第3話「上層区」
地上。
クロノギア上層区。
そこは別世界だった。
白い石造りの建物。
整備された街路。
均一に配置された街灯。
人々は笑っている。
だが。
「……揃いすぎてる」
レイは呟く。
笑うタイミング。
歩く速度。
会話の間。
すべてが、微妙に一致している。
まるで——
「プログラムみたいだな」
その時。
「失礼、通ります」
背後から声。
振り返ると、一人の少女。
白いコート。
金色の髪。
だが、目が違った。
「……」
無機質。
感情がない。
「あなた、下層の人ですね」
「……そうだけど」
「規定外の行動をしています」
「は?」
少女はまっすぐレイを見る。
「あなたは現在、行動パターンから逸脱しています」
「……なんだそれ」
「修正対象です」
その言葉と同時に。
少女の瞳が光る。
「は?」
次の瞬間。
周囲の人間が一斉に立ち止まった。
ピタッ、と。
時間が止まったように。
「……おい、なんだこれ」
少女だけが動いている。
「クロノギア管理システムより通達」
機械のような声。
「対象:レイ・アストラ」
「逸脱レベル:2」
「修正プロトコルを開始します」
レイの背筋が凍る。
「……ふざけんな」
逃げようとした瞬間。
少女が手を上げる。
「停止」
世界が、歪んだ。
音が消える。
風が止まる。
そして——
レイの体も動かなくなる。
「……動け、ない……!」
指一本動かせない。
「あなたは誤差です」
少女は静かに言う。
「この都市に、誤差は不要です」
その瞬間。
「——それは違うな」
横から声。
空気が切れる。
時間が、戻る。
「なっ……!?」
レイの体が動く。
少女が振り返る。
そこにいたのは——
あの男。
黒いコートの男。
「またお前か」
男は軽く笑う。
「だから言っただろ」
「知れば戻れない、ってな」
少女の目が変わる。
「……異常個体確認」
「排除対象に変更」
空気が張り詰める。
男は言う。
「逃げろ、レイ」
「は?」
「今のお前じゃ勝てない」
レイは歯を食いしばる。
だが理解している。
これは戦っていい相手じゃない。
「……くそっ!」
レイは走る。
背後で。
何かが“壊れる音”がした。




