第2-3話 山森菜蔵VS青島岬
菜蔵が下級生に聞き返す。
「本当にアイツで合っているのか?俺にはコマバトに縁のない漫画オタクにしか見えねぇぞ?」
「今でこそあんな様子ですけど、始めの頃は俺達にコマバト勝負を挑んできて、結局男子全員叩き潰されたんです!」
下級生の弁明ぶりを信じて、菜蔵は少女のもとへ向かう。
ヤケにツヤ出しの効いた髪を片目が隠れるくらい伸ばした彼女の名前は青島岬。
今は漫画本に視線を落として全自動ウヒウヒマシーンになりきっているご様子である。
そんな様子はお構いなしと、菜蔵は青島に詰め寄る。
「オイお前、コマバトが強いらしいな?」
「ウヒャッ!?」
突然視界に飛び込んで来た尋常じゃないデブの存在感に自分の世界から現実に引き戻された青島は、突然動きを止めたかと思いきや突然震えだした。
「あ、あのぅ。確かに僕は周りの男の子達よりコマバト強いって良く言われるんです。良く言われはするんですけど…。」
「アレを先輩にお見せするのはとても失礼と申しますか、お恥ずかしいと言いますか…。」
「僕自身の尊厳が疑われて---」
早口で自分の主張をまくし立てる青島であるが一切菜蔵の方に視線を移そうとはしていない。
言い訳を並べ立てる青島の自己弁護を、菜蔵は語気を強めて一蹴する。
「うるせえ、コマバト勝負だ!!」
「ウヒー!?やりますやりますやりますので!」
青島: デッキ名「青いサンゴ礁」
サンゴ礁を舞台に、その周りに生息する貝やそこを通り過ぎる魚たちなどをコマとして収録している。
相手のコマを後ろに戻させ、バトルを不発にし、スキル発動を打ち消させるといったいわゆるパッシブ系スキルを持つコマが多い。
コストに対してパワーや移動力が低く設定されており、いかに相手のコマを自分の陣地に近づけさせないようにするかが最大の課題である上級者向けのデッキである。
(10ターン目)
勝負も中盤戦に入るが両者のコマは微動だにしていない。
しかし両者の表情はキッパリと分かれていた。
菜蔵の顔はイラつきで歪み、対照的に青島は笑顔を浮かべている。
青島が煽りを飛ばす。
「先輩いつまでチンタラ動いているんですか〜♡さっさとバトルに来てくださいね〜♡」
青島は勝負前の怯えぶりはすっかり鳴りを潜め、今は嬉々として菜蔵のプレイを煽り倒している。
「ンギギギギ…」
青島からの煽りに対して、菜蔵は必死に怒りを抑えていた。
無論菜蔵とてコマを進めていないわけではない。
青島の指示するコマ、青いタツノオトシゴのスキルによって移動したそばから元のマスに戻されてしまうのだ。
菜蔵は心のなかで苦悶する。
(バトルさえ、あのニヤケヅラのコマのマスにコマを移動出来れば俺の勝ちのはずなのにぃ〜…)
青島の陣地を構成するコマの大半はパワーが1、他はパワー2のコマがまばらにいる状態である。
しかもそのコマのほとんどが移動力を持たない、ただの置物状態である。
純粋なバトルで勝敗が決するのであれば、例え目隠しで適当にコマを移動させても自分は余裕で勝てるという確証が菜蔵にはあった。
しかしコマを移動しては戻され移動しては戻され、既にバトルが全く発生しない状況で30ターンが経過していた。
「先輩のこと強い強いって聞いてたから期待してたんですよ?それがコマを前に進めるしかしないって、ソレ赤ちゃんでも出来ますよね♡」
青島は口撃を緩めない。
無論相手がスキルで手も足も出せない状況という確信があるからであるが。
自動車を運転することで心の余裕が無くなり、性格が豹変する人種が存在するが青島も同じ人種なのだろう。
ただ一つ言えることは、相手に精神的苦痛を与えている時の彼女の表情は最高に輝いていた。
「青いイルカのスキル発動♡そんな情けない先輩のコマちゃん達にはバブちゃんになってもらいます♡」
青島がそう指示すると、菜蔵のタマネギ兵士のパワーは4から1に変更されてしまった。
これではやっとバトルにこぎ着けても相討ちが関の山である。
「グギギギギギギ…」
菜蔵のうめき声が止まらない。
バトルは出来ない、パワーは下げられまくる、それをダシにガンガンプライドを傷つけられる、と静かな戦況とは裏腹に、菜蔵は既に立っているのがやっとといった状況であった。
周りで勝負を観戦する下級生達もその菜蔵の様子に同情を口にする。
「だから闘わないほうがいいって伝えたのに…」
「青島のヤツも性格悪いよな、コッチの動き全部キャンセルして動けなくするクセに死ぬほど煽って来るんだぜ!」
「あの兄ちゃんはまだマシなほうだよ、コッチはやっと条件満たしてEXデッキから出したモンスターを即デッキに戻された上に爆笑かまされたんだぞ!」
青島のプレイに同情する男子生徒は1人としていない。皆大なり小なり青島に勝負の出鼻を挫かれ苦い経験をしているためである。
(こんな状況じゃ精力増強も菜王バンプキングも迂闊に使えねぇ、一体どうしたらいいんだ?)
コマバト勝負とはお互いのコマのパワーを果敢に削り合うという認識だった菜蔵は、対面拒否という未知の戦法を使う相手に勝利を掴めるだろうか?
(第2-3話 終)




