第20-1話 上手に焼かせてたまるか!
菜蔵が試合場に到着すると、モヒカンヘアにオレンジのタンクトップ姿、腕の筋肉がよく目立つ大柄な男が立っていた。
「遅いぜ六角中!俺っちは飯鳩中イチの肉好き、肉宮だ!さぁ、ウェルダンな熱い試合にしようぜ!」
肉宮は筋肉を動かしながら菜蔵にファーストコンタクトをとる。
「お、おう…」
肉宮の余りにも暑苦しい姿に、菜蔵も少したじろいでしまっていた。
肉宮十八: デッキ「ジュージュー肉コース」
牛脂、鶏肉、牛肉、豚肉と、まさに焼肉のコース料理のようなコマが揃ったデッキだ。カロリーも重量級そうだが、それ以上にヘビーな戦略が!?
(1ターン目)
試合開始早々、肉宮が動いた。
「頑張り屋のビーフィーのスキル発動!頑張り屋のビーフィーはこっから20ターン開始まで焼き状態に入るぜ!」
「焼き状態?」
菜蔵は聞き慣れないワードに首を傾げる。
肉宮は待ってましたとばかりに答える。
「焼き状態とは頑張り屋のビーフィーが昇格するためのいわばチャージ状態!20ターン開始まで移動もスキルも発動できなくなるが、そっから先が本領発揮だぜ!」
「説明ありがとうな!つまり20ターンまでにソイツをぶっ倒せばいいんだろ?やってやるぜ!」
息巻く菜蔵を、肉宮はさらりと忠告する。
「言っておくが、俺のデッキの防御は生半可な脂身程度じゃねぇぜ?お前のナイフで突き刺せるかな?」
「うるせぇ!パワー10の地蔵コマなんて、簡単に倒せるに決まってるじゃねぇか!」
ターンが菜蔵に移る。
(2ターン目)
菜蔵の直近の課題は、頑張り屋のビーフィーを20ターン開始前に撃破することである。
菜蔵は考える。
(正攻法でコマを動かしてビーフィーにバトルを仕掛けてパワーを減らすにしても、コマ1体の移動に大体4、5ターン掛かる)
(頑張り屋のビーフィーの両隣に配置された、目立ちたがり屋のトリッキーと殴られ屋のポーキーとかいうコマに妨害されることも考慮するとコッチで動かすコマは5体)
(そうなると掛かるターンは20〜25ターン、いつもなら焦っちまう俺だが、今回はコイツがいる)
菜蔵はいつもの布陣に加えて、トウモロコシ兵士というコマを加えている。
(コイツは選んだ相手のコマ1体に2ダメージを与える遠距離攻撃のスキル持ち、肉宮のモンスターのブロックをすり抜けてビーフィーだけを狙い打てる!今までの経験が生きた結果だなこりゃ)
菜蔵の使用する野菜モンスターの多くはバトル特化のスキルが目立つテーマである。
しかし、直近の天塚、青島が相手陣地から妨害を仕掛けてくるコマ達に苦戦を強いられてきた経験を活かし、トウモロコシ兵士をデッキに投入したのだった。
菜蔵はトウモロコシ兵士のスキルを宣言する。
「トウモロコシ兵士のスキルを発動、頑張り屋のビーフィーをえら、べねぇ!」
目の前に映る画面で選択出来るのは目立ちたがり屋のトリッキーだけとなっていた。
肉宮が自信満々に答える。
「ハハハ、遠距離攻撃だ?温い温い!目立ちたがり屋のトリッキーが全てのスキルを受け止める!用事があるなら、直接来るんだな!ウチはUber Eatsお断りだぜ!」
「クッ、対策済みかよ!」
だが発動を宣言してしまったため、菜蔵は目立ちたがり屋のトリッキーを選ぶしかない。
「目立ちたがり屋のトリッキーを選ぶぜ!」
トウモロコシ兵士のコーンが体から飛び出し、トリッキーに命中する。
目立ちたがり屋のトリッキーの残りパワーは3。トリッキーがフィールドにいる限り、トウモロコシ兵士によるビーフィーの撃破は逆に遠ざかってしまう。
菜蔵の気持ちが昂る。
「こうなりゃ正攻法だ!何としてもあの牛肉をぶっ飛ばす!」
(5ターン目)
菜蔵の動かすコマの先陣を切っているジャガイモ兵士が、肉宮の陣地前列に居る牛脂ガールとバトルが発生する。
ジャガイモ兵士のパワーは4、牛脂ガールのパワーは1。ジャガイモ兵士は牛脂ガールを難なく撃破する。
