104.ホテルマン、感動の再会を見守る
「今までどこに行ってたんだよ!」
牛島さんはその場で声を上げながら泣き、ソウを抱きしめる。
まるで二度と離さないとでも言うように。
「元気にしてたか? 大きくなったな!」
無理に笑おうとしても震える声で崩れていく。
ごつごつした大きな手が、何度も何度もソウの背を撫でた。
その手はきっと今までの苦労が伝わるほど皺が増えていた。
十数年という時間がそこに刻まれている。
言葉がわかるか心配だったが問題はないようだ。
ソウは小さく、何度も何度も頷いていた。
その頷きは子どものままのように見える。けれど、抱きしめられている体はもう大人だった。
失われた時間が目の前に突きつけられる。
「……よかった……生きてて、よかった……」
牛島さんの絞り出すような声。
何度も夢を見て、何度も絶望した末にようやく辿り着いた言葉だろう。
その瞬間、周囲の音がすっと消えていく。
誰も口を挟まない。ただ、嗚咽だけが静かに響く。
胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛む。
自分の再会じゃないのに、喉の奥が焼けるように熱い。
いくつも季節が巡り、風景が変わり、それでも帰ってこない家族を思いながら、一人で老いていく。
そんな中で牛島さんは探し続けていたのだろう。
「よかったね」
「まさか本当に親子だったとはな」
「ははは、やぶきん何で泣いてるんだよ」
「幸治だって泣いてるだろ!」
視界がジワリと滲む。きっとこの光景は一生忘れないだろう。
まさか大事な人の家族を俺たちの手で再会させることができるとは思ってもいなかった。
「なぁ、何があったんだ?」
だが、突然の出来事でポチは困惑していた。
矢吹が理解できているってことは、牛島さんの言葉は日本語なんだろう。
「ソウのお父さんを連れてきた」
「連れてきた!?」
何度も俺とソウたちを見比べていた。
「ポチは何を言っているのかわからないよね」
「ああ、俺はニホン……ゴ? ってやつは知らないからな」
俺からしたらポチが話しているのも日本語に聞こえているんだけどね。
ソウが理解しているのは、母親の存在があるからだろう。
「あっ!」
「なっ、なんだよ!?」
俺の声にポチは隣でビクッとしていた。
ソウと会うことができたなら、もう一人大事な人がいる。
「牛島さん、奥さんも生きてますよ!」
「文江も生きてるのか……?」
牛島さんの声にソウは優しく微笑んだ。
「母さんも元気だよ。えーっと……体を弱らせているけど……」
ソウは言葉を探るように話していく。
少しだけ話しにくそうにしているのは、日本語がうまく話せないからだろう。
「ソウ、文江のところに連れてってくれ」
「ああ、その前に家族を紹介する」
ソウがポチを手招きすると、ポチはキョロキョロとしていた。
「お父さんを紹介したいんだって」
「俺を紹介……?」
ポチは首を傾げているが、ゆっくりと牛島さんに近づく。だが、牛島さんの視線はポチの頭上と不安そうに揺れる尻尾を見ていた。
「弟……ポチ!」
「おぉ、弟がいるのか! 狼男の息子か!」
牛島さんは嬉しそうにポチを抱きしめると、どうしたら良いのかわからずポチはジーッと俺の顔を見ていた。
突然、父親って言われてもびっくりするよね。
「そうか……弟か。よし、兄ちゃんたち帰ろうか!」
「えっ!?」
牛島さんの言葉に俺は驚いた。
さっきまで奥さんの元へ向かおうとしていたのに……。
「文江にもこっちに大事な家族がいるってことだろ。元夫が出る幕はないぞ」
牛島さんの手は強がる言葉とは裏腹にかすかに震えていた。
ポチがいるってことは、牛島さんの奥さんはこっちの世界に夫がいることになる。
そんな状況を受け止めきれないのだろう。
「テケテケも帰るぞ」
『テッケ……』
テケテケを抱きかかえると、牛島さんはそのまま獣の闇庭に向かって歩いていく。
牛島さんは本当にそれでいいのだろうか。
せっかく再会できたのに、また背中を向けるなんて……そんなのあんまりだ。
「ふく、父さんは何で帰るんだ?」
ソウは牛島さんが言ったことが理解できてないのだろう。
どうやって伝えれば……いや、考えている時間はない。
「牛島さんはソウの新しいお父さんとの幸せを壊したくないって」
「新しい……お父さん? そんな人いないよ?」
まさかの言葉に俺も驚いて声が出ない。
「やぶきん、牛島さんを連れてきて!」
「ああ!」
矢吹はすぐに牛島さんの元へ向かうと、脇に抱きかかえて戻ってきた。
「兄ちゃん、どうしたんだ?」
少し戸惑いながらも寂しそうに微笑む牛島さん。
「ソウのお母さん、えーっと……新しいお父さんはいないそうですよ!」
「本当か? それならポチくんは……」
「ポチは拾った!」
「「「拾った!?」」」
どうやらポチは拾った狼男らしい。
さすが妖怪の世界は何でもありだな。
ダンボールの中に〝狼男拾ってください〟とかって書いてあるってことか。
「ポチってソウのお母さんから生まれたんじゃないんだね」
「何言ってんだ? 獣人が人間から生まれるはずないだろ」
ポチに聞いたら飽きられた顔で返された。
どうやらソウの言葉は本当のようだ。
妖怪の世界の常識って俺たちの非常識だからね。ただ、それがわかって本当に良かった。
「牛島さん、今度こそ奥さんに会いに行きますよ」
「ああ」
牛島さんは嬉しそうに小さく頷いた。
2巻が5/15に発売することが決まりました!
今回のイラストもп猫R先生が担当しています。
素敵なイラストをぜひ手に取っていただけると嬉しいです!
今回はかなり胸に突き刺さるイラストが多いので、紙書籍の方がいいのかも……?笑
後日、公式ページをリンクに貼らせていただきます!




