Section5
Mariel
シエラお嬢様がエルナ様と一緒にお庭に行かれた後、私とアルフォンス様は食後のゆったりとした時間をすごしていた。
(――それにしてもさっきは、面白かったですね)
シエラお嬢様がエルナ様に手を引っ張られて連れて行かれるなんて……
気のせいか、いつもよりエルナ様はシエラお嬢様に対して好意的に見えた。
おおよそ、シエラお嬢様に何かお見せしたいものでもあるのだと思うけれど。
それにしても、エルナ様は前と比べるとかなり明るくなったような気がする。
……エルナ様が始めてシエラお嬢様に会ったときは、一つの会話すら成り立たないほど拒んでいたのを覚えている。
当時は、私やシエラお嬢様だけでなく、家の使用人たちとも話さないで、アルフォンス様の後ろにいつも隠れているという感じだった。
だからエルナ様ほど『お嬢様』と言う愛称が似合う方は他にいなかった、それは今も昔も変わらないと思うのだけれど――
「――ルメルシエ、どうかなさいましたか?先ほどから嬉しそうにされてますが」
「あら……顔に出ていましたか?」
「えぇ……それはそれは。シエラ嬢のことでも考えていたのではありませんか?」
アルフォンス様は的確に私の考えていたことを当ててくる。
なんだかまるで、私がシエラお嬢様の考えていることを先読みするような感じで。
シエラお嬢様はいつも驚かれた様子でいるけれど、なんとなく分かってしまう。
「……解りますか?」
「エルナお嬢様もシエラ嬢も見ていれば……解りますよ」
「……あの不器用なシエラお嬢様にも、パートナーが出来たんです。多少は私も安心します」
「それは私も同じです、ルメルシエ。エルナお嬢様は小さい頃にご両親を亡くしていますから……」
――エルナお嬢様の両親の死というのは、当時でも話題になった。
ブロンシェルの名門の家柄の暗殺というのは、招かれ先のアルジェントだけでなくブロンシェルにも伝わり大きな混乱になった。
最初に疑われたのはもちろん、50年前の戦争での敵国だったシュヴァルツ。
しかし、後にシュヴァルツの仕業だと断定されるものの、当時はアルジェントのもの仕業だとかブロンシェルの仕業だなどと交錯していた。
おそらくそれも、シュヴァルツの諜報機関が仕組んだものだったのだと思う。
もちろん、まだラインブルクとエルスリールの間で交流がない頃だったが、それでもその知らせを聞いていたほどだった。
ラインブルク家自体も一時はどうなることかと思われたが、殺されたラインブルクの当主が、遺言のような形でアルフォンスに全権を委託すると告げられていたことが分かった。
それがちゃんとした書類の形で見つかったため、アルフォンス様は正式にラインブルクの当主としての仕事をこなすようになられた。
それからは当時ほどの力は無くなってはしまったが、アルフォンス様のおかげでラインブルク家は存続するに至る。
「ルメルシエ、どうしました?」
「いえ……それにしてもエルナ様もずいぶん明るくなられましたね」
「……そうですね、シエラ嬢に会ってからだと思います」
「私もそれはあると思いますが……アルフォンス様がエルナ様を見守ってきたからでもあると思いますよ」
「……そうですね。いずれにせよ、私としてはエルナお嬢様が前よりも明るくなられたことが本当に良かった」
アルフォンス様はそういって話を続ける。
「最近はシエラ嬢と会うのが楽しみでならないみたいで……そういう風な笑顔を見せてくれるのが私は嬉しいんです」
「私もそう思いますよ、それは私も同じですから……」
実際のところ、それは本当に私も同じだった。
シエラお嬢様のお世話をしていて、時折見せる明るい笑顔を見ると素直に嬉しい。
それはきっとお仕事が忙しいアルフォンス様でも一緒なのだろう。
「……でもやっぱり良かったですよ、エルスリール家と縁を持てて――」
「エルナ様とシエラお嬢様のことですか?」
「ええ、エルナお嬢様があんなに前向きになれたのはやはりシエラ嬢のおかげですよ」
「……私は、エルナお嬢様を見守ってきたに過ぎません」
「アルフォンス様、貴方がいなかったらエルナ様は今――」
私が言いかけたとき、食堂のドアが突然開いた。
扉のほうを見ると、出るときと同じようにエルナ様がシエラお嬢様の手を引っ張りながらなにやら話している様子。
「エルナ……いたい……」
「シエラちゃん、戻ってきたよ!」
「うぅ……いたいってば……」
シエラお嬢様とエルナ様は仲よさそうにしている。
私はアルフォンス様と話していたことをつくづく感じていた。
「――おやおや、お二人とも仲がいいご様子で」
アルフォンス様はお二人に話しかけている。
思えばアルフォンス様もラインブルク家を支えるのに精一杯のはず。
なのに大変なお仕事や、屋敷の管理なども大変なのにエルナ様の面倒をこの若さで見守っている。
……それは、簡単にできることではないだろう。
職務などが忙しくなれば、エルナ様の面倒も見ていられないかもしれないのに、何一つ投げ出さず真剣に向き合っている。
(――私も、まだまだみたいですね……)
そんなことが今回のお食事会で分かったような気がする。
これからもこんな風にお嬢様を見守っていきたい、私はそう思ってこのひと時を過ごすのだった。




