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キャミソールの誘惑 2

「せらるにゃ様、私は少し街を散策して来ようと思います」

「そうか、気をつけていけよ」

「ありがとうございます。では失礼します」

 窓を開け、外に出ます。残念ながら閉めることは出来ません。


 しかし、地球と言うのは綺麗な場所です。

 ああ、地球と言うのはこの星の名前で、今私が居るのは『日本』と言う場所でしたね。

 道路は整備されており、全ての家が綺麗に並んでいます。

 建築方法などもまるで違うのでしょう。レンガ造りの家は何処にもありません。

 正直分からない事だらけですね。


 道に立っているあの女性、あれは昨日のサキュバスではありませんか。

 一体彼女はどうやって生活しているのでしょう。少々気になります。

 何かを配っている様ですね。本でしょうか。余り厚くはないみたいですが。

 茶色い紙の箱から沢山の本を取り出し、次々と配っていますね。

 流石サキュバス、と言った所でしょうか。男性が次々と彼女の本を貰っています。


 彼女が本を配り終える頃には、それが仕事であることがわかりました。

 彼女に近づいて来た男性から何か渡されています。

 頭を下げているところを見るとあれは雇い主、受け取ったのは給金でしょうか。

 疲れた様子で肩を落とし、歩く彼女。サキュバス特有の陽気な雰囲気は皆無です。

 ここは、お店ですか。何か買っていますね。


 しばらく歩き、彼女が辿りついた場所。

 これは廃墟でしょうか、随分周りの家と雰囲気が違います。

 魔族らしい、と言えばそうなのでしょうか。どこか退廃的で、寂しげな建物です。

 どうやら1階の角の部屋が彼女の住居みたいですね。

 隣の部屋には誰も住んでいないのでしょうか、扉がボロボロです。


 窓にカーテンもつけず、部屋が丸見えじゃないですか。

 塀で囲われてはいますが、それでも女性の一人暮らしにしては無用心な気が。

 先程買っていたのは食事だったのですね。この匂い、エールですか?

 まだ正午だというのに、酒盛りとは。いやはや何とも魔族らしい。


 その時、彼女と目が合いました。これは不覚。私としたことが気配を悟られるとは。

「ぺっ、ペルシャ様! どうしてここに!?」

 酷く驚いた顔をしている。無理も無いでしょう。

「もっ、もしかして私を始末しに来たのですか!?」

「いえ、そういう訳ではありません。街であにゃたを見かけましてね。悪いとは思いましたが少し後を付けさせてもらいました」

「そ、そうですか。てっきり殺されるのかと……。あ、とりあえずお入りください。何も無くて恐縮ですが」

「では失礼して。それにしても随分古い建物ですね、部屋も余り物がにゃく、少し寂しい感じもしますが。せめてカーテンくらいはつけたほうがいいと思いますよ」


 彼女の部屋にあるものは、小さなテレビとテーブル、レーゾーコ。そして床にたたまれた寝具のみ。

 衣服はあのクローゼットらしき場所に入っているようですね。

 しかし生活するには少し質素過ぎるというか。

「実は余りお金が無くて、やっと見つけた家がここしかなかったんです。家具も余り買えず、今のところはこんな物しか。あっ、すいません何もお出ししませんで。えっと、えっと……。あっ」


――はい。と彼女が出したもの。

 それは彼女が食べていた料理の中に入っていた魚の切り身でした。

「あっ! もっもっもっ申し訳ありません!」

 流石に彼女も気付いたのでしょう。これが魔界なら首が飛んでいることを。

「いえ、いいでしょう。いただきます」

 実は少しお腹が空いていました。この匂い、断れません。


 魚の切り身は実に美味でございました。少し味が濃い気もしましたが。

「しかし良くあにゃたは生きていられますね。定期的に人間の精を吸っているのですか?」

「いえ、私は人間の精は吸っていません。最初何度か試しましたが、やはりこの世界の人間には魔力がないらしく。栄養にもなりませんし、美味しくないんです」

 魔法の無いこの世界。必然的に人々は魔力を持たないという事でしょうか。

「私達サキュバスは他の魔族とは違い、半分人の血が流れています。その為魔力が無くても生きてはいけるのです。生きてるだけで精一杯、という感じはしますが」

 やはりそうでしたか。淫魔は人間の男と交わり子を成す、言わば半魔の魔物。

 魔力を使わぬ生活をする分には問題ない、と言った所でしょうか。

 先程の疲れた様子、精を吸っていないと言うのも嘘ではないでしょう。


「この部屋は暑いですね。『くーらー』と言うものはついてにゃいんですか?」

「すいません。クーラーは大変高価な物でして、まだ買えないんです」

 そうだったのですか。便利な道具ほど値が張るのはどの世界でも同じですね。

「じゃあ私にもエールを頂けますか。喉が渇いてしまいました」

 彼女は凄く驚いた顔をしました。確かに、猫がエールを飲んでいるのはあまり見たことありませんね。

「だ、大丈夫ですか? 死んじゃったりしませんよね?」

「多分大丈夫だと思いますが、少しくらいにゃらかまわにゃいでしょう」


 彼女がレーゾーコから取り出したエールを皿に注ぐ。魔界のエールより匂いが優しい感じがしますね。

「これはにゃかにゃか美味しいエールですね。冷たくて、少し苦味が優しく大変飲みやすいです」

「はい、それはノンアルコールビール、と言ってアルコールの入ってないエールなんですよ。普通のエールじゃやっぱり御身体に悪いと思いまして」

「そうにゃんですか。お心使い感謝します、確かに安易な考えでしたね」

 のんあるこーるびーる、と言うんですか。これは覚えておかないといけません。

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