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第5-1話 姿無き潜行者

菜蔵は困惑していた。

試合が始まったにも関わらず、対戦相手である深海爽奈の配置したコマがフィールド上に見当たらないのである。

菜蔵は考えを巡らせる。

(おかしい。俺のコマはフィールド上に表示されているから画面がバグったわけじゃなさそうだ)

(かといって相手がコマを置いてなかったらそもそも試合開始のテロップが表示されないはず…)

菜蔵が深海の方に目を向けると、彼女の口が動いているのが見えた。

恐らく何かを話しかけようとしているのだろうか。

「…している」

「ハァ?」

「だから…私の俺ルールカード…もう発動している…」

「発動している?」

菜蔵は画面上をくまなく見回すと、小さなメッセージが格納されていた。

菜蔵はメッセージを表示して内容を読み上げる。

「潜水艦モンスターは姿も見えなきゃスキルも効かない?ハァー!?」

余りの内容に菜蔵は頭を抱え天に叫んだ。


深海爽奈: デッキ名「作戦X_潜行者たち」

潜水艦の形をしたモンスターが多い。

俺ルールカード深海潜行の効果で不可視、スキル無効を付与出来る。

後述の弱点もあるので、扱うには高い判断力が求められる。


菜蔵に表示されたメッセージの内容は以下の通りである。

◆相手プレイヤーの「深海潜行」が発動中です。

このゲーム中、潜水艦モンスターはフィールド上から非表示となり、相手のコマのスキル発動のとき潜水艦モンスターは選べなくなります。

◆相手プレイヤーは通常のターン行動の代わりとして、フィールド上のマス1枚を選択することが出来ます。

そのマスに潜水艦モンスターの被弾エリアが重なっていた場合、潜水艦モンスターは破壊されます。

相手のコマの移動マスに潜水艦モンスターの被弾エリアが重なっていた場合、強制的にバトルが発生します。

バトル中、潜水艦モンスターのパワーは「0」で計算されます。

◆現在フィールド上に存在する潜水艦モンスターは以下の通りです。

S級潜水艦✕1…被弾エリア1マス/20ポイント

M級潜水艦✕2…被弾エリア2マス/10ポイント

L級潜水艦✕4…被弾エリア3マス/5ポイント


六角中学校側控え席。

観戦用モニターから試合状況を確認した4人も動揺が広がる。

「やっばいぜこりゃ…」

駒場が呟く。

「昔"潜水艦ゲーム"って似たようなゲーム性のおもちゃがあったっていうのは知ってるが、まさかこんな場所で相手から強いられることになるとはな…」

周りの面子に比べてコマバト歴の長い段田でも、今回のような戦術相手のノウハウは無さそうな様子である。

段田は話を続ける。

「菜蔵みたいなパワー自慢のコマを使うプレイヤーは相手の陣地の構成を理解して、弱点となる箇所から一直線に攻め込むのが基本戦術みたいなところがあるんだが、今回のように相手の居場所が分からない場合は逆に様子見で攻撃の手が弱まるっていう弱点がある」