しかし、菜蔵は次のターンにジャガイモ兵士の異変に気づく。
(コマが、動かせねぇ)
ジャガイモ兵士の表面には牛脂ガールから放たれた牛脂が纏わりついており、とても動かせる状態ではなさそうな様子だった。
肉宮が状況を説明する。
「牛脂ガールはバトルに敗北したとき、相手のコマを2ターンの間、そのマスに釘付けにするスキルがある。まぁ、ビーフィーの焼き上がりまでゆっくりしていってくれ」
「ゆっくりしている余裕なんてねぇっつーの!」
菜蔵の苛立ちが募る。
(9ターン目)
今度はニンジン兵士が、ついにビーフィーとバトルする射程圏内に入った。
ニンジン兵士を移動させようとした菜蔵の表情が曇る。
(おいおい、まだあんのかよ…)
画面上にはニンジン兵士のバトル指定先に、目と鼻の先にいるビーフィーではなく、隣の殴られ屋のポーキーだけが表示されている。
「このポーキーってヤツも誘導スキル持ちなのかよ?」
菜蔵は肉宮に尋ねる。
肉宮は答える。
「あぁ、殴られ屋のポーキーのスキルはその名の通り、隣接するコマの誰よりもバトルに選ばれるスキルだ。俺っちのお通しだと思ってくれ!」
「随分ギトついたお通しだな!」
菜蔵は冷静に考え直す。
(文句を言ってもどうにもならねぇ、ポーキーのパワーは9。どう頑張っても3回は進撃が止められちまう。やべぇぞ、どんどんターンが遅れちまう!)
ニンジン兵士がポーキーにバトルで敗北するかたちでターンが移る。
(控え席)
試合の様子を見ていた段田が呟く。
「あの肉宮という相手、戦略が上手いな」
天塚がそれに反応する。
「あのう、どのへんが上手い戦略なんでしょうか?」
段田は解説する。
「最初にビーフィーの焼き状態を宣言したとき、相手は十中八九ビーフィーを最短で撃破しに向かうだろう」
「そうですよね」
「しかし蓋を開けてみれば、トリッキーのスキルダメージ誘導で遠距離からの撃破は困難、牛脂ガールで予想外の足止め、さらには隣のポーキーを倒さないとビーフィーにダメージすら与えられない」
「天塚ちゃんならどう思う?」
「それは嫌ですよ、自分の計算から想像出来ないくらいターンが伸び続けるんですから」
「そう、それが肉宮の戦略の妙なのさ」
「パワー10だとコマを進めたは良いものの、どんどん進行が遅くなる、ビーフィーはフィールドに居座り続け、どんどん20ターンが迫ってくる」
「ちょっと…考えたく無いかもです」
天塚の表情が曇る。
「今のやり方が正攻法なのかも分からない、しかし指示間違いならさらに撃破が遠のく、肉宮の戦略は自然と相手が追い込まれる構造になっているのさ」
横から青島が口を挟む。
「で、でもビーフィー以外のコマを倒せば、相手のコマは1体だけなので!」
「肉宮のデッキはビーフィーを守るためだけに特化されている、大分状況は怪しいぞ…」
(10ターン目)
「そろそろってところだな」
頑張り屋のビーフィーは体をひっくり返した。
ビーフィーの体表は綺麗な焼き色が付いており、肉汁のパチパチ弾ける音が聞こえてきそうなリアルさである。
(くそっ敵ながら美味そうじゃねぇか)
食材が料理へと変貌しようとするその光景は、神々しささえ感じられる様子だった。
肉宮は体を震わせている。
「あぁ、俺には聞こえる、この肉汁の迸りが、まるでこれから先の進軍を祝福する拍手のように、脳に染み渡るぜ〜!」
(コイツ普通に気持ち悪いな…)
菜蔵は肉宮の様子を冷静に眺めていた。
(16ターン目)
「ニンニク兵士でポーキーとバトル、ポーキーを撃破だ!」
ニンニク兵士のスキルを2回発動し、パワーが9に上昇したニンニク兵士は、邪魔者のポーキーをついに撃破した。
そこに牛脂ガールのスキルから抜け出したジャガイモ兵士、トマト兵士、キャベツ兵士が参戦する。
(この4体で各1ターン毎にバトルに持ち込めれば、ギリギリビーフィーを撃破出来る!)
