105.ホテルマン、父親の手を感じる
俺たちは牛島さんの奥さんに会うために町に向かって歩いていく。
「ソウはこっちで何やってるんだ?」
「冒険者ってやつを……止まって!」
ソウは牛島さんを手で一度止めると、そのまま駆け出す。
それに続くようにポチも走る。
剣を抜いた途端、茂みから虎のような魔物が現れた。
素早く動くソウとポチに牛島さんは唖然としていた。
目の前で魔物と戦うところって普通は見る機会はないもんね。
「魔物はまだ残っているの?」
「ああ、逃げたやつもいるから、ふくたちを探しに行くついでに数を減らしていた」
あれから魔物は突然逃げるように去って行ったらしい。
ある程度数が減ったとしても、また出てきたりしたら町の人も厄介だ。
「ほら頑張ったぞ」
ポチは頭を俺の方に向けてきた。
きっと撫でた方がいいのは俺じゃないだろう。
「牛島さん、手を貸してください」
俺は近くにいた牛島さんの手を取ると、ポチの頭の上に置く。
二人ともどうしたらいいのか困惑して、俺に助けて欲しそうな視線を送ってきた。
「褒めて欲しいらしいですよ」
「おぉ、そうか! ポチ、助けてくれてありがとう」
牛島さんは何をすればいいのかわかったのか、ポチの頭を優しく撫でる。
俺とは違う撫で方だが、尻尾が嬉しそうに大きく揺れていた。
「父さん! 俺も頑張ったんだけど!」
「おっ、ソウも頑張ってたな」
その姿を見たソウもどこか恥ずかしそうにしながらも、牛島さんに頭を向けていた。
嬉しそうに撫でる牛島さんと喜ぶ二人を見ていると、本当に親子なんだと実感する。
ソウのあんな姿は想像もしていなかったけど、ずっと父親に甘えたかったのだろう。
「さぁ、みなさん行きますよ」
「あっ、ああ……」
「おう……」
どこか気まずそうなソウとポチを見て、クスッと笑ってしまいそうだ。
子どもはいつでも親には甘えん坊だからね。
「ふく、よしよししようか?」
シルが俺の服を引っ張ってくる。
「ん? してくれるのか?」
俺がしゃがむとシルは優しく頭を撫でてくれた。
「ははは、兄ちゃんの頭も撫でたるぞ!」
牛島さんも俺の頭を楽しそうに撫でていた。
父親の手って、見た目よりずっと大きいんだな。
小さい頃に捨てられた俺は両親の顔もはっきりとは覚えていない。だから、こんなふうに頭を撫でられるのは少しだけくすぐったい。
「矢吹くんは――」
「俺はいいです」
矢吹の頭も撫でようとしたが、牛島さんは拒否られていた。
「そうか……それは悲しいな」
「ああ! ほら、早くしてください!」
寂しそうな顔をする牛島さんに矢吹も諦めて撫でられていた。
言葉では断ってても矢吹も嬉しそうだな。
その後も町に向かって歩くと、やっと町の門が見えてきた。ただ、魔物に攻められたばかりなのもあり、外壁もボロボロになり、そこら中に魔物の死骸が落ちている。
「こんなところに住んでいるのか……」
「いや、さっきまで魔物の襲われていたから」
「襲われていた!?」
俺たちは牛島さんになぜ帰って来れなかったのか説明した。
本当は帰りたかったのにソウたちに止められていたこと、そして魔物が溢れてその手伝いをしていたことを。
「ぬぁー! 息子たちは本当に良くやってるな!」
町の目の前でなぜか俺たちは牛島さんに撫でられた。
「シルもがんばったもん!」
「オイラなんてふくに殺されるところだったよ?」
「サラはね……うどんのために頑張った!」
「私もうどん……せっかくなのでうどんを食べて行きましょう」
シルたちも撫でられて嬉しそうに笑っていた。
さっきうどんを食べたばかりなのに、エルはまだ食べ足りないのだろうか。
「うどん?」
「母さんが作ったうどん屋があるんだ」
「文江のうどんか……」
牛島さんは奥さんが作ったうどんを思い出しているのだろう。
俺たちはその足でうどん屋に向かうと、外には冒険者の行列ができていた。
うどんを食べにきているのだろう。
「いらっしゃいませ! あっ、ソウたちもうどん――」
「文江……」
牛島さんの声は震えていた。
「宗……ちゃん……」
きっと十数年ぶりに呼ぶ奥さんの声はどこか掠れていた。
「ああ、俺だ!」
牛島さんはそのまま奥さんに向かって走っていく。
そのまま抱きかかえると、何度もお互いに顔を見つめては抱きついていた。
「本当に文江か」
「ええ、そっちこそ本当に宗ちゃんなの?」
「俺だって見てわかるだろ!」
「ははは、相変わらずね」
どこか抱きしめ合っている二人が写真に写っていた若い頃の姿に重なる。
「やぶきん、俺何回泣けばいいんだ……」
「いや、俺に聞くなよ。もう目が痛いぞ」
俺たちもそんな姿に涙が止まらない。
しばらくは目が痛い日々を過ごすんだろうな。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




