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第2-1話 全国コマバト選手権始まる!

6月の始め、大手動画投稿サイトにてコマバトの公式チャンネルより1本の動画が公開された。

「全国の中学生諸君、おはコマ〜」

「あ、皆サン初見だと思うんですケド、ワタクシ神田神男と申しマス」

画面上には覆面を付け、白地に黒の格子が走ったようなスーツを着用している男が写っている。

覆面からチラ見えする金髪、独特のイントネーションから浮世離れした人間であることは疑いようがないだろう。

神男は続ける。

「中学生の皆サンに聞きたいことあるデス」

「あなたの人生、グレートデスカ?」

「親の言いつけ聞いテ面白くもない勉強三昧、塾だクラブだデ遊ぶ時間も減らされテ」

「手本にナルベキ大人達は暗いカオして俯き状態」

「コンナ社会情勢、生きてく希望がありませんヨネ?」

「そこでワタクシは未来アル皆サンに向けて、ビッグなサプライズを用意しまシタ!」

ドラムロールが始まると同時にカメラが引いていく。

「ココに『全国コマバト選手権』の開催を告知シマス!!」

背景にはいかにも目立つ書体で『全国コマバト選手権』という文字がデカデカと掲げられている。

「各中学校から5人カラ応募可能デ、優勝商品は『何でも願い事を一つ叶えられる権利』を優勝チーム全員に与えマス!」

「『お金が欲しい?』OK!好きな単位のお金を即時指定口座マデ振込マス!」

「『死ンジャッタ人に会いタイ?』OK!1年間の健康保証書マデ付けちゃいマス!」

「『イジメっ子を懲らしめタイ?』OK!その子を無限地獄にゴ招待しちゃいまショウ!」

「とにかく皆サンの明るい未来のタメ、ワタクシ達に不可能はゴザイマセン!」

「ご応募お待ちしておりマス!」

動画はここで途切れた。


(翌朝)

場所は六角中学校のクラス内。

他の生徒に比べてデカい声で騒ぎ立てる2つの声があった。

「おいおいおいおい、見たかよ公式チャンネルのあの動画!」

「あぁ見たぜ、『コマバト選手権』!どんなヤツと闘う事が出来るのかワクワクするよな!」

山森菜蔵と駒場斗真の二人である。

転校初日のコマバト勝負の大激戦の末、今ではすっかり旧知の仲といった関係性となっている。

そんなコマバト馬鹿の馬鹿騒ぎに隣の席の天塚江留はさぞかし顔を顰めているだろうかと思われるがそうは違った。

(〜♫〜)

耳にワイヤレスイヤホンをしっかり嵌めて音楽を楽しんでいる。

天塚なりに考えた、逃れようのない隣人トラブルから身を守る為の賢明な防御策であるが…。

「なぁ!天塚!聞いてっか!?」

山森にイヤホンを強引に引き抜かれて鼓膜に大ダメージを叩き込まれてしまった。

馬鹿にプライバシーは理解出来ないのだ。

「うるっさいわね!一体何よ!あとイヤホン返しなさいよ!」

相手に無礼な態度を取られたにも関わらず冷静に要件を確認し、あまつさえ取り上げられたイヤホンの所在にまで気を配る天塚の思慮深さ、なかなか真似出来ることじゃない。

「「頼む、コマバト選手権の参加メンバーを集めたいんだ。給食時間中手伝ってくれ!」」

駒場と菜蔵は手を合わせて頼み込む。

「ハァ?何で私が?私を巻き込まないでよね!」

天塚は二人の提案を断固拒否する構えだ。

そもそも無礼な態度で突っ込んできたのは向こうの方である。

「目には目を」「歯に歯を」と刻んだハンムラビ法典にも「無礼な態度には無礼な態度を」と近々刻まれても不思議ではないだろう。

「頼むって!天塚みたいな女子も一緒に呼び掛けてくれないと、人が近寄ってこないンだって!」

駒場の真剣に頼み込む姿をみて、天塚は提案を跳ね除けることを躊躇してしまう。

何故ならば件のコマバト勝負を間近で観戦し、勝利を追い求める駒場の姿勢にときめきを感じてしまったことは代えがたい事実であるためだ。

「ま、まぁ一回だけなら?手伝ってあげなくもないけど?」

「「ヨッシャー!」」

天塚が折れた。本人に何の利益がないにも関わらず、損得勘定を二人に対する哀れみと親切心が上回ったのである。


(給食時間)

