第4話「管理者」
レイは走っていた。
上層区の整った街並みを、ただひたすらに。
背後では、空気が歪む音が続いている。
振り返らなくても分かる。
あの少女——いや、“あれ”はまだ追ってきている。
「なんなんだよ、あいつは……!」
角を曲がる。
だが、その先にいた。
白いコートの少女が。
「——っ!?」
一瞬で距離を詰められる。
ありえない速度。
「逃走行動を確認」
「逸脱レベル:3へ上昇」
少女の瞳が淡く発光する。
「強制修正を実行します」
手が、レイに向けられる。
その瞬間。
「だから言っただろ」
ガキンッ、と金属音。
黒コートの男が、少女の腕を弾いていた。
「ちっ、面倒なモードに入りやがったな」
レイは息を荒げながら叫ぶ。
「お前、何者だよ!?」
男は振り返らずに答える。
「説明してる暇はない」
「死にたくなかったら動け」
その言葉と同時に、少女の周囲の空間が歪む。
時間が引き伸ばされるような感覚。
音が遅れる。
光が鈍る。
「またかよ……!」
レイの体が重くなる。
だが——
「気合で動け。慣れろ」
「無茶言うな!!」
それでもレイは足を動かす。
一歩。
もう一歩。
少女の声が響く。
「対象の耐性を確認」
「予測を更新」
「は?」
「あなたは——異常です」
その瞬間。
世界が“完全に停止”した。
風が止まる。
音が消える。
人が固まる。
レイも動けない。
だが。
「……動けるのは、俺たちだけだ」
男だけが普通に歩いている。
「なんで……お前は……」
男はゆっくりとレイの方を見る。
「簡単な話だ」
そして、こう言った。
「俺は“管理されてない側”だからだ」
レイの思考が止まる。
「……は?」
少女が、初めて感情のような反応を見せる。
「危険対象認定」
「優先排除対象に変更」
空気が震える。
男はため息をつく。
「バレるの早すぎだろ……」
そして、レイに向かって言う。
「お前、もう普通には戻れないぞ」
その一言で、理解する。
これは偶然じゃない。
自分は“見てはいけないもの”を見た。
「……だったら」
レイは歯を食いしばる。
「最初から戻る気なんてねぇよ」
一瞬の沈黙。
男が、少しだけ笑う。
「いいね、そういうの嫌いじゃない」
少女の周囲に、見えない圧力が集まる。
「排除、開始」
その瞬間。
地面が砕けた。