菜蔵の口に笑みが漏れ出す、その時だった。
「俺のターン、目立ちたがり屋のトリッキーを移動、ジャガイモ兵士とバトルだ!」
「ウソだろ!?ソイツ動けたのかよ!?」
16ターンまで一切移動しなかったトリッキーの移動に、菜蔵は驚きを隠せない。
「名前の通り、トリッキーなのさ。残念だがここでトリッキーともお別れだ」
トリッキーとジャガイモ兵士のパワーはお互い3。相討ちとなりフィールドから姿を消す。
「あぁ、あぁ…」
菜蔵の撃破計画はこの瞬間瓦解した。
残る面子ではビーフィーのパワー10を削りきることは出来ない。
「チクショウッ!トマト兵士を移動!」
菜蔵はコマの撤退を図る。
(残りターンじゃ削りきれっこねぇ!昇格されたEXモンスターから狙われねぇように距離を稼がねぇと…)
肉宮はその様子を見て大笑いする。
「ハハハッ、そうだ!大人しく待ってな!まぁ、どこまで逃げたって関係ないはなしだがな!」
そしてついに、運命の20ターンがやってきた!
「ついに焼けたぜ!俺の自信作…」
肉宮が静かに話す。
「頑張り屋のビーフィーを昇格、EXモンスターステーキングの登場だぜ!!」
頑張り屋のビーフィーが天高く舞い上がったかと思うと、それと入れ替わるかたちでステーキングがフィールドに降臨した。
その姿は、両面に焼き色のついた厚切りステーキに手足が生えたかのような姿をしており、両手にはナイフとフォークを装備していた。
「ステーキングを移動、そのまま近くのニンニク兵士とバトルだ!」
菜蔵は言う。
「へっ、長いターンも掛けたうえに、パワーがたったの20じゃねぇか、こんなの野菜モンスターの連戦、で…」
菜蔵は異変に気づく。
ステーキングのパワーが減っていないのである。
肉宮が自信満々に、菜蔵の疑問に答える。
「ステーキングのスキル、それはバトルによるダメージをゼロにするっていう最強の能力だ!!」
「ハァーッ!?」
菜蔵は驚愕する。
しかし菜蔵は言葉を返す。
「だ、だったらトウモロコシ兵士のスキルで…」
肉宮は菜蔵の話を遮る。
「焦るな焦るな、最高のステーキに必要なものは?」
「そう、ステーキソースさ!」
「俺ルールカード発動『極上防御』!フィールド上のステーキングを選ぶ!この効果により、ステーキングは相手のスキル効果を受けないぜ!」
カラメル色のソースがステーキングの体を覆い、ステーキングの輝きが更に激しくなる。
「ハァーッ!!」
菜蔵はまたもや絶叫する。
肉宮は菜蔵に告げる。
「もう分かっただろ?お前のモンスターどもは、コイツにとっては敵じゃなくエサにしか過ぎねぇのさ!」
(控え席)
ステーキングの登場にメンバー全員がざわつく。
駒場が話し出す。
「段田先輩、ヤバいっすよあれ!」
「見れば分かる!バトルでもスキルでもパワーが減らせない、つまるところ…」
「菜王_バンプキングじゃないと、ステーキングは倒せないので!」
「つまり菜蔵は、菜王_バンプキングが登場出来るようになる35ターンまでの間に…」
「コマが全滅しちゃったら負けってこと…?」
「バトルしないで逃げ切る、そんな器用な芸当、菜蔵に出来るのか?」
絶対絶命の状況。
苦戦必至の状況で顔が険しくなる菜蔵に、肉宮は語りかける。
「ここから先は勝負じゃねえ、食事だ!野菜バイキングとしゃれこもうか!」
菜蔵の頭に、ある策が浮かび上がる。
(こうなりゃアイツに賭けるしかないか?いや、現状それしか…)