皆が楽しみにする給食時間。

その教壇に立ち演説を行う3人の人影があった。

「コマバト部員に参加お願いしまーす!」

「俺達と一緒にコマバト選手権で優勝目指そうぜ!」

「…」

声を張り上げている駒場と菜蔵を尻目に天塚は黙りこくっていた。

彼女の前後ろには段ボールで作られたエプロンが掛けられており、赤色のマーカーで「コマバトやろうぜ!」と殴り書きされている。

俗にいう「サンドイッチマン」のような外見となっている。

クラス中の好奇の眼差しは教壇で騒ぎ立てる馬鹿二人ではなく、場違いに立ち尽くしている天塚に向けて一点集中されていた。

(私の馬鹿…)

天塚は自分の軽弾みの承諾への後悔と視線を浴びる羞恥心から、顔をパトランプのように点灯させ一声も出せない様子だった。


1人の男子生徒が手を挙げる

「俺、あの大会だけは参加しないほうがいいと思うぜ」

「「「---!?」」」

普段のコマバト狂いっぷりからは想像出来ない男子生徒の理性的な提案に、3人は衝撃を隠せない。

「好きなお金を好きなだけ振込とか死者を蘇らせるとかさ、どう解釈しても現実的に有り得ないよね」

「最初っから最後まで脚本で決められててさ、企業が勝たせたいチームにショボい願いを言わせてお開き、っていう流れの方が現実的に有り得なくないか?」

現実的な企業プロモーションの着地点を指摘する男子生徒を皮切りに、男子生徒達からの意見が次々と飛び出してきた。

「そうだそうだ。どうせインフルエンサー相手の端役くらいでしか動画で使用されなかったり、不自然な対戦動画の遅延やミスプレイの強要で全世界に負け犬のレッテルを貼られる羽目になるんだぞ!」

「今時は大企業でもハッカーにセキュリティ割られて数十万単位で個人情報漏らされるとかザラにあるからさ、実戦経験を積みたいなら近所のカードショップを巡った方が賢明じゃない?」

天塚は驚愕した。

なんという理路整然ぶり。

男子生徒なぞ「コマバト」の四文字を耳にした途端理性を脳から引きずり出して食べ始めるパブロフの犬だという認識だったが、ことネットリテラシーへの理解の深さには弁論の余地もなかった。

こうして馬鹿三人の行った給食時間の馬鹿向けアジテーションは何の成果を上げることは出来なかったのであった。


(放課後)

「クソッ、何でアイツらこういう時だけノリが悪いんだよ!」

机を叩きながら菜蔵がぼやく。

悔しがる菜蔵を尻目に天塚の表情は得意満面だった。

(仲間だと思っていた男子生徒に正論ぶつけられて、駒場くんも大層ショックを受けたでしょうね)

(まぁ、これに懲りたらコマバトなんて卒業して、普通のお友達になれたら良いんだけど)

そう言って駒場を眺めると様子がおかしい。


「いや~、ますます選手権参加が楽しみになってきたなぁ〜」

「「えぇっ!?」」

二人は思わず聞き返す。

菜蔵は思わず問いかける。

「だがよぉ駒場、給食の時にあんだけ周りのヤツらに止めとけ、って注意されたんだから流石に---」

菜蔵の発言を駒場は遮る。

「菜蔵、逆に考えるんだ。普通の人間がまず避けるような常識はずれの大会に参加しようなんてヤツはそれに縋らないといけないレベルで切羽詰まっている人間か若しくは…」

菜蔵は少し考え込み駒場を指さす。

「…お前みたいなウルトラコマバト馬鹿?」

「そう、正解!」

天塚は呆れ返ってしまった。

隣の馬鹿の大会参加の熱は一向に落ちていないのだ。

「この辺りじゃまずお目に掛かれないような尋常じゃない強さのヤツらとかち合って」

「予想外の戦法に振り回されたとしても」

「脳みそが焼き切れそうな状態から逆転の糸口を切り開いて勝利を掴む」

「その快感と栄光を味わってみたいと思わないか!?」

「オオオオッ!!」

菜蔵は完全に乗せられていた。

先ほどまでの腐りようが嘘のようである。

駒場の圧倒的な語彙力と説得力に、天塚はドン引いていた。

(普段は小学生レベルの単語しか口にしないクセに、コマバトのことになるとどんだけ頭が回るのよ)

(駒場の天職は詐欺師が政治家ね…)

「ようし、こうなったらスカウトだ!」

「菜蔵はクラスのヤツらに片っ端からコマバト勝負を仕掛けて、条件に合うヤツを声掛けてくれ」

「よし、分かった」

菜蔵が返答すると同時に、上の階から大声が聞こえた。

「誰か段田くんを止めて〜!!」

「コイツ窓から飛び降りるつもりだー!!」

余りに切迫した叫び声に三人に緊張が走る。

「どうする駒場?」

「俺は上の階に行って様子を確かめてくるから菜蔵はスカウトを進めてくれ」

「わ、私は上の様子が心配だから着いていく」

三人は二手に別れることとなった。

「そうそう、スカウトの条件についてだけどな---」


(第2-1話_終)

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