません。ノンアルコールビール飲ませていたんですが、いつの間にか大魔王様が……」

――元凶は全てあいつか! 

 気がつくとミサキさんも赤い顔をしている。どうやら一本まるまる飲まされたらしい。

「セラルナ!いい加減――」

 口に触れる柔らかい感触、注ぎ込まれる冷たい液体。

 突然の事に、僕はただされるがままだった。

「特製の盃で飲む酒の味はどうだ? 格別だろう」

 口の端から雫を垂らしながら妖しく笑う彼女は、とても少女とは思えない妖艶な雰囲気で包まれていた。

「馬鹿。未成年に酒飲ませるなよな」

 既に半分眠りそうな楓と、完全に潰れている側近を連れてコテージに向かう。

 未成年の飲酒は法律で禁止されています。お酒は二十歳になってから。


 一人と一匹をベッドに放り投げ、外に戻る。

 そこには元の姿になった大きいセラルナと、リリスさん。そしてミサキさんが三人並んでいた。

 何だこの絵になるスリーショット。それぞれタイプが違うのがまたたまらない。

「おお、お前も早くこっちに来いよ」

「いつの間に大きくなったんだよ。ってか僕そっち行っても大丈夫か? 倒れたりしないよな?」

「子供の姿では酒が合わぬからな。さっき余の唾液を入れたから大丈夫だ、心配するな」

 そう言った彼女のコップの中には、バンシーの実が沈んでいた。


「さようであったか。それで貴殿らは共に暮らしておるのでござるな」

「うむ。余が居らんと死んでしまうからな。何ともかわいい奴だ」

「ちょっと待て、誰のせいだと思ってるんだよ」

「それにしても、魔族と人間、それに土地神ですか。何とも不思議な組み合わせですね」

「確かに、余は人間とろくに話しすらせんかったからな」

「セラルナ殿の世界では人とどのような関係を結んでいるでござるか?」

「関係などない。殺すか、殺されるか。それだけだ」

 セラルナの話を聞いて、少し驚き、そして軽い怒りのこもった声でミサキは言った。


「では罪もない人を殺めた事はあるか?」

 コップの中の実を転がすようにして、セラルアは海を眺めている。

「そんなもの、数え切れないほど殺したよ」

「――っ! 貴殿には心というものが無いのか!」

「お前は魚を殺すのに罪悪感を感じるのか? 感じぬだろう? いちいち感じていたら食う事など出来ぬからな」

「人と魚は――」

「違うとは言わせぬぞ。この世に生を受けるもの、それは人間も魔族も、魚や豚だって同じだ」

「人が魔族を殺すのに何も思わないように、魔族もまた同じ。我らは決して相容れぬ関係なのだよ。お前も分かるだろう?」

 セラルナの言葉に、ミサキさんは黙ってしまった。

 村を守っていたはずの守り神であった彼女は、村人に封じられたと言った。

 セラルナの話に、彼女にも思うところがあったのかもしれない。


「このちきうと言う世界は平和だ。だが日本以外の国では人間同士で殺し合いをしている場所もあると聞く。同族でさえ殺しあうのだ。異種間なら尚更だと思わないか?

人間は魔族を悪とし、善の為に戦う。余はその逆だ。視点を変えれば、どちらが善でどちらが悪など分からぬものよ」

 いつものセラルナとは別人のような彼女の言葉に、僕は深く考えさせられる。

 人とは、魔族とは一体何だろう。どうして争うのだろう。僕がいくら考えても答えなど出ないと言うのに。

 セラルナの横顔は、少し寂しげな感じがした。


「そろそろ休もうか。今日は少し疲れたし」

「そうですね。じゃあ私片付けます」

「そうだ、ミサキさんも良かったら泊まって行きませんか? まだベッド三つあるから丁度いいし」

「拙者もよろしいのでござるか?」

「どうせ一つ余っちゃうから。嫌じゃなければですけど」

「嫌だなんて滅相もないでござる。ありがたき幸せ。人の姿で床に就くのは久方ぶりでござるな。誠に勇士殿は優しい殿方にござるな」

 嬉しそうに笑うミサキさんの顔を見てると、何となく僕も嬉しくなった。


「女と見れば誰にでも優しくしおって。ござるよ、気をつけたほうがよいぞ。こいつは見境がないからな。この前も真昼間からあの淫魔の乳を吸おうとしていたんだ。魔族だろうが蛇だろうが関係ない。寝てる間にこいつの股間の蛇に襲われるかもしれんぞ」

「おい、人を色情魔みたいにいうのはよせ。ミサキさんが誤解するじゃないかよ」

「拙者は、随分封じられていたでござるから……。その、上手くできるかどうか……」

 恥ずかしそうに俯いて話す彼女に、僕だけでなくセラルナの目も点になったのは言うまでも無い。

 

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