蛇でござる 1
八月八日。僕達は海に向かう電車の中にいた。
「おおー。これは中々早い乗り物だな! 余のドラゴンよりずっと早いぞ!」
僕の隣で、セラルナが興奮気味に窓の外を流れる景色を見ている。ってかドラゴンって本当にいるのかよ。魔界、恐るべし。
「私まで呼んで頂いて、本当にありがとうございます」
「人が多いほうが楽しいと思ってね。こっちこそ来てくれてありがとうございます」
目の前に座る女性はこの前のサキュバス。リリスさんと言うらしい。
昨日側近から彼女の話を聞いて、それなら誘ってみようと昨日電話をかけた。
「本当に勇士様は心の広いお方――ふにゅっ!?」
「こら、側近さん喋っちゃダメでしょ。着くまでは大人しくしてて」
リリスさんの隣、楓がバッグの中に入っている側近に言った。
ってか今潰さなかったか、僕の見間違いじゃなければ。
こうして、四人と一匹。一泊二日の小旅行が始まった。
電車を降り、タクシーでしばらく走る。
到着したのは少し懐かしい、大きなコテージ。
もうずっと前に家族で来た、思い出の場所。
「これはなかなか良い所だな。褒めてやるぞ」
「はいはい、ありがとうございます大魔王様」
コテージに笑い声が響く。こんな賑やかなのは久しぶりだ。
「お兄ちゃん、私達が着替えてる間にこれ膨らませといて。側近さんもお外で待っててね」
女性陣のお着替えタイム。中が気になるのは健全な男子の証拠です。
浮き輪にボールにエアマットか、中々重労働だ。
「そういえば、魔族は海水浴とかしないのか?」
「基本的に魔族は水を嫌いますからね。海に棲む魔族は別にしても、あまりそのような事はしません」
「そうなのか。なぁ、魔界ってどういう所なんだ? そもそもそっちはどんな世界なんだ? 人間もいるんだろ?」
「世界ですか。そうですね、アニメに出てくる様にゃものだと思ってもらっても構わにゃいかもしれません。少し驚いている程ですよ。アニメに描かれている世界は、まるで我々の世界を知っているかのようですからね。人類の英知とは素晴らしいものです」
そうなのか。誰が最初に考えたのかは知らないけど、もしかしたらその人も魔界を見てきたのかもしれないな。
可能性はゼロじゃない。目の前に魔界から来た魔族が居るんだから、逆に魔界に行った人間が居てもおかしくない。
「私達の世界は、人間界と魔界に分かれています。地上に人間界、地下に魔界、という感じですね。地下といっても真下にあるわけではにゃいのですよ。空間の歪み、みたいなものがありましてね。上手く説明出来にゃいのは、まだ不確かな部分が多いんです」
「そっちの世界には魔法があるんだろ? じゃあ人間も魔法が使えるのか?」
「使えます、全ての人間が使えるわけではありませんが。ちなみに勇者もいます」
「勇者とか本当にいるんだ。まぁ魔王が居るんだからおかしくはないと思うけど、やっぱり勇者って強いのか?」
「ええ、神の加護を受けた勇者はとても強いです。先代の魔王様も勇者に倒されました」
親を勇者に殺された。それだけ聞いてしまうと、何だか可愛そうな気がした。
「じゃあセラルナも勇者と戦ったりするのか?」
「もう何人も倒していますよ。せらるにゃ様は勇者が大のお嫌いですからね。勇士様のにゃまえを呼ばにゃいのも、多分そのせいかと思います」
そうか、思い出した。セラルナは小さい『や』が苦手だった。
『ゆうしゃ』もセラルナが発音すれば『ゆうし』になってしまう。
だからセラルナは僕の名を呼ばないのか。
ちょっと待てよ? 何人も倒してる?
「なぁ、セラルナは一体今いくつなんだ?」
「女性の歳を聞くのは失礼ですよ勇士様」
側近はそういうと、何処かに歩いていった。気になる。すごい気になるじゃないか。
一通り空気を入れ終わった頃、コテージのドアが開いた。
「お待たせ。ちゃんと入れてくれたんだね、ありがとう」
淡いブルーのビキニ、発展途上の身体。我が妹ながら中々の逸材だ。将来が楽しみじゃないか。
「昨日急いで買いに行ったんで、あんまり選べなかったんですけど。おかしくないですか?」
歩くたび、胸が別の生き物の様に上下に揺れる。
紫のビキニ姿。清楚な外見からは想像も出来ないほどエロティックな身体。服を着ていないだけでこんなにエロいなんて。
僕は声を大にして言いたい。リリスさん、そしてサキュバス万歳と。
「こら、何淫魔如きの身体をいやらしい顔で見つめておるのだ。余の水着はどうだ? 似合っておろう?」
つっ、つるぺただ!
いやらしさなど微塵も感じさせない、ピンクのセパレーツの水着はとても良く似合っている。まるでフランス人形の様だ。
「ああ、似合ってる。可愛いよ」
「ふふん。そうだろう。さぁ行くぞお前達!」
そう言って彼女は海に向かって走り出す。その姿はどこからどう見てもただの子供だ。




