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第1-4話 絶望への下剋上!

(46ターン経過後)

それは奇跡のようだった。

リトルナイトの眼前のコマで菜王バンプキングは移動を止めたのだ。

バトル発生せず。駒場にターンが回ってきたのであった。

(どうして…?)

天塚が考えを巡らせようとした瞬間、菜蔵の怒号が教室中に響き渡った。

「ふっざけんじゃねぇ!策もねぇならどうしてここまで降参しなかった!?俺に絶対勝てる自身と戦略があるから勝負を吹っかけてきたんだよなぁ!?散々無駄な期待を持たせやがって、この時間泥棒が!!」

「ほらよ!1ターンだけ待ってやるから逆転してみせろよ!!」

菜蔵は怒りに燃えていた。

クラスの相手なら精力増強発動の時点で降参まで追い込めた。

そこに手応えのある強敵が現れたと内心歓喜して奥の手までギャラリーに披露した揚げ句、逆転されないように慎重に慎重を重ねてプレイングを行ってきたのだ。

それは氷面の上を歩くようなストレスを菜蔵に与え続け、それが駒場の態度を受け爆発したのであった。

(大丈夫だ。策がなければ駒場の自滅、仮に駒場の策でコマが全滅したとしてもポイントでは圧勝。万が一にも俺の勝利は揺るがない。)


駒場が口を開いた。

「この…」

駒場はコマバト勝負が開始して以来、彫像のように固まっていた体勢を動かし始める。

そして胸ポケットに指を差し込んだ。

「瞬間を…」

駒場の胸ポケットからカードが抜かれる。

(大丈夫だ!絶対大丈夫!!コマのパワー増強?コマの破壊?何が来たって絶対凌いでみせる!!)

菜蔵の脳内を警告と緩和の信号が濁流となって押し寄せる。

「待っていたぁっ!!」

駒場がカードを頭上に掲げた瞬間、天塚は駒場の全体が閃光となって光り輝いたように感じた。

「俺ルール発動、下刻条例!!」

「発動後1度のみ、バトルの勝敗を逆転させる!!」

「ン何ぃ〜!勝敗逆転〜!!?」

菜蔵の反応を見て、天塚の顔も自然と明るくなる。

駒場は畳み掛ける。

「そのままバトルだ!リトルナイトで菜王バンプキングを攻撃!」

「ぐわぁぁー!!」

菜蔵の逆転の起点となったあの菜王バンプキングが、消しゴムカスのようにちっぽけな存在とみなしていたリトルナイトとのバトルで脆くも崩れ去った。その光景に菜蔵はたまらず絶叫してしまう。

騒ぎを聞きつけ、帰宅途中だったギャラリー達も一斉に輪に加わり出す。

「何があった!?」

「転校生のチビが菜蔵のデカカボチャに勝ったんだとさ」

「えっ!何々!?じゃあ転校生の勝ち?」

「まだ決着は着いてないよ、今のところは」

確かにギャラリーの言う通り、駒場のカードの効果は切れ、残ったのはただのリトルナイトである。

「驚かせやがって」

「確かに菜王バンプキングがやられたのは目ン玉飛び出るかと思ったが、それでも俺の勝ちは揺るがねぇ!」

「いいや、揺らぐねぇっ!」

教室中のペースは完全に駒場の支配下となっていた。

「俺の場に残されたリトルナイトは自他共に認める最弱なコマだ!」

「だが、ある一定条件を達成した時に限り、EXコマに昇格プロモーションすることが出来る!」

菜蔵はこれから迫りくる恐怖に怯えながら駒場に問いかける。大方見当はついているのだろう。

「そ、そのある一定条件ってぇのは、もしかして…」

「そう!リトルナイトがバトルで相手モンスターを破壊する事だ!!」

「ギャー、やっぱりー!!」

「これが俺の決めゴマ(フェイバリット)だ!」

「小さき己を脱ぎ捨て、その雄々しき姿を示せ!ビッグナイト!!」

剣をかざしたリトルナイトが天空に飛び立った後、堅牢そうな鎧を纏った5頭身のコマがフィールドに降臨した。

そのパワーは菜王バンプキングと同じく20!!

菜蔵のコマ2体の合計パワーは18、すなわちパワー勝負においても上回る事が出来たのである!

