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エデンオブ・オーディール  作者: 斑鳩恭


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泣き虫(リニア・ハイベル)

「ヒナタさん、着きましたよ」


 目の前に聳え立つ木造の一軒家。

 一見普通の民家に見えるが、れっきとした国家(クラス)の一つだ。


「ここが……【閃光の剣士達(ソードブレイカーズ)】」


 ここから俺の二度目の最強人生がスタートするんだ。

 メイさんがドアに手をかけ、開ける。

 

「では、お入りください」


 俺は足を一歩。

 また一歩と進め、ついに玄関の敷居をまたぎ――


 パリーンッ……


 皿の割れる音。

 玄関の傍に配置されたキッチン。

 そこで皿を洗っていた女性が、俺を見て皿を落とした。


「ど……」


「ど?」


「どこいってたんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 そう叫びながら突っ込んできた彼女に、身体を吹き飛ばされる。

 思いっきり棚に背中を打ち付け、その衝撃で花瓶が棚から落ちる。


「いったぁ……何するんですか!」


「どうもなにもありませんっ!!

 勝手に……勝手に居なくなって置いて……私、どれだけ悲しかった……か?」


 女性は少し興奮気味に、涙を流しながら語っていたが、俺の姿をしっかりその瞳に捉えた瞬間、若干言葉に落ち着きを取り戻す。


「あ……あれ、『■▯❐◇▥』じゃない……え、でも容姿は一緒だし、目の色も……

 あ、髪の色が違う……えぇ……」


 恐らく『灼紅の剣姫』と見間違えたのだろう。

 どれだけ似ているんだ俺は。全く、傍迷惑な。

 しっかし、一瞬言葉にノイズが入ったのは気のせいだろうか。

 ノイズというか、聞き取れなかったというか。


「あ……あの、大丈夫……じゃないですよね。ごめんなさい……」


 さっきとはまた違う涙を溢しながら俺に謝る女性。

 怒るに怒れない状況で戸惑ってしまい、メイさんに助けを求めるため、目配せをする。

 メイさんは「ふふっ」と笑いながら、建物の中へと入る。


「リニアさん、その方が昨日お伝えした『ヒナタ・イツキ』さんです」


「わあぁぁぁぁ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」


 ザッと後ろに下がったかと思うとそのまま土下座で何度も謝ってきた。

 この人が【閃光の剣士達】現主将(トップ)リニア・ハイベルなのか。

 なんか向こうで見た「リニア」と若干だが違う。

 なんか向こうのはもう少し強気というか、こう、弱弱しくはなかったな。

 

「うっ……ぐすっ……はじめまして……この国家の主将を務めてます……

 リニア・ハイベル……です……ぐすっ」


 うーん、なんか。俺が悪いことしたんじゃないかって感じがして嫌だな。

 早く泣き止んでもらいたいんだが……

 俺はもう一度メイさんに目配せをする。が、次は無視された。

 ……なんとかするしかないよなぁ。


「あの……と、とりあえずこれで涙拭いてください。俺、特別に身体頑丈なんで。

 ほら、怪我とかもしてませんし」


 ハンカチを渡した後、その場でクルッと回って見せる。

 怪我なんて一つもないことを確認したリニアは、徐々に落ち着きを取り戻す。

 しっかし、この世界には美男美女しかいないんだろうか。

 メイさんも美しいのだが、このリニアさんも何というか……美しいというよりは可愛い部類に――


「因みにリニアさんは私と違って未婚者ですし、ヒナタさんとそう歳は離れてませんよ?」


「なっ!? メイさん!?」


 心を読んだかのように耳元でそう呟いてくるメイさん。

 心臓がバクバクしてる。本当に何者なんだ、この人は。


「……さて、本日は挨拶だけですからね。承認していただくのは大会が終わってからですので」


「あ、はい。 ……あの、メイさん。どうして彼を連れてきたんですか?」


 リニアはメイに目を合わせず、少し俯いた感じでそう質問をする。

 どうしたもこうしたも、俺が決めたんだから別にメイさんは関係ないよな。

 メイさんは口元に手を当て、何かを考える素振りをする。

 そしてそのまま流し目で俺を見る。

 あ、もう好き。今のこの姿を俺の脳内ファイルに鍵付きで保存しておこう。


「別に私が連れてきたわけじゃないんですよ。彼が――ヒナタさんがここが良いって」


「そう……なんですか?」


 リニアが俺の目を見つめる。

 なんで俺には目を合わせてくるんだ。


「まぁ、そうですね。ここだったら他の強い人とも戦えますし、それに――」


「簡単に主将の座を奪えそうですから、ですか?」


 おぉっと。こっちもテレパシー持ちなのか?

 どうしてこう、俺が出会う女性は俺の考えとか心の声がわかるんだろうか。

 

「……そうです。 正直、リニアさんを見たとき、俺よりも”弱い”って。

 俺の方が”強い”ってそう思ってしまったんです」


「……」


 リニアさんは怒りもせず、泣きもせず、黙って俺の意見を聞いていた。

 それは単に図星だったのか。それとも何か思う節があったのか。それはわからないが、とにかく彼女は静かに、さっきみたいに荒れることもなく黙って聞いていた。


「俺は『灼紅の剣姫』とほぼ同じスキルを持っています。それに、自分でこういうのもあれですけど

 頭は良い方です。だから、物事を考えて出るときには出る、引くときは引く。

 むやみに戦いにはいかないし、相手が強いからと言って怯むわけでもありません」


「……」


「だから俺は、ここに入ろうと思ったんです」


 言い切った。

 俺が思っていたこと全部。

 最初この国家のことを聞いたときから思っていたこと。

 ここにきて、リニアさんと出会って思ったこと。

 全部伝えた。伝えてしまった。


 これで承認されなくても仕方ない。むしろ殺されるかもしれない。

 そんな不安とやってしまったという後悔。でも、もう後には引けない。

 この気持ちが吉と出るか凶と出るか。

 俺はもう一度リニアの目を見る。


 瞳には涙が浮かんでいた。

 ヤバい……これは凶の方が――


「わかりました……ヒナタさんの気持ち、ちゃんと伝わりました。

 そのうえで大会後、報告をさせていただきます」

 

 袖で涙を拭い、何かを決心したような目で俺にそう伝えた。

 そしてそのまま部屋奥へ向かう。


 再び俺らの前に現れたのはそれから5分後のことだった。


「メイさん、これお願いします」


 メイに一枚の紙を渡す。

 それは新人力比べ大会の1か月後に行われる「国家対抗戦」の申請書だった。


「リニア・ハイベル率いる【閃光の剣士達】2名。計3名、国家対抗戦に参加しますっ!!」


 リニアはメイの目を見て、力強くそう言い放った。

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