異世界転生
一体、どれくらいの時間眠っていたのだろう。
「ん……」
微かに声が漏れる。
陽葵はゆっくりと目を開いた。
見知らぬ天井。
後頭部に触れる柔らかい枕。
鼻をくすぐる薬品の匂い。
「……びょう、いん?」
身体を起こし、周りを見渡す。
よくある病室のような部屋。
窓の外を見る。
遠くには巨大な山脈。
付近には、教科書等で見た西洋の建物がズラッと並んでいる。
そして、陽葵の視界上に、一つの文字列が浮かび上がった。
《幻想の十界ー始まりの街》
「は……?」
その文字列を見た瞬間、陽葵は息を吞んだ。
忘れるわけがない。
何百、何千もの時間過ごしてきたあの世界。
『エデンオブ・オーディール』の世界だ。
「ど、どゆこと?」
理解が追いつかない。
なんで俺がゲームの世界に?
いや、確かトラックに轢かれたはず……
陽葵は身体を見る。
怪我どころか傷一つ付いていない。
死んで……ないのか?
いや、あれは確実に死んだだろう。だってトラックに轢かれて、宙を舞ってそのまま地面に――
「……考えるだけでも恐ろしいな」
死んだときのことを考えると、背筋が凍る。
もうこれ以上考えないようにしよう。
「異世界転生……になるのか?」
異世界転生と言えば、テンプレでトラックに轢かれて死ぬってのがある。
んでそのまま、謎の空間で神的存在にチート武器やらスキルを貰えるんだけど。
俺の場合はチート特典とかは無いのか?
無いのか……無いから今ここにいるんだもんな。
「はぁ……せっかくの異世界転生なのに」
ベッドの上で落ち込んでいると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
陽葵はベッドから下り、ドアを開ける。
「あ、起きましたか?」
見たことのあるナース姿の女性が、水と薬を持って立っていた。
確かこの人は――
「ありがとうございます、リィナさん」
「いえいえ、それよりもう体調は大丈夫ですか?」
「えぇ、寝たら治りました」
「ならよかったです。一応机に薬、置いておきますね」
そう言ってリィナは部屋から去っていった。
リィナ・シーベル。
『エデンオブ・オーディール』にて、治療を行ってくれるNPCだ。
某有名ゲームの赤い屋根のセンターにいる人だと思ってくれればいい。
ゲームではNPCだけど、こっちでは完全に生身の人間なんだな。
と言うことは、だ。
もしかしたらこの世界はまんま『エデンオブ・オーディール』なんじゃないか?
陽葵は「メニューオープン」と、小さく呟く。
ゲームだと、コントローラーで開くか、こういえばメニュー画面が開くんだけど。
すると、目の前に一つのウィンドウが表示される。
「お、出た出た」
メニュー画面――というよりステータス画面に近い。
スクロールもできる。
陽葵はじっくりと画面を確認する。
【 ヒナタ・イツキ 】【ランクE】
【所属:無し】【ジョブ:剣士】
【攻撃:A】
【魔力:C】
【防御:B】
【速度:A】
ステータスが一緒だ。
ランクは違うけど、その他は一緒だ。
ということは。
画面を下にスクロールする。
スキル欄に書かれている【守護天使】【灼紅血鬼】【速度超化】の3つ。
これも俺がゲーム内で使用していたスキルと全く同じだ。
「じゃあ俺は『灼紅の剣姫』まんまってことか。てか、恰好もまんまそうだよな」
部屋に置いてある鏡を見る。
長い金髪に、紅と蒼のオッドアイ。
ゲーム内の俺と同じだ。
「ふ、ふふふっ」
口元が緩む。
もう終わりだと思っていたゲームがこんな形で続けられるとは。
しかも今度は生身でできるとは思わなかった。
興奮で心臓がドクン、ドクン、と高鳴っている。
あぁ、楽しみだ。
これから俺の――
ヒナタ・イツキの最強伝説が再び始まるのだ。




