第6話「選択」
地下のさらに奥。
人が来ることのない領域。
レイは、ゆっくりと歩いていた。
「ここだ」
男が足を止める。
そこは——
あの場所だった。
止まっていた歯車があった場所。
「……やっぱりここか」
レイの心臓が強く鳴る。
「もう一回見る気か?」
「見る」
迷いはなかった。
男は肩をすくめる。
「止めても無駄か」
レイは進む。
一歩ずつ。
そして、見つける。
それは、あった。
今度も。
止まっている歯車が。
「……本当にあるんだな」
男が呟く。
レイは近づく。
「やめとけ」
「無理だな」
手を伸ばす。
触れる。
その瞬間。
世界が、崩れた。
音が消える。
視界が歪む。
重力が消える。
「——っ!?」
落ちる感覚。
いや、違う。
“引き込まれている”。
気づいた時。
レイは立っていた。
見たことのない場所に。
空がある。
クロノギアにはないはずの、空。
風が吹いている。
不規則な風。
「……なんだ、ここ」
背後から声。
「そこが“外側”だ」
振り返る。
男もいる。
「外側?」
「この世界のな」
レイの理解が追いつかない。
「意味わかんねぇよ……」
男は空を見上げる。
「クロノギアはな、“箱”なんだよ」
「箱の中で、全部完結してる」
「時間も、人生も、選択も」
レイは言う。
「……じゃあここは」
男は答える。
「箱の外だ」
静寂。
風の音だけが響く。
レイは、ゆっくりと拳を握る。
「……選べるのか」
「何をだ?」
「生き方を」
男は少しだけ笑う。
「選べるさ」
そして、続ける。
「ただし」
「代わりに全部失う」
「元の世界には戻れない」
「安全も、保証も、全部な」
レイは目を閉じる。
思い出す。
整った街。
壊れない日常。
決められた人生。
そして——
止まっていた歯車。
「……あれが正しいなら」
目を開く。
「俺は間違ってる方でいい」
男が息を吐く。
「言うと思った」
その瞬間。
空にノイズが走る。
バチッ、と。
「来たか」
「何が」
男の顔が少しだけ真剣になる。
「管理側だ」
空が裂ける。
白い光。
そして——
少女が、降りてくる。




