Section14
Sierra
なんだか、さっきのエルナは元気がなかった。
私と久々に会って緊張しているだけなのかな?
……それともお父様の件で私のことを気にしているとか?
考えても良く分からない。
(――嫌われちゃったとかじゃないよね……)
思い当たる節がないから、たぶんそんなことはないと思うんだけど。
――あ、アルフォンスについて行かないと。
前に歩いているアルフォンスに追いつくために足をすすめる。
「――シエラ嬢、いやシエラ候と呼んだほうがいいでしょうか」
「よそよそしいよアルフォンス、私といるときはいつも通りでいいからね」
「……そうですか、それではシエラ嬢、こちらへどうぞ」
そう言われて私は屋敷の一室に通される。
少しなれなれしい感じだけど、今日はれっきとした会合。
(――まあ、実際は勉強会なんだけどね……)
「ありがとう」
私はそう答えるとイスに腰を下ろした。
「――それでは、まずですが……」
「うん、何から?」
「……そうですね、とりあえず最新のシュヴァルツの動きからお話しましょうか」
そう言うと、アルフォンスは続ける。
「シエラ嬢はどこまで学ばれましたか?」
「……ええと、周辺国のこととか、その他にもアルジェントの腐敗してる政治のこととかはマリエルから教わったかな」
「さすがルメルシエですね……そのあたりの事は完璧という感じですか」
「うん、マリエルは何でも知ってるような気がする」
確かにマリエルは本当に何でも知っていると言ってもおかしくはない。
料理全般のことから、家事や家柄のことや政治やそれぞれの国の情勢とかも細かく把握しているみたい。
いろいろな所から日々情報を入れてるとは思うんだけど……それでもすごいと思う。
「――本題に入りますが」
なんとなく真剣になった様子のアルフォンスが話を続ける。
「シュヴァルツは既に金の国へ向けて軍を動かしているとの情報が先日入りました」
「……え」
「シュヴァルツは、私たちが思っているよりも早く行動に出ています」
――シュヴァルツが既に軍を動かしている。
それは私も予想外だった。
さすがにブロンシェルとシュヴァルツの緩衝地帯であるだけに、強硬な手段には出ないと思っていたけれど……
(――どうやら私の思い違いみたいね……)
「……アルジェントとしては、早急にこの問題に対処すべきだと私は考えています」
「これをほっておけば、シュヴァルツは必ず我々の国にも軍を差し向けるでしょう」
「……そうだよね、流石にそれは避けないといけないと思う」
「そしてですが、今回シエラ嬢にお伝えする中で一番重要なのがブロンシェルとの関係についてです」
「ブロンシェルとは事実上の同盟国だよね……?」
……確か、私の記憶が正しければ同盟国だったはず。
50年前の戦争の際には同盟国で、今も関係は良好だったと思う。
「そうですね、しかし同盟国だからこそなのです」
「――同盟国だからこそ?」
「……はい、同盟国だからといってお互い信用し続けていれば、どちらかが裏切ったときに対処しきれなくなります」
――その話は……この前聞いたような気がする。
かつてはラミール、銅の国が存在していて、アルジェントやブロンシェルの同盟国のはずだったけど、結局シュヴァルツ側に寝返ったとアルフォンスは話していた。
そういうことがおきないためにも、関係は明確にしておく必要があるのは当然の話かもしれない。
「ブロンシェルとは同盟国だということをきっちり説明したほうがいいってことだよね……?」
私はアルフォンスに聞いてみる。
「はい、そうなのですが……先日の会議では逆にそれがシュヴァルツを刺激するとして、留まったのです」
「――明確にブロンシェルとの同盟関係を示すと、かえってシュヴァルツを刺激して行動が早まるってこと?」
「そういうことになります、流石シエラ嬢、お気づきが早い」
「なので、先日のモデラスト候の件もあり、国内の警備や軍備を増強すると言う話でとりあえずは一致したのです」
――そうだよね。
まずは自国の防衛が最優先、他国への援助はその次。
外交はそういうものだと、マリエルは言っていた。
……私個人としても、お父様のような事件は今後あってはならないと思う。
まだ、誰が犯人かとかは掴めていないけれど。
「それで、シュヴァルツが金の国に軍を動かしてることについて、ブロンシェルはどんな対応を示したの?」
「ブロンシェルは対抗して金の国、ミネラドロワの西側に軍を進めています」
「――となると、戦争が起きるかもしれないってことだよね……?」
「……その可能性が現状では高いですね」
――戦争。
私は昔ブロンシェルに行った時に、50年前の戦争からまだ復興しきれていない街をいくつも見てきた。
戦争は攻めるほうも攻め込まれるほうも損害を被るし、良い事なんてない。
……でも、いままさに一触即発の状況に白、黒両国が金の国をはさんで対峙している。
(――何とか食い止めないといけないよね……)
しばらく私がそう考えていると、不意にドアがノックされた。
「――マリエルです、昼食の用意ができました」
「……話もひと段落つきましたし、食堂に行きましょうか」
「うん、エルナも待ってると思うし、ひと段落つけようかな」
……なんだか、すっかり話に夢中になっちゃった。
だいぶ重大な話だったから無理もないけど――
とりあえず、ご飯食べて気分転換しようかな。
私はそんなことを思いながら食堂に向かった――