完全なる逆転にギャラリーは未曾有の大歓喜に包まれていた。

天塚はといえば盤上の逆転劇には目もくれず、駒場の表情だけを追っていた。

(あんな状況に追い込まれたのに自分を信じ抜いて本当に逆転しちゃうなんて、フツーにかっこいいじゃん!)

「いいや、まだ終わらねぇ!」

ここに来て菜蔵も食い下がる。

「確かにこのままマジメにバトルすりゃあ、コッチに勝ち目は無ぇだろうよ」

「だがよ、どうやって残りのターンで俺のコマを両方ともバトルするつもりだ?」

菜蔵の言う通り、お互いのコマは盤上の端と端に位置しており残り3回の移動ではどうやっても届きそうにない。

「カッコ悪いがここから逃げまくって---」

「悪いがもうチェックメイトなんだわ」

菜蔵の話を遮り駒場が釘を差す。

「ビッグナイトのステータスを確認してみな?」

駒場に促されステータスを確認する菜蔵。

「---ッ!!」

思わず絶句してしまう。

着目すべきポイントは移動力である。

通常コマには1ターンで移動可能なマスが設定されている。

ところがビッグナイトの移動力は制限無し、フィールドの好きなマスに移動できる。

「俺のフェイバリットが出張ってきたんだ。逃げ場は無いと心得な!」

此処に勝敗は完全に決着した。

俺ルールカードもEXモンスターも使い切った菜蔵に逆転の策は残されていない。

菜蔵は慟哭する。

「あの瞬間、」

「あの瞬間に、」

「油断さえしていなければ〜!!」

それと同時に駒場も手を突き上げ宣言する。

「菜蔵のお野菜デッキ、これにて攻略完了クリアー!!」


(勝負後)

菜蔵は完全に不貞腐れている。

目前の勝利を取り逃したのだ、悔しさもひとしおだろう。

しかしギャラリーに囲まれている手前、とうとう観念する時が来た。

「クソクソクソ!あーもう、分かったよ!俺の負けだよ!!」

「明日から俺のデザートも全部持っていけってンだチクショーめ!」

しかし菜蔵の敗北宣言に対して、駒場はポカンと呆れ顔だ。

「何言ってんだ?俺はそんなモン賭けた覚えはねぇぞ?」

「「ハァ?」」

てっきりクラス中のデザート権が賭けられていたと思い込んでいた一同は大きく脱力する。

「俺は強いヤツとコマバト勝負したかっただけだ」

「さっきのは良いコマバト勝負だった。また明日も勝負してくれよな!」

菜蔵に手を差し出す駒場。

「この、コマバトバカが!」

苦笑の表情のまま差し出された手を握り返す菜蔵。

二人の友情の誕生、そしてその二人の繰り広げた熱いバトルを称賛してギャラリーからは拍手が送られる。

天塚も自然と拍手をしていた。

美しき光景を前に、その目には涙が浮かんでいる。

(男同士の友情っていいな、コマバト始めてみようかな)

そんなことを考え帰宅した天塚であった。


(翌日の給食時間)

駒場の机の周りには人だかりが出来ていた。

「今日の放課後にさ、俺とコマバト勝負してくれよな!」

「お前のデッキなんてまだ構築不足なんだからコッチに譲ってくれよ!」

「試したい新戦略があるんだけどさ、練習相手になってくれない?」

昨日のコマバト勝負を目にした男子生徒が奮起して、駒場にコマバト勝負を持ち掛けているのだ。

菜蔵の敗北に伴いデザート献上隊は即時解散となったのであるが…。

「頼むよ〜駒場ぁ〜、俺のいちごプリン渡すからさ」

「ズルいぞ、それならコッチは明日の分までデザート渡してやるぞ」

デザートは駒場とのコマバト勝負の交渉材料へと成り下がってしまったのであった。

「駒場ぁー!再戦しろー!今度は絶対負けねぇぞー!」

菜蔵は人一倍声を張り上げている。

「分かった分かった。放課後皆まとめて相手してやるぜぇ!」

沸き立つ男子生徒の脇で頭を抱える女子生徒が1人、天塚江留である。

駒場が一気にクラスのヒーローに成り上がってしまったため静かに給食を楽しめず、オマケに他の女子生徒から(何で付いていながら止めさせなかったの)と敵視される羽目に。

(やっぱり男子の友情もコマバトもクソだわ)

天塚の啜る牛乳の味は、ほのかに苦みが感じられた。


(第1-4話 終)

この作品、全力で書いています。

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