第2-2話 駒場斗真VS段田舞人
(3階)
駒場と天塚は3階の教室に到着していた。
3階は3年生の通うクラスであるため普段は来る機会が少ない。
扉を開けると飛び降りの未遂現場が目に入った。
栄養不足のヤシの木が光合成を行う為に窓から顔を出している様な姿の男が、件の飛び降り未遂の段田舞人である。
ヤシの木にヤシの実が成る様に、上級生二人に背中を羽交い締めされながら段田は慟哭する。
「チキショウ、つまんねーつまんねー!何でこの世にゃ魔法もスキルもかわいいヒロインも存在しねぇんだよ!!」
「ワケ分かんねぇ単語を必死に詰め込む作業の繰り返しの人生なんてもうウンザリなんだよ!!」
「俺はこっから飛んで死ぬ!!そんでワンチャン異世界に転生して、そっちで理想の人生を過ごす!!」
文字通りの自殺行為に希望を託そうとする羽無しイカロスを、他の取り巻き達は必死に説得しようとする。
「お前はただのノイローゼなんだって!一回冷静になれって!辛くて悩んでいるなんて皆一緒だろうが!!」
「この世にヒロインがいないなんてお前の努力不足だろうが!」
「万が一異世界に転生出来たとしても、どうせ同じ様な障壁に躓いて挫折して、ロクな人生過ごせないわよ!」
1人の人間の生き死にの掛かった修羅場に人生で始めて遭遇した天塚は、目の前の光景から目が離せず狼狽えるばかりだった。
「ねぇ駒場くん、どうしよう?やっぱり先生探しに行った方がいいかな?」
駒場からの返答は無い。
何故なら既にその場に居ないからである。
希死念慮に囚われた段田に学友の言葉など届かない。
しかし全ての説得をノイズキャンセリングしたはずの段田の鼓膜を、素っ頓狂な問い掛けが貫通してきた。
「なぁ、アンタコマバト強い?」
「!?」
段田が下を覗くと、窓枠と自分の胸の間から首を突っ込んでコチラを直視する駒場の顔がそこにあった。
「な…、ハァッ!?」
駒場の意表を突く登場に、思わず段田の窓枠を掴む握力も弱まる。
「おい今だ、引きずり込め!」
今が好機と、段田を羽交い締めしていた上級生が力を込める。
こうして窓から完全に引き剥がされ、荒波打ち付ける岩場にへばり付いたアワビのように抵抗を続けていた段田は、望まずして現世でのロスタイムを手にしたのであった。
「チキショウ、何で止めやがった!!」
段田は駒場に食ってかかる。
駒場は事もなげに答える。
「なんでって…、コマバト強いヤツ探してるっていうのに勝手に死なれちゃうんじゃコッチの損だからな」
余りに別ベクトルの回答に段田は唖然とする。
(なんてこった、俺は既に異世界に転生していたのか…?)
段田の思考停止を余所に駒場は質問を投げかける。
「なぁなぁ、コマバト強いのか強くないのかドッチなんだよ?コッチも部員探しで忙しいんだよ!」
駒場の横柄な態度にムッとなり、段田も返す。
「コマバト強いかだと?あぁ俺は強いぜ!なんせ小坊だった時には県大会に2回も優勝しているんだからなぁ!!」
その言葉を聞き、駒場の目が輝く。
「じゃあ、ここで俺とコマバト勝負をしようぜ!アンタが勝ったら好きに跳んでって良い!もしも俺が勝ったら俺達の部員になる!どうだこの勝負、受けるか?」
駒場からの提案に段田はしばし逡巡し、やがて大きく笑い始める。
「かーっかっかっか!」
「おいお前ら聞いたな!あの下級生が、"俺が勝ったら跳んでいいです"だとよ!!」
「だから俺がコイツとの勝負に勝って"跳ぶ"ときには絶対邪魔するんじゃねぇぞ!!分かったな!!?」
段田はクラス中に響き渡るようにワザと大きな声で状況を理解させる為に叫ぶ。
「わ、分かったよ…」
個々人の倫理観をかき消してしまうような段田の尋常ではない気迫に押されて、周りの上級生達も渋々条件を了承してしまう。
その返答を聞いて、段田は心のなかで安堵する。
(かたちだけでも周りのヤツらに"ウン"と言わせたンだ。今度こそ絶対に邪魔はさせねぇ…)
「あ~、もう意味分かんない!」
唐突なコマバト勝負の許諾までの流れに、天塚は頭を抱えて教室入り口でうずくまって
しまっていた。
段田:デッキ名「瞬々必生!ボンバファミリー」
赤い法被を纏った爆弾をモチーフにしたキャラクターが数多く収録されている。
自身を破壊する代わりに周囲のコマに大ダメージを与える、文字通りの自爆スキルを持つコマが多い。
むやみにスキルを連発するとコマが減り自分の不利を招くため、扱うには相手のコマの動きを読む洞察力と決断力が求められる上級者向けデッキである。
(10ターン目)
勝負は段田有利な進行が続いていた。
「オラオラどうした!俺を止めるんじゃなかったのかよ!?」
段田が駒場を煽る。
駒場は既に苦戦で顔を顰めている状況だ。
駒場はリトルテレポーターのスキルを使用する。
そのスキルは、誰かがスキルを発動したタイミングで低コストの自分のコマを自分の陣地の好きな場所へ移動出来るというものである。
「自爆のボム太郎のスキル発動!周囲9マスのコマに5ダメージだ!」
「リトルテレポーターのスキル発動!リトルナイトを移動させる!」
黒い爆弾に法被を着せたようなキャラクターが爆発すると、それまで周囲にいたリトルナイトとリトルソルジャーが1体ずつ破壊されていた。
その状況を見て、天塚は周りの男子上級生にとある疑問を聞いてみる。
「なんで自爆のボム太郎が破壊されたのに、駒場くんにはポイントが入らないのですか?」
確かに画面に映し出されている二人の獲得ポイント表示のうち、先ほどの流れで駒場のポイント数は一切増えてはいない。
段田のコマも破壊されたはずであるのに、この違いは何故なのか?
