039 カルミナは善意の代金を知る
カルミナの謝罪状には、銀貨九枚と銅貨六を払う行があるのに、七箱を増やした帳場の名だけが無かった。
昼の中央棟で、私は北砦火守帳の横へ新しい封書を置いた。白い厚紙に、レイフェル公爵家の淡金の封。中には二枚の紙と、小さな革袋が入っている。革袋は軽い。けれど、救援雑費請求書の合計と同じだけの重さがした。
「ずいぶん早いわね」
ミラが革袋を指で弾く。
「原簿照合席へ返して三日も経ってない」
私は一枚目を開いた。丸い字だった。
北辺でご迷惑が生じたなら、わたくしの冬の小遣いと装身具を売った分で、まずお納めください。善意のつもりで送った物が、かえって灯油や晒布の勘定を食ったと知り、恥ずかしく思います。どうかこれ以上、帳場や施療院を責めないでください。
そこまでは、たぶん彼女の字だ。青札の裏へ残っていた「冷える方へ先に」と同じ丸みがある。
だが二枚目の下半分だけ、紙の呼吸が違った。
右端へ細く整った字で、こうある。
右立替受領をもって、御前披露済救援雑費請求差照の件、済扱い願いたい。
「帳場が善意に潜ったわ」
ミラが鼻先で言う。
「払うのはお嬢様。済にするのは向こうの抽斗」
ローデリクが封書の中身を見下ろした。
「九枚六で、北辺は何を諦める」
「外門の灯油樽一本半。病室の晒布二束。南厩の温燕麦桶なら五朝ぶんです」
私は答えた。
「でも本当の代金はそこだけではありません。未着二束がどこへ消えたかと、披露済み七箱を誰が増やしたかが、また名無しになります」
使いとして来た若い女が、戸口で肩を強ばらせた。レイフェル家の冬色の外套。手袋の縫い目だけが新しい。
「お嬢様は、ほんとうに知らなかったのです」
彼女は革袋へ目を落とした。
「差照綴りの写しを見て、昨夜のうちに首飾りを外されました。城南施療院へ回した二十枚の受領控えも、御自分で取り寄せると」
「取り寄せたのね」
ミラが半歩出る。
「あるなら出して」
使いは一瞬ためらい、それから封の底を探った。折りの深い薄紙がもう一枚出てくる。城南施療院仮受控え写し。私は題を見た瞬間、紙端を押さえた。
施療院仮受。毛布束番三。仮受印あり。
原荷札欠。
束番四、未着。
私は紙を机へ置いた。北辺向六十から削られた二十枚は、施療院で二束そろって暖になったわけではない。片方だけが、原荷札を失ったまま仮受けで寝ている。
「善意の代金を、ようやく見たわけですね」
私は使いへではなく、その向こうの王都へ向けて言った。
「払えば済む銀貨九枚六と、払っても済まない未着一束」
ローデリクが革袋を押し返した。
「これは受けない」
使いの指が震えた。
「お嬢様のお気持ちです」
「善意は受けます」
私は新しい紙を引いた。
「でも、名無しの穴埋めには使わせません」
題を書き付ける。
寄進後始末受託札。
寄進者確認印。原荷札枚数。実着枚数。未着荷口。披露済み預り箱数。後始末起因箱数。返送先。負担受託印。施療院受領控え番号。
ミラがすぐ右へ細い欄を継いだ。私費立替は別封預り。済扱い不可。
「これで分ける。カルミナ本人が知ったことと、帳場が責任を負うことを」
私はさらに一枚、差引の小札を書いた。銀貨九枚と銅貨六。外門灯油樽一本半。病室晒布二束。南厩温燕麦桶五朝。数字だけでは暖が見えにくい相手にも、何を食っている勘定か分かる形へ落とす。
「これをお持ち帰りください」
使いへ二枚を渡す。
「カルミナ様の印は左です。帳場の負担受託印は右。どちらか片方では進みません」
「それと」
ミラが施療院仮受控え写しを叩いた。
「束番四の行方。御前披露済みの後ろへまだ隠れてるなら、次はそこを剥がす」
使いは深く頭を下げた。革袋は持たせないまま、代わりに差引小札と受託札を抱えさせる。暖かい気持ちだけでは運べない重さだった。
戸が閉まる前に、南門番が黒紐の綴りを抱えて駆け込んできた。
「王都監査局より、倉庫臨検予告です」
私は受託札の控え番号を書き終えたばかりの手で、その綴りを受け取った。善意の後始末に名前を書かせた途端、今度は倉庫そのものへ手を入れに来る。
次に守るべきなのは、革袋の中の銀貨ではない。倉の戸前で、誰に何を持ち出させないかの欄だった。




