032 辺境の港に流れる偽の救援
救援札を下げた荷ほど、今夜の火と人手を食うことがある。
午前の河港は、赤い細札ばかりが風に鳴っていた。艀から降ろされる木箱のすべてに、北辺救援優先、と同じ墨。だがその後ろで、灯油樽と干豆の荷車が雪をかぶったまま列を止めている。
「王都慰撫会帳場からです」
帳場付きの若い書記が、濡らさないよう胸で抱えていた綴りを差し出した。
「防寒雑具六箱、施療慰撫具三箱、炊出補助具三箱。本日中に蔵入れを」
私は綴りの最上段へ指を置いた。引渡先の欄が無い。箱数だけが並び、各行の端に同じ小字がつく。御前披露済。到着即蔵入。
「全部優先ですか」
ミラが綴りを覗き込む。
「そうです。救援ですので」
「全部優先なら、優先じゃないわ」
彼女は即座に言った。
私は艀の上の木箱を見た。防寒雑具と焼き印のある一箱は、毛布六束ぶんの重さが無い。炊出補助具の箱は、豆や麦の沈み方ではなく、浅い金物が触れ合う乾いた音を返した。
「開けます」
釘の浮いた角箱を指すと、荷役頭が鉤で蓋を持ち上げた。
中から出たのは、膝に掛ける細長い織布だった。端に金糸の房。寒い客間では役に立つだろうが、外門番や継馬所の寝台へ回す幅は無い。二箱目には、磨いた銀色の給仕杓子と浅鉢が詰まっていた。三箱目だけは違う。晒布の束と、病室の寝台へ敷ける厚い毛織二枚がきちんと入っている。
同じ救援札の下へ、今夜の病室へ行ける物と、御前で見せた後に箱数だけ増やす物が混ぜて積まれていた。
「板を一枚」
私は河港の壁際を見た。
「救援荷も、今夜使える物と、乾かせば使える物と、見せただけの物を分けます」
ミラはもう荷札用の板を引き寄せていた。鉄筆が走る。
今夜渡す。
乾かせば使う。
披露済み。
「題は」
彼女が聞く。
「救援荷仕分板」
私は箱の中身を見たまま答えた。
「優先するのは札じゃなくて、今夜の寒さに届く順です」
ローデリクが艀板の脇へ来た。赤札の列と、その後ろで待つ灯油樽を一度に見下ろす。
「今夜渡す、に入った物だけ蔵へ入れろ。病室と外門を先に回す。乾かせば使う物は南坂へ。披露済みは屋根下へ寄せて、港の人手を食わせるな」
帳場付きの書記が慌てて綴りをめくった。
「ですが、どの箱も搬入済み札を返していただかないと」
差し出された札束は、もう署名欄まで刷ってあった。箱を開ける前に、受け取ったことだけ返させる紙だ。その束の下から、もう一枚、小さな札が滑る。
本日中搬入済一箱につき 積替銀半枚
金額の下に、受取人の欄が無い。誰が払うのかも、誰が受けるのかも空いたままだった。
ミラがその札を二本の指で摘んだ。
「救援って、ずいぶん腹持ちがいいのね」
私は寄進品仮受控えの余白へ、小札の文言を書き写した。救援の名で急がせ、箱数で銀を切る。毛布六十を四十へ削ったときと、紙の癖がよく似ている。
「この札も預かります」
私は書記へ言った。
「搬入済みは、中身ごとに返します。箱数では返しません」
書記の指先が震えた。赤札の付いた箱は多い。けれど、今夜の病室へ行ける毛織二枚と晒布の束は少ない。河港で先に動かすべきなのは、いつも数の多いほうではない。
荷役頭が新しい板を柱へ結ぶ。今夜渡す、の下へ晒布と毛織。乾かせば使う、へ厚織の膝掛。披露済み、へ銀の浅鉢と杓子。
その横で、雪をかぶって待っていた灯油樽がやっと先へ動いた。
私は赤い優先札の根元に結ばれた小札をもう一度見た。箱を温める前に銀だけ走らせる紙は、たいてい署名の欄から薄くなる。




