束の間の恋
早朝のギルド。
まだ開いたばかりで誰もおらず、めちゃくちゃ静かだ。
「では行きましょうか」
背後から最近聞き慣れた声が聞こえる。
受付嬢のメイだ。今日はギルドの仕事着ではなく、大きなリボンのついた白いワンピースを身に着けている。私服なのだろうか。いや、私服なんだろうな。
メイの服装に見惚れているのに気がついたのか、その場でクルッと回って見せる。
「どうです? あまりこういうの着ないので似合っているのかわかりませんが」
「めちゃくちゃ可愛いです」
「ふふっ、ありがとうございます」
笑顔のメイさん。
何だろう、これ。デートなのかな?もしかして、デートなのかな?
昨日会ったばかりの人と俺はデートしているのか?
「デートじゃなくて、主将に挨拶をしに行くだけですよ」
俺の脳内を見透かしたように、にまっと笑う。
やっばい……国家とかどうでもいい。もう国家に入れなくてもいいや。
メイさんと一緒に出掛けられるだけで満足だ。
「それに私、既婚者ですし」
「……今なんて?」
聞き間違いか? いや、聞き間違いだ。うん、そうだ。
「私、既婚者です。子供も二人いますよ?」
「……うそ、ですよね?」
「本当です。 ほら、これが50年前に撮った結婚式の――」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!もう、もういいです!!俺に、俺に精神的ダメージを与えないで!!」
俺はその場で蹲り、喚き泣いた。
この世界に来て、初めての恋がまさかの人妻だったとは。
しかも50年前に結婚して――
「――メイさんって今何歳なんですか?」
「今年で500歳です。あれ、気づいてませんでしたか?私、エルフなんですよ」
そう言って髪をかき上げ、耳を見せつける。
ツンと尖ったエルフ耳がそこにあった。いつも耳が隠れてるからわからなかった。
「人間年齢で言ったら10歳ぐらいですかね」
「ロリじゃん!! 待って、俺10歳児に恋してたの!?」
とんだ変態じゃないか。こんな……こんなスラッとした容姿に整った顔立ち。
大人っぽく色気のある声色。そんな人――いや、エルフが10歳なんてありえない。
もうヤダ……どれだけ俺の純情を汚してくれるんだ、この世界は。
「ほら、早く行きますよ。リニアさんが待ってます」
蹲る俺に手を差し伸べるメイ。
……ちょっと大人びた子供って感じで、それはそれでいいな。
「じゃない!! 俺は! ロリコンじゃ! 無いっ!!」
一瞬でも邪な思いを抱いてしまった自分の頬をバチンッと引っ叩く。
「よし、行きましょう。 いざ、【閃光の剣士達】へ!」
まだ気持ちは落ち着いてないけど、こんなところでクヨクヨしてられない。
既婚者が何だ。別に今の俺には関係……ない。そう、関係ない……
「……他の方と行きますか?」
「い”え”っ”!! メ”イ”さ”ん”と”い”っ”し”ょ”に”い”き”ま”す”!!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺はメイさんに言い放った。
若干メイさんが引いていたのは気のせいだと思いたい。
そんなこんなで、リニアの待つ国家まで歩みを進めていった。




