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婚約破棄された書記官令嬢は、沈黙図書館で辺境を立て直す  作者: 小竹X


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053 辺境から始まる新しい会計

 同じ白粉十袋が、朝の机で三度別々に数えられていた。


 中央棟の長机で、私は今朝戻った板札を左から並べた。河港控え。東二番粉挽所返り票。辺境伯領の献立表。白粉十、糠三半、共同釜昼椀五十八。数字は合う。けれど票番が違う。河港では北便続番、粉挽所では裏入控え、献立表では病室と外門の追給欄へ分かれ、同じ袋が三枚の紙へ別の顔で載っていた。


「夕刻まで続いたら、どれか一枚が整理口仮預へ落ちるわね」

 ミラが言った。

「昨日までなら東二番と三宿だけで済んだ。でも今朝から病室と外門も、同じ挽き返しを食ってる」


 私は返り票の余白へ指を置いた。共同釜へ出した白粉の端で、北路病室追給六、外門夜番麺四と小さく足されている。鍋が増えたぶんだけ、紙が古い分け方に耐えなくなっていた。


 ローデリクが河港板を裏返した。

「同じ袋を三度書くな。三度書けば、三度目で消される」


 その言い方で、私は机の端に積んであった原本写しを引いた。河港越冬荷受け規定。冬季入津税留保特権。施穀粉挽留保本紙。どれも、今夜足りない分は現場で先に出し、春季第一便や後刻副署で追えと書いてある。足りないのは支弁の理屈ではない。同じ一袋へ、誰が出し、誰が食べ、誰が払うかを同じ番号で縛る帳だった。


「面が足りません」

 私は空き紙を三枚、横一列に置いた。

「いまの勘定は、出した紙と食べた紙と払う紙が別々です。だから、途中の抽斗が一面だけ切れます」


 ミラが硯を寄せる。

「三枚とも同じ票番で回すの」

「ええ。一面目は現物。二面目は受益。三面目は負担」


 私は一枚目の見出しへ、出庫面と書いた。二枚目へ、受益面。三枚目へ、負担面。その上へ大きく題を打つ。

 北辺補給三面勘定帳。


 ローデリクが黙って題を見た。

「どこから始める」

「東二番粉挽所から」

 私は一番上の行へ数字を置く。

「第一番。東二番粉挽所、白粉十、糠三半。受益面は王都外三宿共同釜昼椀五十八、北路病室粥六、外門夜番麺四。負担面は留保相当三、春季第一便精算、王都慰撫会帳場副署追完」


 ミラの筆が、私の横で同じ速度で走った。

「継馬所は第二番へ分けるわ。燕麦と豆合わせが混じる」

「そうして。袋が違うなら、番を分けた方が後で切られません」


 私は施穀粉挽留保本紙の一行を、負担面の脇へ短く写した。

 未副署理由停止不可。

 その下へ、冬季入津税留保特権から春季第一便精算の句を置く。後刻で追う責任と、今朝動かす袋を、同じ欄へ入れる。


 頭取が呼ばれて長机へ来たとき、三面の第一番と第二番はもう乾き始めていた。私は一番を見せる。

「河港は出庫面だけ見れば積めます。共同釜と病室は受益面で受けられる。王都側は負担面を空けたまま返せません」

「空けたら」

 頭取が問う。

「空けた席名ごと、番で追います」


 ローデリクは領主印の脇で、新しい木札を引き寄せた。救援荷仕分板と同じ幅の板へ、短く墨を書く。

 三面番無き荷受け停止。

 それを私の前へ置いた。

「門と河港と中央棟へ回せ。次から、番の無い袋は受けるな」

「王都から来る紙も」

 ミラが言う。

「受益面か負担面を欠いたら、同じ番で差し戻す」


 私は三枚を重ね、左上へ小さな割印欄を作った。仕修席の次席預り印ではない。河港、中央棟、受益先が同じ位置で噛むための欄だった。切られても、残り二面で戻し先が読める。


「これなら、一面だけ焼かれても終わりませんね」

 私が言うと、セシリアが机の端で息を止めた。

 彼女は今朝から返り票の転記を手伝っている。白い指先が、処分箱十八の控え番号の脇で止まった。

「客間へ来た箱は、いつも一枚だけでした」

「だから切りやすかったの」

 ミラが返し、第二番の受益面へ継馬所替え馬二、南厩粥桶一と書き足した。


 昼前、第一番の三面がそれぞれの持ち場へ走った。河港では粉袋に番札が結ばれ、東二番では量り返し札の隅へ第一番が入る。中央棟へ戻った受益面には、共同釜昼椀五十八の下へ病室粥六、外門夜番麺四が同じ筆で書き足されていた。もう、広場の披露と北路の鍋が別帳で争わない。


 私は乾いた負担面の控えを、送達綴りの上へ置いた。王都慰撫会帳場副署追完。原簿照合席直送。仕修席経由停止。三つの見出しが同じ番の下に並ぶ。


 ローデリクが私の前の札を裏返した。裏には何も書いていないと思っていた木札へ、いつの間にか新しい文字が増えていた。

 臨時照合係 兼 補給照合。

「今夜はそれで足りる」

 彼は言った。

「春になっても足りる名は、次の紙で決めろ」


 私は第一番の下へ、第二番、第三番の罫を続けて引いた。硯の水はまだ温かい。机の端では、処分箱十八の控え番号と、共同釜の昼椀数と、新しい三面番が、同じ帳へ並び始めていた。

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