第17-1話 耐えろ天塚!メンブレ必至の悪魔戦術!
決勝戦第1戦、天塚が試合場に向かう。
そこには長髪猫背で顔色の悪い男が立っていた。
「ヒヒヒ、可愛らしい嬢ちゃんだ、俺のデッキの与える恐怖に耐えられるかな?」
入間晶: デッキ名「水晶に潜む悪魔たち」
悪魔崇拝の宣教師と悪魔がモチーフとなっている。
相手のコマを結晶化して動きを封じ、その結晶をリソースにEXモンスターを登場させる。
相手の愛着あるコマをリソースに使う分、相手から嫌悪されることが多い。
入間の陣地には邪教師デモンクリス、結晶食いのモーモン、闇教皇ジジババールというモンスターが3体のみ配置されていた。
コマの造形からは、ダークファンタジーが連想され、今まで感じられなかった瘴気のようなオーラが出ているような気さえして来る。
余りにも場違いな存在のコマに天塚は困惑する。
(何なの、このコマたち…)
(見ているだけで呪われそうな…)
天塚は入間に話掛けてみる。
「す、すごい凝った造形していますよねこのコマたち、何だか見てて怖くなるくらいな…」
「お、何だい嬢ちゃんなかなか見る目があるね」
外見に依らず、入間は気さくに天塚に応対をする。
「耐えられなくなったら早めに勝負を降りな」
「えっ?」
入間の言葉に天塚は一瞬固まる。
(2ターン目)
入間が動き始める。
「邪教師デモンクリスのスキル発動!相手のコスト3以下のコマ1体を結晶化する!見習い天使を結晶化するぜ!」
入間がそう宣言すると、邪教師デモンクリスの両手から光線が放たれ、見習い天使は透明な結晶に覆われて動きが固まっていた。
天塚は動揺する。
「えっ、私の見習い天使ちゃん、一体どうしちゃったの?」
入間が答える。
「そいつはまだ死んじゃいない、結晶っていう状態異常になっているだけだ」
「まぁ、結晶状態じゃ移動もスキル発動も出来ないがな」
「結晶状態を解除したいなら邪教師デモンクリスを倒せばいい」
天塚は結晶化された見習い天使を見つめる。
その表情は光線が当たった苦痛を感じた状態で固められている。
(待っててね見習い天使ちゃん、他の皆の力で助け出して上げるからね…)
(3ターン目)
「見習い天使を移動」
「打倒邪教師デモンクリスってわけか、歩いてちゃ間に合わないぜ?」
「結晶状態のコマ1つを媒介に、EXデッキからEXモンスター恐怖_ホラーモンを登場させるぜ」
入間の宣言の直後、見習い天使の結晶にヒビが入り始める。
「え」
結晶のヒビが大きくなるほどに天塚の中の不安も増大していく。
「そんな、イヤイヤ…」
そして結晶が割れ、中から中途半端に肉が残ったガイコツような見た目の恐怖_ホラーモンが姿を現した。
「ボラァァ!」
「イヤァァァッ!!」
共に試合を闘い抜いて来た見習い天使の変貌ぶりに、天塚は思わず声を上げてしまう。
入間は続ける。
「恐怖_ホラーモンのスキル発動、登場時相手のコスト3以下のコマ2体を結晶化させる」
「選ぶのはさっき移動させた見習い天使と端に置かれてる見習い天使だ」
「あぁ…」
先ほど救えなかった結晶化を今度は2体に掛けられる状況に天塚は言葉を出すことが出来ない。
「んで、恐怖_ホラーモンを移動させて、見習い天使とバトルね」
