表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された書記官令嬢は、沈黙図書館で辺境を立て直す  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/54

052 破られた約束の持ち主

 処分箱十八照合請求への返答には、三通とも客間へ置けと命じた名だけが無かった。


 朝の中央棟の長机で、私は返ってきた三通を今朝の返り票の横へ並べた。東二番粉挽所、白粉九半、糠三。王都外三宿共同釜、昼椀五十四。鍋は増えている。その右に、王宮会計局中央仕訳庫仕修席、王都慰撫会帳場、ヴェイル家家令の返答が乾いた順に重なった。


「増便は通ったのに、名だけまだ出さないのね」

 ミラが硯の脇で言った。


 私は最初に家令返答を開いた。客間仮置は春席前の写取済文面に限る。受取は家令見習い。炉前処分は家長口上。誰が箱を寄越したかは空欄のままなのに、文面の写しだけは取ったとある。


 その一行で、向かいに座っていたセシリアの指が止まった。

「それ、家の言い方ではありません」

「どういう意味」

「父上はいつも『客前で要る文』と申します。『写取済文面』なんて、家では使いません」


 二通目は王都慰撫会帳場からだった。処分箱十八、持出日風花月十六日、仮受一包。文面名には、王都慰撫会帳場副署追完返戻紙、王太子施穀先触れ返付片、とある。けれど客間仮置指図者も、炉前処分指図者も無い。右下には、送達札にあったのと同じ、小さな歪んだ朱が斜めに噛んでいる。


 三通目を開いたとき、喉の奥が少しだけ乾いた。


 処分箱十八。仕修席戻端紙。写取文面名。

 北辺赴任辞令付記。

 北路封緘台帳第十二束継承照会。

 王太子施穀先触れ。

 王都慰撫会帳場副署追完返戻紙。

 婚約解消宣言付外封。


 最後の一行だけ、墨が少し濃かった。


「外封まで」

 ローデリクが低く言った。


 私は答えずに、文書箱の底を開けた。北辺へ来た日の移送控え。戻れと言われた日の旧務協力打診状。第十二束継承照会差戻控え。どれも角が少し擦れている。けれど右下を見ると、紙ごとの印は違うのに、その脇へ噛んだ小さな歪んだ円だけが同じ位置に残っていた。


 私は処分箱十八の送達札をいちばん上へ重ねた。

「局長印でも原簿照合印でもありません」

 紙の端を揃える。

「中央仕訳庫仕修席の、次席預り印です。正式な席名で通せない紙だけに噛ませる控え印」


 ミラが返答三通を順に弾いた。

「だから、誰の名でもない顔で全部くぐれるわけね。赴任辞令も、第十二束も、灰綴も、施穀も」


 セシリアが小さく息を吸った。

「婚約のあとの箱も……いつもその印でした。父上は、中を見ずに『春席前に要る文だけ写せ』と」


 私は婚約解消宣言付外封の一行へ指を置いた。冬の予算評議会で、私の前には羊皮紙しか無かった。けれどあの翌朝、人事机で受け取った片道命令にも、戻れと書かれた軽い打診状にも、同じ印が噛んでいた。殿下が読み上げた紙の外で、誰がどの約束をどこへ流すかは、別の抽斗が決めていた。


「持ち主が出ましたね」

 私は言った。

「王太子の手ではない。中央仕訳庫仕修席次席の抽斗です」


 ローデリクは返答紙を置き、空き紙をこちらへ寄せた。

「なら、その抽斗を通らなくて済む形にしろ」


 私はすぐに題を書いた。

 仕修席経由停止兼原簿直送切替控え。


 第一行、北辺赴任辞令付記。第二行、第十二束継承照会。第三行、王太子施穀先触れ。第四行、王都慰撫会帳場副署追完返戻紙。原簿席、本来副署席、直送先、返送印欄、現地受取責任。仕修席欄だけを、最初から消す。


「王都慰撫会帳場の副署は、原簿照合席とここの臨時照合係へ直送」

 ミラが見出しの横へ補った。

「第十二束と付記は、沈黙図書館立会いを外したら無効」


 ローデリクがその下へ名を書いた。領主印の隣、私の札の前で乾いた朱が広がる。

「東二番と三宿の鍋は止めない。だが次から、そいつの抽斗は通させない」


 私は最後に、まだ控えへ入れていない一行を脇へ移した。

 婚約解消宣言付外封。


 それだけは新しい切替控えへ入れず、別紙のいちばん上へ置く。送達綴り照会請求。返送印欠数。受取席。外封経由。あの日、私の前で読まれた約束を、今度は外側の経路から開けるための罫だった。


 南門の外で、粉袋を積み替える木音が続いていた。私は次席預り印の歪んだ円へ砂を落とし、その上から新しい控え番号を書いた。燃やすための箱へ戻っていた切れ端は、もう戻し先を失っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