102.ホテルマン、大好き味を堪能する
「あっ、わすれたね」
「オイラは悪くないよ?」
「でも、みんなで集めようって言ってたよ?」
「そんな気もしますね……」
ダンジョンから戻ると、目の前には魔物の死骸がいくつも転がっていた。
一部は血抜きされているが、途中でやめて縁に寄せてあるようだ。
「すぐに帰ってくるつもりだったから、畑に投げっぱなしだったね」
せっかくのジビエだからと、倒しては畑に投げ捨てていた。
しばらく帰ってこなかったから、血の匂いが畑に広がっていたのだろう。
「でも血抜きしてあるやつは誰が……」
『テッケケケケケッ!』
階段の方から騒がしい鳴き声が聞こえてくる。
ジーッと眺めていると、大きな鶏がバタバタと羽を羽ばたかせて俺の顔にぶつかってきた。
「テケテケって飛べるのか……」
『テッケエエエエエ!』
俺の顔の上で上下に動くテケテケの体は柔らかかった。
フカフカする触り心地を堪能していると、階段から誰かが下りてきた。
「兄ちゃん……」
「ただいま!」
そこには牛島さんが立っていた。
あの時は俺たちの声が聞こえていなかったが、今ははっきりと届いているようだ。
「「「うっしー!」」」
シルとケト、それにサラが牛島さんに飛びついていく。
牛島さんはその場にしゃがみ込むとシルたちを大事そうに抱きかかえていた。
「お前ら今までどこに行ってたんだよ……」
牛島さんの瞳から流れる涙に俺たちは罪悪感を覚える。
冬が近づいてくるから、牛舎や養鶏場の準備で牛島さんとはしばらく会っていなかった。
妖怪の世界に行くことも伝えてなかったからな。
「心配かけてすみません」
「本当だ! 俺がどれだけ探したと思ってるんだ!」
牛島さんに怒られるとは思ってもいなかった。
牛島さんには俺たちがダンジョンから出れなくなった時に心配をかけたのもあり、合鍵を渡している。
俺たちが行方不明になってから、毎日テケテケと探していたらしい。
俺に懐いているテケテケがいたら、探せると思ったのだろう。
「テケテケもありがとね!」
『テッケケケケケッ!』
頭の上に載ったテケテケは俺の額をツンツンとくちばしで突く。
「はぁー、とりあえず一安心だな。何か食べるか?」
「うどん!」
俺たちの声が重なった。
「そんなんでいいのか?」
全員してこくりと頷く。
むしろ今はうどんを食べたい気分だからね。
牛島さんがうどんを作っている間に、俺たちは畑の片付けだ。
俺たちは山になったジビエの前で佇む。
血抜きがされているのは牛島さんが一人でどうにかしたのだろう。
問題は血抜きもせずに古くなったジビエたちだ。
「なぁ、この死体ってどうすればいい?」
「ダンジョンの中に入れたら消えるんじゃないか」
ダンジョンから持ち帰る時はすぐに消えてしまうため、シルのポケットに入れる必要があった。
今回はダンジョンから畑にすぐに投げたから消えなかったが、一度こっちに持ってきたものを戻しても消えるのだろうか。
「シルがみてくる!」
「オイラも!」
シルとケトはダンジョンの中に入っていく。
俺たちがダンジョンに向かって、死体を放り投げるとシルたちが帰ってきた。
「ちゃんときえたよ!」
どうやらこれで畑を綺麗にできるだろう。
土に染み込んでいる土はどうすることもできない。
それにここの畑はツノウサギの血も勝手に吸い込むから、問題はない気がする。
「おーい、お前たちうどんができたぞー!」
気づいたら長いこと片付けをしていたようだ。
牛島さんに呼ばれた俺たちはすぐに家に戻った。
「あー、いいにおいだね!」
「オイラもお腹ペコペコだよ!」
すぐにシルとケトは椅子に座り、うどんが出てくるのを待った。
「エルさんとケトはざるうどんでいいか?」
「さすがうっしー!」
「やっぱり私たちのことを知っていますね」
テーブルに並べられたうどんに俺たちはよだれが止まらない。
久しぶりに食べる牛島さんのご飯に気分は最高潮になっていた。
「うっしー、はやく!」
「わかったわかった!」
牛島さんが席に座れば、みんなで手を合わせる。
「いただきます!」
挨拶をしたらすぐにうどんに手をつけた。
「うまい……」
「うまうま!」
「うみゃー!」
久しぶりに食べた牛島さんの料理は手が震えるほど美味しかった。
食べる手が止まらず、どんどんと胃の中にうどんが入っていく。
「あそこで食べたうどんと似ているな」
「確かにお出汁が少し甘いですよね」
矢吹やエルが言うように、牛島さんの作るうどんはどこかお出汁が甘めなのにさっぱりとしている。
妖怪の世界で食べたうどんもどこか甘味を感じていたから、妖怪たちも気に入って食べていたのだろう。
「少しだけみりんと柑橘系の皮を入れている。今日は柚子を入れてみた」
「だからさっぱりするんですね!」
本当に牛島さんの料理は他とは違う一手間が加えられている。だから、俺たちもすぐに虜になるのだろう。
「牛島さんすごいですね」
「ははは、これは妻が教えてくれたやつなんだよ」
どうやら牛島さんの奥さんも物知りのようだ。
奥さんと息子が行方不明になっているのは聞いているが、直接奥さんの話を聞いたのは初めてな気がする。
「うっしーのお嫁さんはどんな人なの?」
「ん? 妻か?」
牛島さんは少し恥ずかしそうにポケットから一枚の写真を取り出した。
シワシワになった写真はずっと持ち歩いているのだろう。
そこには夫婦と一人の小さな男の子が写っていた。
「これが俺でこっちが妻だな。それでこれが息子……どうしたんだ?」
牛島さんが見せてくれた写真に俺は驚いて開いた口が塞がらなかった。いや、俺だけではないだろう。
矢吹や妖怪たちもみんな驚いている。
「ソウ!?」
俺たちの声が重なった。
そこには妖怪の世界で出会った冒険者のソウが写っていた。
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