「て、天使教官_キャサリンのスキル発動!見習い天使のパワーを+3!」
恐怖_ホラーモンのパワーは2、パワーが4となった見習い天使がバトルに勝利した。
「ハァ、ハァ…」
結果的に相手のコマと変わったとはいえ、元見習い天使だったコマを倒してしまった罪悪感で天塚の顔は浮かないままだ。
菜蔵が呟く。
「天塚ちゃん大分ヤバくないか?」
「邪教師デモンクリスを倒さなきゃいけないのに、向かっていくそばから結晶にされちゃうんじゃ手のうちようが無いので」
「段田先輩、何で守護天使_ナナシーで結晶を防げないんすか?」
「入間が話す通り結晶化は状態異常、ダメージを与えてくるスキルとは別の種類だ」
「状態異常を防ぐっていうスキルだったら結晶化も防げるわけだが、今回天塚ちゃんのデッキにそのスキルを持ったコマは居ない」
「遠距離攻撃出来るスキル持ちのコマの1つでも教えておくべきだったぜ」
(4ターン目)
圧倒的不利な状況のなか、天塚は打開策を考える。
(遠距離から邪教師デモンクリスを倒せない以上、次に相手がEXモンスターを登場させた時に雨のカミタマ_エル・アマガちゃんを登場させてバトルさせるしかない、それまでは耐えないと…)
「見習い天使を移動」
「遠距離攻撃出来るコマが本当に無いらしいな?じゃあこっちも戦闘準備といきますか」
「結晶食いのモーモンのスキル発動!結晶化されたコマ1体を破壊して、自身のパワーを+3するぜ」
「えっ?」
"結晶化されたコマの破壊"のワードに、天塚は体が硬直する。
「選ぶのはさっき移動させた見習い天使の結晶だ」
すると結晶食いのモーモンから手が伸び、結晶化した見習い天使を掴んで手元に引き寄せる。
結晶食いのモーモンが結晶を口元に引き寄せる。
「イヤイヤ、ちょっと、待って…」
天塚の頭の中で、予感が現実となることへの激しい恐怖が沸き上がる。
バリバリという尖った音を立てながら、結晶食いのモーモンが結晶を食べ進めていく。
結晶の中で少しずつ原型が無くなっていく見習い天使が画面に映し出されていく。
「イヤーッ私の"見習い天使"ちゃんがーっ!!」
天塚は発狂する。
そして、結晶食いのモーモンがパワーを13に上げた画面が映し出されていた。
天塚の様子を見て、菜蔵が慌てる。
「おいおい、どうしちまったんだよ天塚のやつ」
「どうやら自分のコマが無残に破壊されることに大きく取り乱しているみたいだな」
「そんなのいつもの勝負でも同じだろ?」
「天塚先輩は自分のコマにすごい愛着を持っているので」
「雨のカミタマ_エル・アマガを筆頭に、まるで大事な家族みたいに扱うので」
「俺達はコマの死に様なんて慣れたもんだが、まだ実践経験の浅い天塚には厳しいだろうな」
(30ターン目)
邪教師デモンクリスの結晶化から結晶食いのモーモンのパワーアップの工程は続き、結晶食いのモーモンのパワーは22となっていた。
入間が天塚に問いかける。
「嬢ちゃん、最初のときと比べて随分やつれた様子だがまだ続けるかい?」
「ま、まだやれます…」
愛着のあるコマ達の破壊に次ぐ破壊。
精神を大きく削られながらも、天塚は気力と使命感だけでこらえていた。
(まだ諦められない、雨のカミタマ_エル・アマガちゃんで邪教師デモンクリスさえ倒せれば勝機はまだある!)