上級生は答えた。
「自分の指示するコマが自身のスキルで破壊されたとしても相手のポイントにはならないってルールがあるんだよ」
「え、どうしてですか?」
「僕も開発者じゃないから真意は分からないけど、自爆も戦略のうちってことなんじゃないかな?」
他の上級生達が呟いた。
「言うだけあって段田もコマ運びが上手いよな。下級生のコマが移動できないマスに的確に爆弾モンスター達を配置して自爆させ、陣形全体にダメージをバラまいている。」
「しかもパワーがどれも10以上あるもんだから下級生のコマじゃ迎撃が間に合わない。」
「勿論その分コストが下級生のコマ達と比較してバカ高いから、自爆前に倒せれば良い勝負に持ち込めそうな雰囲気だけど…」
「バトルする前にドンドンフィールド上からから居なくなるから下級生はポイントを獲得出来ない」
「こりゃ下級生くんが勝つのは無理そうだな」
(駒場くん…)
苦戦を強いられている駒場の様子に天塚は心配を募らせていた。
(30ターン目)
「自爆のボム太郎のスキル発動!最後のリトルナイトを破壊だぁっ!」
段田がフィールドに残った最後のリトルナイトを破壊するため自爆のボム太郎のスキルを発動した瞬間、駒場が動いた。
「この瞬間、リトルテレポーターのスキル発動!リトルナイトを自爆のボム太郎の居るマスに移動させる!」
「何ぃ!?」
まさかの駒場のスキル割り込み宣言に、思わず段田も驚きを露わにする。
「同じマスにリトルナイトと自爆のボム太郎が存在するため、強制的にバトルが発生する!」
「さらにこの瞬間、俺ルールカード下刻条例を発動!発動直後、1度だけ勝敗を逆転させる!!」
リトルナイトがバトルに勝利したことで自爆のボム太郎は破壊され、発動するはずだったスキルも不発となった。
駒場はさらに畳み掛ける。
「リトルナイトがバトルに勝利したため昇格条件達成!リトルナイトをビッグナイトに昇格させる!」
フィールドには菜蔵からの劇的勝利を飾ったあのビッグナイトが降臨していた。
思わぬ逆転劇に周囲の上級生達も沸き立つ。
「スゲェ、やりやがったぞあの下級生!」
「ビッグナイトなら爆弾モンスターを直接叩きに行ける!」
「ここから下級生のコマが破壊ゼロで段田のコマを全破壊出来ればポイント獲得数でも優位に立てる、形成逆転だ!」
ビッグナイトの姿を見て、段田が何かに気づいた。
「ビッグナイト…?ハハァ、お前が噂のデブ殺しの駒場か!」
「いやデブ扱いって…」
余りに酷い異名にたまらず天塚もつっこむ。
デブ扱いとは、菜蔵にとっても酷い言われようである。
「まぁ、噂通りの実力ってことか。いいぜ、かかって来いよ!」
段田の挑発に駒場も答える。
「ビッグナイトを自爆のボム太郎のいるマスまで移動!バトルだ!」
すかさず段田が叫ぶ。
「この瞬間、自爆のボム太郎のスキルを発動!自身を破壊し、バトル発生を無効にする!」
「何!?」
段田のまさかの宣言に駒場も驚く。
「そんな…、まだ全然傷付いていなかった自分のコマをどうして?」
天塚も疑問を口にする。
スキルを発動する自爆のボム太郎の周囲に駒場のコマは無い。
同じ破壊されるという結果になるのであれば、普通にビッグナイトとバトルを行っていたほうがマシであると誰もがそう感じるはずである。
だが、段田には別の狙いがあった。
「ビッグナイトがマスに移動した瞬間、俺ルールカード特級地雷を発動!発動条件は自分の爆弾モンスターがスキルを発動したマスに相手のコマが移動すること!効果は移動したコマを無条件で破壊だぁっ!!」
「「「!!」」」
駒場とギャラリーに緊張が走る。
前回の菜蔵との勝負を決めたビッグナイトが僅か1ターンで処理されてしまった。
天塚は絶句する。
「駒場くんの決まり手が!」
(1階)
「なかなか条件通りのヤツが捕まらねぇなぁ〜」
菜蔵は1年生のクラスを周って部員のスカウトを進めていた。
「おい、何でもいいからもっと強いコマバトラーは居ねぇのか?」
菜蔵は対戦相手の下級生に聞いてみる。
「居ない事も無いんスけどね、闘った後メッチャムカつくと思いますよ?」
「闘った後メッチャムカつく相手?」
菜蔵は下級生の言い方が気になった。
確かに勝負に負ければ大なり小なりイラッとは来るだろうが、わざわざ念押しされるような相手とはどんな戦法を使うのだろうか?
下級生の指差す先には少女が座っていた。
(第2-2話_終)




