103.ホテルマン、妖怪の世界に戻る
「ん? 俺のことを呼んだのか?」
「いや、この人って……」
「ああ、これが俺だぞ。それにしても俺が宗一って名前なのよく知ってたな」
俺たちは今まで牛島さんとしか呼んだことがない。
名前すら聞いたことがなかった。
「行方不明になった息子さんの名前って――」
「ああ、蒼真って言うんだが、妻が俺と息子を呼ぶとどっちかわからなくてな」
俺たちは気づいたら立ち上がって、牛島さんの手を握っていた。
やっぱり牛島さんの奥さんと息子は生きている。
奥さんの面影もソウの母親となんとなく似ているからね。ただ、ここで違っていたら期待だけさせることになるだろう。
「牛島さん、少し付いてきてもらってもいいですか?」
「ん? どっかに行きたいのか?」
だから、俺たちは詳しいことを伝えずに牛島さんを妖怪の世界に連れていくことにした。
牛島さんは写真を大事そうにポケットに入れると、靴を持って一緒に畑に降りていく。
「やぶきん、守る人が増えるけど大丈夫か?」
「ああ、これでもAランクの探索者だからな」
矢吹がいれば問題はないだろう。
最悪、俺は囮として逃げ回ればいいからな。
「今からどこにいくんだ?」
「だんじょんだよ?」
「オイラも守るから安心してね!」
「サラも強いだよ?」
「私も氷漬けにできるので任せてください」
「おっ……おう」
何もわからずに引っ張られる牛島さんは困惑していた。
ダンジョンの中に入ると、入り口には魔物の姿はなかった。
どうやら片付けたジビエの死体は本当に消えたようだ。
先頭を矢吹とケト、中央には俺と牛島さんが歩き、周囲を囲むようにシルとサラ、そしてエルがいる。
『テッケエエエエエ!』
後ろから何かの鳴き声が聞こえたと思ったら、突然首が重たくなる。
「テケテケも行くのか?」
『テッケケケケケッ!』
置いてかれたことにどこか怒っているのか、俺の額をツンツンとしていた。
「兄ちゃんたちはいつもダンジョンの中でもこんな感じなのか?」
「あー、比較的ほんわかしているかな」
矢吹も俺とテケテケを見て笑っていた。
テケテケも妖怪の世界に興味があるのだろう。
俺たちはそのまま明かりが見えるところを目指して歩いていく。
あそこの広間に行ったら、すぐに妖怪の世界に到着するからな。
「ほぉー、ダンジョンは何も生えていないんだな」
草木が一切生えておらず、まるで洞窟のような空間に興味津々だ。
初めてくるダンジョンの中で牛島さんはどこか楽しんでいるようだった。
「おっ、そろそろ到着だな」
少しずつ明かりが見えてきた。
魔物と会うこともなく、安全に妖怪の世界に到着しそうだ。
「ここはどういうところなんだ?」
「ああ、ここは休憩場所のようなところです」
「そうか……しばらく休憩でもするのか?」
「いや、牛島さんこっちです!」
俺はすぐに牛島さんの手を引っ張った。
妖怪の世界はあと少しだ。
そう思った瞬間、頭がふわりと軽くなる。
『テッケケケケケッ!』
頭の上に載っていたテケテケが我先にと駆け出していく。
すぐに俺たちも追いかけると、テケテケはすでに階段を登っていた。
「あいつ素早いな……」
「まてええええ!」
「丸焼きにするぞおおお!」
矢吹も若干息切れしているほどだ。
シルたちは楽しそうに追いかけているが、ケトは不謹慎すぎないか?
そんなことを言うと牛島さんにご飯を作ってもらえなくなるぞ。
俺たちはテケテケを追いかけると、妖怪の世界にまた戻ってきた。
もうここには来ない予定だったのに、その日のうちに帰ってきてしまった。
テケテケを追いかけると、立ち止まり周囲をキョロキョロとしていた。
「おい、勝手に……」
『テッケエエエエエ!』
テケテケは大きな声で叫ぶと、どこかに走っていく。
「やぶきん、牛島さんを頼む!」
「おう……」
矢吹に牛島さんを任せて、俺はテケテケを追いかける。
「はぁ……はぁ……」
俺たちもすぐに追いかけると、テケテケは大きく翼を羽ばたかせて止まった。ただ、なぜか宙に浮いていた。
「おい、この鶏なんだ!?」
『テッケケケケケッ!』
テケテケの笑っている声が響く。
近くまで俺たちが駆け寄ると、テケテケは楽しそうにあの人の頭の上に載っていた。
「おい、お前たちどこに行ってたんだ! 心配しただろ!」
「無事でよかったよ」
そこにいたのはソウとポチだった。
『テッケエエエエエ!』
「うるせーよ!」
テケテケはポチの頭の上で楽しそうにソウを眺めていた。ただ、ポチはうるさそうに手で耳を押さえていた。
ソウもテケテケのことがわからないのか、首を傾げていた。
「ソウ、今すぐに来て!」
「ん? どうかした――」
「兄ちゃん……走るのが早いよ……」
ソウを連れて行こうとした瞬間、矢吹と牛島さんがやってきた。
お互いに目が合うと、時間が止まったかのように誰も動かなかった。
「父……さん……?」
「ソウ……なのか……?」
まだ何も紹介はしていないのに自然とわかるのだろう。
お互いを確かめるようにそっと触れ、次の瞬間、二人は強く抱きしめ合っていた。
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