(22ターン目)
「トウモロコシ兵士のスキル発動、牛脂ガールを選ぶぜ!」
菜蔵はフィールドに残された牛脂ーズを倒して、ポイントを稼ぎにいく。
肉宮は鼻で笑う。
「小細工が涙ぐましいなぁ!コーンか、ステーキの付け合せにしてやるぜ!」
強者の余裕ゆえか、他の野菜モンスターに目もくれず、4ターンを掛けてステーキングがフィールドを移動し、トウモロコシ兵士を撃破した。
その間も菜蔵は野菜モンスターを移動させ続け、なんとか時間を稼ごうと努力する。
肉宮はその様子を嘲笑する。
「おいおい、皿に盛り付けられた野菜が逃げ出すんじゃあないよ!」
ゆっくりと、しかし着実に、肉宮のステーキングは野菜モンスター達を追い掛け、バトルに持ち込んでいく。
トマト兵士、キャベツ兵士、ピーマン兵士…。
ステーキングに葬られ、菜蔵の野菜モンスター達はみるみるうちに減っていく。
しかし、菜蔵は無惨に倒れゆく野菜モンスター達の無念を思いながら、ひたすら35ターンを目指しコマを動かしていく。
そしてついに…。
35ターン目。
「菜王_バンプキングを登場!登場時スキルでフィールド上全ての野菜モンスター達のパワーを+2する!そのままバトルだ!」
フィールドに残る他のモンスターはキュウリ兵士と芽キャベツ見習い兵士しか残されていない。
しかし、自身のスキルでパワー22となった菜王_バンプキングがステーキングとバトルをすれば、それで全てが片付く、はずだった。
自身の敗北が目前だというのに、肉宮の余裕顔は崩れる気配がない。
「なーるほど、ソイツを狙ってたってわけか、ご苦労さんなこったな!」
「バトル中、ステーキングを昇格させるぜ!」
「なっ、EXモンスターをさらに昇格!?」
菜蔵も驚きを隠せない。
「肉さ倍増!肉厚ステーキング!コイツはバトル開始時、ステーキングのパワーが相手のコマより低い場合のみ昇格できる!」
肉宮の宣言に合わせるかのように、ステーキングの厚みが、2倍、3倍とどんどん膨らんでいく。
「肉さ倍増!肉厚ステーキング!のスキルにより、相手のパワー分、肉さ倍増!肉厚ステーキング!のパワーを上昇させるぜ!」
「何ぃー!!」
肉さ倍増!肉厚ステーキング!の元々のパワーは30。そこに菜王_バンプキングのスキル込みのパワーが上乗せされ、肉さ倍増!肉厚ステーキングのパワーは52となった。
菜王_バンプキングはナイフによって切り刻まれ、フィールドから姿を消した。
(控え席)
六角中の控え席には絶望の雰囲気が漂っていた。
青島が呟いた。
「もう、おしまいなので」
段田も同調する。
「あぁ、菜蔵のEXデッキの菜王に、パワー52を倒せるモンスターはもういない」
「卑怯なので!あんなに菜蔵先輩は頑張ったのに!」
天塚、駒場は出す言葉も見つからない。
ここで負ければ六角中の敗北。
ここまで繋いできた全国コマバト選手権への進出の夢が断たれてしまうのだ。
天塚 震えた声で駒場に問いかける。
「私達、頑張ったよね?ここまで来れたんだもんね?」
「あぁ、皆全力だった。また来年、頑張ればいいさ。」
(41ターン目)
上手い具合に肉さ倍増!肉厚ステーキング!のバトルを躱し続けたキュウリ兵士が倒れ、残る菜蔵の野菜モンスターは、コスト調整に入れられたのか、パワー3の芽キャベツ見習い兵士のみとなっていた。
(第20-1話_終)




