吸ってもいいですか 3
気がつくと、部屋のベッドだった。
目の前には心配そうに見つめる楓と、大人版セラルナ。
「気付いたか。突然抱きつきおって、危険だと説明しただろう」
「あ、ああ。ごめん、身体が勝手に動いちゃって」
「まったく、あまり唾液を与えすぎるとお前の身体に負担がかかるんだ。なるべく気をつけろよ」
唾液? もしかしてまた僕の口に?
くそっ、何でこんな時に気を失っていたんだ。ご褒美タイムじゃないか。
「そういえば彼女は?」
「下にいる。お前が殺すなと言ったからそのままだ」
「そうか、ありがとう。もう大丈夫だから下に行くよ」
リビングに戻ると、そこには白猫を前に綺麗な土下座をする彼女の姿があった。
「勇士様、もう大丈夫ですか?」
「ああ、心配かけてごめん」
「いえいえ、謝罪をするのは私の方です。彼女は私が地球に送った調査員の一人でして、他の魔族はみにゃ死んでしまったのに、彼女だけはサキュバスの特性を生かしてにゃんとか生き残ってたみたいですね。私の監督不行き届きでした」
サキュバスの特性? もしかしてあれか、精を吸い取るとかそんな感じか。
「ところで、何で僕の家に来たんだ?」
「それは勇士様の身体にせらるにゃ様の魔力が多少入っていたからでしょう。基本的に地球の人は魔力を有しませんからね。サキュバスにとっては勇士様はご馳走のようなものです」
そうなんだ。初めて会った時、僕に傷をつけて血を吸ったのは魔力を欲していたからなのか。
「そんな女殺してしまってもいいだろ。先程は余に随分と偉そうな口を叩いておったしな」
「もっ、申し訳ありません! 大魔王様とはつゆしらず! どうかお許しください!」
すごい怯えようだ。やはりセラルナは凄いんだろう。
「まぁまぁ、何もなかったんだし。許してやってくれないか? 彼女もお腹が空いてたみたいなもんなんだろ? 仕方ないよ」
「ふん、お前がそういうなら仕方ない。貴様、この人間に感謝するんだな」
「ありがとうございます! この身を貴方様の為に捧げます! どうか私の身体を気の済むまで陵辱してください!」
いや、それだと逆に僕が精とられちゃうじゃないか。魅力的な話だけど、僕はまだ死にたくないぞ。
「今日は本当に申しわけありませんでした。今度また改めてお詫びに伺います」
「まぁ、気にしないでくれ。精はあげられないけど、また遊びに来ればいいよ」
こうして、僕の貞操は守られたのであった。守る必要があるのかは分からないけど。
「それにしても、それがセラルナの本当の姿なんだな。すごく驚いたよ」
「ふふん。どうだ、美しいだろう?」
「ホントに十倍くらいある……」
「ん? 何が十倍なんだ楓?」
「えっ? いや、なんでもない。こっちの話」
「ところでこの実は一体なんなんだ?」
先程セラルナが一口かじっていた実を手に取る。
プラムほどの大きさだが、その実は赤く、僕達にはなじみのない果実のようだ。
「これですか? これはバンシーの実と言って、まぁ言ってみれば魔力を回復させる薬のようなものですね」
「側近よ、これはあまり日持ちせんのではなかったか?」
「はい。バンシーの実は熟れたそばから痛んでいきますからね。とりあえず持ってきたんですけど。勇士様、保存できるような方法はありませんか?」
「保存か、冷凍するのか一番かな? 食べやすい大きさに切っておけば、凍っててもすぐ食べられるんじゃないかな」
「それはいいアイデアですね。ぜひお願いしてもよろしいでしょうか」
時計を見るといつの間にかもう五時を回っていた。
僕はバンシーの実を冷凍し、夕飯の支度に取り掛かった。
流石に今日は疲れた。久しぶりの一人のベッドは少し広いような感じがする。
いや、これはチャンスなんじゃないか? そういえば結局今日は不完全燃焼だ。
夜は長い、しっぽりと過ごすのも悪くないはずだ。
そうと決まれば――。
「私ももう寝る。おいもっとつめろ」
部屋のドアが開き、セラルアが入ってきた。あれ、俺殺されちゃう?
「ちょっと待て! 流石に俺まだ死にたくないぞ!」
「ん? ああ、今日は大丈夫だ。お前は私の唾液をたっぷりとったんだからな」
たっぷりとった!? そんなに大量に!? 何でそんな時に僕は起きてなかったんだ。
これは一生悔やむ、一生悔やんで生きる程の衝撃だ。
「じゃ、じゃあ電気消すぞ、おやすみ」
何かいつもよりせまい。当たり前と言えば当たり前だけど。
「おい、何故背中を向けるんだ。いつもの様にこっち向かんか」
そうやって、彼女はいつもの様に僕の顔を胸に押し付けた。
ちょ、いつもはない物体が思いっきり当たってるんですけど。何だこれ、全然大丈夫じゃない。色んな意味で死ねる。間違いない。
「ふふん。どうだ、あのサキュバスより上等だろう」
確かに、さっきのとは全然違う。まさに王、乳の中の乳、キングオブ乳! もういっそ殺してくれ。
「あんな小娘に流されおって。あのまま乳を吸っておったら今頃お前はあの女の奴隷だ」
「そんなヤバイ状況だったのか?」
「まぁあれでも魔族、それにサキュバスだからな。男を操る術には長けているのだ」
「そうか、助かったよ。ありがとう」
「ふん。気をつけることだな」
彼女の柔らかい胸の感触と彼女の香り。
それはよこしまな気持ちもすぐに吹き飛ばし、天国へいざなう様に優しい。
「吸いたかったか?」
「なっ!? 何だよ突然」
――ふん。と一呼吸置いて、彼女は静かに言った。
「吸ってもいいぞ」
少し、彼女との距離が縮まった気がした。今日はそんな一日だった。




