第2話「誤差」
地下の空気は重かった。
レイは、さっきの場所から少し離れた位置で立ち止まる。
「……ありえない」
止まっていた歯車。
あれは見間違いじゃない。
だが今は——
完全に正常に回転している。
カチ…カチ…カチ…
完璧なリズム。
いつも通りの世界。
「じゃあ、あれはなんだったんだ」
レイは歯車に近づき、
工具で軽く叩く。
コン、と乾いた音。
温度も、動きも、異常なし。
だが。
「……ズレてる」
ほんのわずか。
目では分からないレベル。
だが、彼には分かる。
0.0001秒にも満たない誤差。
普通の人間には認識できない。
だがレイは違う。
彼は「音」で世界を捉えている。
「この都市に……誤差がある?」
それは、この世界の前提を壊す。
クロノギアは“完全”であるはずだ。
誤差があるなら、それはつまり——
「……壊れてる?」
その瞬間。
ゴォン——
上層から鐘の音。
作業終了の合図。
「……チッ」
レイは工具をしまい、
地上へ戻るための昇降機へ向かう。
だが。
足が止まる。
「自由系統……」
頭から離れない。
この都市にそんなものはない。
すべては中央機構に管理されている。
なのに。
“未接続”?
「……繋がってないってことか」
つまりそれは。
管理されていない領域が存在する。
ありえない。
そんなものがあれば、
この都市の均衡は崩れる。
「……でも、あった」
レイは拳を握る。
「なら、探すしかないだろ」
その選択が、
すべてを壊すことになるとも知らずに。