(皆が優勝を目指しているんだもの、私が足を引っ張るわけには行かないわ…)
天塚の様子を入間は興味深そうに見つめる。
「ほうほう、まだ頼みの綱があるか」
「ならこれはどうだ、EXデッキからEXモンスター狂乱_フレンジーマンを登場させる!こいつは30ターン経過が条件だぜ」
入間の陣地には、チェンソーを笑顔で持ったおじさんのようなコマが現れた。
「狂乱_フレンジーマンのスキル発動!コイツは相手のコマを1体選び、魔結晶へと状態変化させる」
「天使教官_キャサリンを選ぶ、言っておくがこの効果はスキルじゃキャンセル出来ないぜ!」
「あっ」
天塚のデッキの中核を担う天使教官_キャサリンに、遂に結晶化のキバが突き立てられた。
「アギギギギ!!」
狂乱_フレンジーマンがハンマー投げの要領でチェンソーをぶん投げると、それは天使教官_キャサリンの胸元に根元まで突き刺さる。
「ああああ…」
見習い天使達のバトルを常にサポートしてくれていたエースが結晶に沈んでいく様子を、天塚は見つめることしか出来ない。
「邪教師デモンクリスのスキル発動!選ぶコマは、ランダムでいいや」
(31ターン目)
時は来た。
入間のフィールドにEXモンスターが存在し、雨のカミタマ_エル・アマガを登場させる条件が整った。
天塚は声を振り絞って唱えた。
「EXデッキからEXモンスター雨のカミタマ_エル・アマガちゃんを登場させます」
「登場条件は相手のフィールドにEXモンスターが存在すること、条件達成です」
入間が反応する。
「なーるほど、攻撃仕掛けてこないと思ったら、そいつを待ってたのな」
「雨のカミタマ_エル・アマガちゃんのスキルを---」
「ちょっと待った」
天塚のスキル発動を入間が制止する。
「嬢ちゃんのEXモンスター登場に反応して、闇教皇ジジババールのスキルを発動させる」
「え?」
「相手のEXモンスターのフィールド登場時、フィールド上の結晶化したコマを3体破壊することで、相手の残りのターンをスキップする」
「え?」
天塚が困惑している間に続けざまに結晶化したコマが割れていき、闇教皇ジジババールが謎の呪文を唱えて両手を掲げた瞬間、画面上のターンは入間に操作権が移っていた。
「え、いや、あの今から移動して、バトル…」
天塚の脳内では情報整理が追いついていない。
「そろそろかな…」
天塚の狼狽ぶりから、天塚の勝算が破綻したこと、終わりが近いことを入間は察知した。
「ダメ押しするぜ、俺ルールカード悪魔憑依発動!相手のコマ1体を選び、自分のコマにすることが出来る」
「1体って、まさか…」
天塚は恐怖で震えが止められない。
「俺が選ぶのはもちろん、雨のカミタマ_エル・アマガ!お前の相棒だぜ!」
「イヤァァァッ!!」
先ほどまで背を向けていた雨のカミタマ_エル・アマガが天塚の方に向き直る。
雨のカミタマ_エル・アマガの敵意の視線が天塚に刺さってくる。
「雨のカミタマ_エル・アマガを移動」
入間は雨のカミタマ_エル・アマガを見習い天使の2マス前に移動させる。
「次のターンにどうなるか、分かるよな?」
「ヤダヤダヤダヤダヤダ!!」
天使教官_キャサリンが結晶化されてスキルが発動出来ない以上、残りの見習い天使やサポート天使_エミリー、守護天使_ナナシーを無駄死に覚悟でバトルさせるしかない。
40ターンまでに雨のカミタマ_エル・アマガを撃破し、入間と獲得ポイント差を広げた状態で奇跡のカミタマ_エル・ソーロを登場させて天地鳴動を発動出来れば引き分けまでに持ち込めただろう。
しかし同族同士の闘いを強いられた時点で天塚の正気を失っていた。
理性が崩壊仕掛けている天塚の様子を見ながら、入間は快感を感じていた。
(やっぱり人が狂う姿を見るのは良し、女子ならなお良し)
(32ターン目)
天塚は震える声で指示を出す。
「見習い天使を移動、バトルをさせます…」
「はいドーン!」
入間がセルフ効果音を入れる。
「雨のカミタマ_エル・アマガを移動、バトルね」
「はいドーン!」
「うう、うう…」
なす術ない状況に、天塚は涙を流す。
(35ターン目)
入間が声高らかに話し出す。
「いよいよ俺の決まり手の登場だ!」
「…」
天塚は声を出す気力すらなくなっている。
「フィールド上の魔結晶化したコマを1体媒介として、EXデッキからEXモンスター魔王_ベルゼブブを登場させるぜ!」
天使教官_キャサリンの魔結晶が爆発するように飛び散り、中から巨大なハエの姿をした魔王_ベルゼブブが登場した。
巨大な羽音を立て、四肢を空に掲げている。
「魔王_ベルゼブブのスキル---」
天塚は気絶した。
(第17-1話 終)




