キャミソールの誘惑 3
「そう言えば、まだあにゃたのにゃまえを聞いていませんでしたね」
「アタシの名前はリリスです。アタシにはもったいない名前ですが」
リリス、とは伝説のサキュバスの名前。その姿はとても美しく、天使をも魅了したと言われています。
「そんにゃことありませんよ。努力さえすれば、そのにゃに相応しい、立派にゃサキュバスににゃれると思います」
「ありがとうございます。でもアタシ、淫魔としては落ちこぼれなんです。サキュバスの癖に、男の人の精を吸うのがあまり好きではなくて。昔からよく仲間には馬鹿にされてました」
「今も、せっかく地球の調査に選んで頂いたのに。何も出来ずだた生きているだけ。魔界にも、そして大魔王様、ペルシャ様のお役にも立てず……」
そう言うと、彼女の目から涙が零れました。
彼女も辛かったんでしょう。魔界にも帰れず、人間に混じりただ毎日を生きている事。
何も出来ずに、この寂しい部屋で孤独と闘っていた。
彼女の涙はその辛さを物語っているようでした。
「辛い思いをさせましたね」
彼女の膝の上に乗り、その涙を頭で撫でる。今の私に出来るのはそれくらい。
「ペルシャ様……。もったいないお言葉、身に余る光栄にございます。失礼な頼みだと分かってはおりますが、その御身体に触れさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
了承すると、彼女は優しく私の身体を撫でた。
「まさかペルシャ様の御身体に触れる事が出来る日が来るとは、夢にも思いませんでした」
私は何も言わず、彼女の優しい手の運びに身をゆだねる。
静かな昼下がり、ゆっくりと時が流れていく。
いつの間にか寝ていた様です。私を膝に乗せたまま彼女も寝ていました。
しかしサキュバスの匂いはいつ嗅いでも独特の甘い香りがしますね。
これでは男性が虜になるのも無理はないでしょう。
しかし、彼女もまた『きゃみそーる』を着ていますね。この前も拝見しましたが、何とも柔らかそうな胸をしています。
少し位なら触ってもいいでしょうか……。
はっ、また私はよからぬことを。
この、『ペルシャ・キャット・テイル』ともあろうものが、一度とならず二度までも。
これはやはり地球のせいでしょうか。
いや、今回は違いますね。淫魔のせいです、間違いありません。
私は悪くないはず。淫魔特有の淫靡な香りが私を惑わせるのです。私は全く悪くない。
お母様、淫魔とは本当に恐ろしい種族です。
「あっ、すいません。いつの間にか寝てしまってたみたいで」
「いえ、私も寝ていましたし。気にしないで下さい。それではそろそろ戻りますね」
「ペルシャ様。あの、これよかったら着けて下さい。首輪を贈るのは失礼だと思いますが、この世界では野良猫は処分されたりしますので」
彼女の手には、スカイストーンのついた首輪が握られている。
スカイストーン。私が魔界で好んで身に着けていた石。
「私がこの石を好きだとよく知っていましたね」
「はい。私はペルシャ様の事をお慕い申していましたから。ご迷惑でなければ、着けさせて頂いてもよろしいですか?」
「嬉しいですよ、お願いできますか?」
彼女は嬉しそうに、私に首輪をはめた。
おかしな話ですね、この私が首輪をはめられるだなんて。
だけど、悪くない気もします。
「良くお似合いです。あと、これ私の電話番号です。首輪に挟んでおきますね」
「でんわばんごうとはにゃんでしょうか?」
「あ、電話って言うのは、うーん。えーっと、そうだ! テレパシーみたいなものですよ。離れていても会話が出来るんです。家にいる方に聞けば分かるかと思います」
ほう、そんな便利な機械があるのですか。帰ったら早速勇士様に聞いてみましょう。
「わかりました。ではまた連絡しますね」
「はい、今日はありがとうございました。ではお気をつけて」
彼女の家を出ると、もう日が暮れかかっていました。
早く帰らなければ、そう思っていた矢先。
目の前に現れた一匹の黒猫。あれはメス猫ですね、こちらを見ています。
しかしあの猫、随分と綺麗な毛並みをしていますね。首輪をしていないところを見ると野良猫でしょうか。
尻尾を上げて、ファキアを露にした猫の姿。私は自分の中に湧き上がってくる感情に驚いていた。
まさか、いや、有り得ません。目の前にいるのはただの野良猫。
私が欲情などするわけがありません。でも何でしょう、この押さえきれない衝動は。
まさか淫魔の? それしか考えられません、彼女に長く触れすぎたのでしょう。
私は悪くない。私は全く悪くない――。
「おお、帰ったか側近よ。あれ? お前どうしたんだそれ」
「あ、これですか。頂いたんですよ、似合いますでしょうか」
「いや、首輪じゃなくて。顔の傷だよ、誰にやられたんだ?」
「こっ、これですか!? 道を歩いてたら突然猫に襲い掛かられましてね。いきなりだったので油断しました」
「恥ずかしいやつだな。大魔王の側近ともあろう者が猫如きに遅れをとるなんて」
「あは、あははは」
――お母様。罪深き私をお許しください




