キャミソールの誘惑 1
今日は八月にゃのか、と言うらしい。
私とせらるにゃ様が地球に来て四日。
地球は私の想像以上に素晴らしい場所でした。
魔法が存在せず、代わりに『科学』というものが発達している。
魔界からすれば科学は魔法みたいにゃものです。とても便利で、安全。
にゃんとしてでも魔界に持ち帰らねばにゃりません。
魔族の暮らしを豊かにするために。
そして、アニメを見るために。
私の隣で少女が眠っている。楓様、この家の主人の妹君。
次元を超えた影響で、私は猫ににゃってしまいました。
楓様は大変猫がお好きなようで、毎晩私と寝床を共にします。
年端もいかぬ少女と寝床を共にするのは少し抵抗もありましたが、この安らかな寝顔を見るのも悪くにゃいと思います。
あれ、おかしいですね。心の声まで猫になっています。
猫の姿になれすぎた所為でしょうか。
この姿では『な』の発音がうまく出来ないのですよ。
第七十七代大魔王。セラルナ・ストナ・ナミナーナ様の名前がとても呼びづらいのです。
しかしこの『きゃみそーる』という肌着はなんとも美しい服でしょうか。
このデザインは女性の魅力を存分に引き出している。楓様の未成熟な身体でさえ、きゃみそーるを着ていると魅力的に映る。正直たまりません。
少し位なら触ってもいいでしょうか……。
はっ、私は何を考えているんだ。こんな少女の胸を触ろうだなんて、しかも寝てる間に。
この、『ペルシャ・キャット・テイル』ともあろうものが何たる醜態。
貴方は、魔王の側近を代々務めるテイル家の名に泥を塗るおつもりか。一族の恥さらしと罵られてもおかしくはない事をしようとしていたんだぞ。
お母様、申し訳ありません。私は道を踏み外すところでした。
これは地球の所為? そうです、地球の所為です。
そうでなければこのペルシャ・キャット・テイルともあろうものがそんな事を考えるはずがありません。
やはり、魔族にとって地球は何らかの影響を及ぼしているのは間違いにゃさそうです。
あ、また猫になりました。
「側近さんおはよう~」
「おはようございます楓様。昨晩もよく眠れましたか?」
「うんうん。側近さんと一緒に寝るとぐっすり眠れるよ。ありがと」
何と良く出来た子でしょう、素直で可愛らしくて。私はこんな子にあんな事を。
お母様、本当に地球は恐ろしい場所です。
一階に降りると、既に勇士様が朝食の支度をしています。
勇士様は妹君の為に毎朝早く起きているという。
家の主が朝食の支度など、我々の世界では考えられません。
是非セラルナ様にも見ならって欲しいものです。
「勇士様、おはようございます」
「おはよう。ご飯の準備するからもうちょっと待っててくれ」
「はい。いつもありがと――うにゃっ!?」
「邪魔だ側近」
私を見ることもせず、声もかけず、躊躇せず脇腹を蹴とばす。
セラルナ様は今日も容赦がありません。さすが大魔王様。
しかし、いくら猫がお嫌いだといってもあんまりじゃないですか。
動物には優しくしなさいと先代に教わらなかったのですか。
そんな事は言えるはずもにゃい。
また猫になりました。
「はい、ご飯だよ」
「ありがとうございます。あれ、今日はいつものカリカリと違いますね」
「ああ、カリカリだけだと飽きると思って。猫缶にしてみたんだ」
「ネコカン、というのですか、美味しそうにゃ匂いがしますね。ではいただきます」
鼻をくすぐる香り、これは魚ですね。何でしょう、とても食欲をそそる匂いです。
うっ、うまい。何だこの味は。今までこんなもの食べたことありません。
「側近さん美味しい?」
「ええ、とても美味しいです」
「何だと? ちょっと余にも食わせろ」
あっ、私のご飯。
「まずっ、何だコレ。こんな不味いの良く食えるなお前」
不味い? こんな美味しい物が不味いと言うのですか? 勝手に人の食べ物を取って不味いとは随分な言い方ですね。
「人間と猫は味覚が違うんだからしょうがないよ。セラルナにとっては美味しくなくても、猫にとっては美味しいんだよ」
そうですよね。勇士様は流石です。
それに引き換えセラルナ様ときたら、まぁ魔族らしいと言えばそうなんでしょうか。
しかしこの『ネコカン』癖になりそうです。
朝食を終え、少しゴロゴロしています。
何故かは分かりませんが、ゴロゴロせずにはいられません。
「そう言えば、朝起きたらセラルナが小さくなってたんだけど。あの実はそんなに長時間もたないのか?」
「いえ、昨日は一かじりだけでしたからね。食べた分だけ力は戻りますが、ここでは力を持て余す事ににゃりますので」
「そうなんだ。じゃあ側近も食べれば元の姿に戻れるんじゃないのか?」
「残念にゃがら、私は口にすることが出来にゃいのです。この身体では受け付けにゃいようでして。一口食べてみたのですが、すぐに吐き出してしまったのです」
多分動物には毒の様な物なんでしょう。そうでなければこの実を食べた動物は魔物になってしまうはずです。
「そっか。それは残念だな」
「でもこの姿も悪くはにゃいものですよ」
そうです、この姿も中々便利なものでした。