「どうにか潜水艦モンスター達の位置が分かれば勝てる道もあるかもしれないが…」

段田の絶望的な戦況分析に天塚も不安が広がる。

「そんな…、見えない相手の居場所を知るなんてどうすればいいのよ…」

「ヒント無しマインスイーパーとか無理ゲーですので」


4人の不安は現実のものとなった。

菜蔵は不可視の相手を前に進軍のプランが立てられず、やむを得ずヤマカンでの現状打開を試みるが…。

「2-Aマスを選択!」

「ハズレ…L級潜水艦Aを移動…」

「4-Aマスを選択!」

「ハズレ…L級潜水艦Aを移動…」

「ぐぬぬぬ…、じゃあ4-Bだ!」

「ハズレ…L級潜水艦Aのスキル発動!ニンジン兵士に2ダメージ!」

「もうわけ分かんねぇよー!」

選択マスが近づけば移動で避けられ、選択マスが離れればスキルでダメージを蓄積される。

そもそも潜水艦モンスターの被弾エリアの合計が17マスに対して移動可能な範囲は中間エリアも含めて54マス。

無作為にマスを選んでも3回に2回はハズレを引く計算になる。

菜蔵はL級潜水艦Aを倒すことに躍起となってしまい、10ターン経過時点で撃破出来たのはL級潜水艦とM級潜水艦の各1体ずつであった。


「不味いペースだな…」

段田がそう呟いた。

天塚は段田に尋ねる。

「何でですか?相手の深海ちゃんって子は8ポイント、菜蔵くんは15ポイントで優勢じゃないですか?」

「天塚ちゃん考えてご覧よ、L級潜水艦の被弾マスは3でM級潜水艦の被弾マスは2、じゃあ今の潜水艦モンスター合計の被弾マスは?」

「17引く5だから12…、あっ」

「もう4回に1回しか潜水艦モンスターにヒットしなくなる、しかもヒットする度にヒットの確率は悪くなる」

駒場も情報を補足する。

「しかもヒットの確率が下がればその分相手はスキルでこっちのコマを倒しやすくなる」

「つまり今のうちにポイントを大量リードしておかないと、相手の集中砲火で簡単に逆転されてしまうってことだ」

その言葉に天塚は再び絶望する。

「えぇーっ、折角相手を倒しても安心出来ないとか、本当に無理ゲーじゃないですか!?」

「ハズレが増えていくくじ引きなので?」


実際、15ターンを経過した辺りから深海の潜水艦モンスター達の攻勢は激しさを増していった。

「5-Gマスを選択!」

「ハズレ…M級潜水艦Bのスキル発動!タマネギ兵士に「4」ダメージ!」

「4-Cマスを選択!」

「ハズレ…L級潜水艦Bのスキル発動!タマネギ兵士に「2」ダメージ!」

「に、2-Fマスを選択…」

「ハズレ…L級潜水艦Cのスキル発動!ピーマン兵士に2ダメージ!」

「ぐぐぐぐぐ…」

スキルの連打に次ぐ連打。

菜蔵のコマ達があっという間に倒されて行く。


「あぁもう見てられない!」

余りの惨劇に天塚は思わず手で顔を覆ってしまう。

青島が呟く。

「あの程度の攻撃だったら多分僕完封できますので」

「そうなの!?」

目の前に惨状を意に介さないような青島の爆弾発言に天塚は青島の方に顔を向ける。

「潜水艦モンスターの攻撃方法はスキルに極振りですので、僕の青いモンスターで全部発動をキャンセル出来ますので」

「えっ、でもメッセージには"相手のコマのスキルで選ばれない"って…」

「あー、それについてなんだが…」

スキルが効かないはずのモンスターにスキルが使えるという矛盾点について、段田がすかさずフォローを入れる。

「スキルで相手のコマを選ぶっていうのと、相手のコマのスキルを選ぶっていうのは意味合いが異なるんだ」

「どうしてですか?」

「例えばマガジンに銃弾が装填された拳銃があるとする」

「深海の深海潜行っていうのはその拳銃の表面に毒を塗り固めるような行為ってワケだ」

「で、その拳銃から銃弾を発射したとする、銃弾に毒は?」

「付いてないです、毒は拳銃の表面にしか塗られていないので」

「そういうワケだ、相手のコマ自体にスキルでどうこうは出来ないが、相手のコマが出すスキルに対しては幾らでも対処できるってワケだ」

「へぇ~」


(29ターン目)

控え席でコマバトの用語解説が開かれている和やかな雰囲気とは対照的に、試合場では菜蔵が悲痛な思いで打開策を練っていた。

菜蔵の陣地に残されたコマは4体。

このターンでM級潜水艦を撃破出来ないと、俺ルールカードの発動もEXモンスターの登場も意味を成さず敗北が決定的になってしまう。

「頼むってぇ〜、行番号だけでいいからM級潜水艦の位置についてヒントをくれってよ〜」

「そっちのルールで闘ってやってんだからさ〜」

もはや対戦相手である深海に縋るくらいしか、菜蔵に策は残されていなかった。

「ダメ…私語厳禁…」

深海は指で✖マークを作り、提案に拒否の構えを取る。

「頼むってぇ〜、待った一回許して上げるから〜」

「クドい…!さっさと決めろ…!」

しつこい菜蔵の懇願で事態が進行しない状況に、深海も若干苛立ちを感じずにはいられなかった。

遂に菜蔵も覚悟を決めた。

「あーもうイイですー!自分の実力で当ててやっかんなー!」


菜蔵はフィールドを凝視する。

(考えろ考えろ考えろ!確かMのヤツは最初2-Dマスの選択をハズした後移動して、その後…)

記憶の中からM級潜水艦の移動ルートを辿り、最終到達地点を探り当てようとした。

しかしどう頑張っても絞り込む事が出来ない。

必死に考えを巡らせる菜蔵の頭の中でふと疑問が浮かんだ。

(こんなに時間を使って悩んでいる間、向こうはどんな表情でコッチを観察しているんだ?)

先ほどの受け答えでも大分イライラが溜まっている様子だった深海。

悩み続ける自分に対してもっとイラついているのか、それとも自分の滑稽な姿に呆れ果てているのか?

菜蔵は深海の方に顔を向けた。

深海の顔は怒っても呆れてもいなかった。

今まで通りの無表情で、まるで菜蔵の存在を忘れたかのように物思いにふけっているような様子だった。

ただ一つ気になるのが、深海の視線が正面でなくフィールドのある一点に向けられていたところであった。

「…!」

フィールドの方を向いて唸っていた菜蔵が自分の方に向き直るとは夢にも思っていなかった深海は、菜蔵からの視線に気づくと少し驚いたように目を見開いたあと、急いで視線を正面に向け直した。

その違和感を菜蔵は見逃さなかった。

「そこだ!4-Iマスを選択!これに賭けるぜ!!」

「…………ヒット…」

観念したかのように深海はヒット判定を宣言した。

撃破されたのはM級潜水艦。

まさに危機一髪の難局を乗り越えたのだった。

「イヨッシャァァ!!」

菜蔵は大きくガッツポーズを決めた。


(第5-1話 終)

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