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エデンオブ・オーディール  作者: 斑鳩恭


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『灼紅の剣姫』の消失

 ――それは、一方的な蹂躙だった。


 轟音と共に、闘技場の床が砕け散る。


 視界を覆い尽くすほどの強大な魔力の塊。

 幾重にも重なった防御壁の鎧。

 そして、凍てつくほどの冷めた瞳。


 それは、数百人ものプレイヤーを相手してなお、一歩も退かなかった現世界1位の魔術師。

 その名は、【白銀の魔女カナデ・ミハマ】。

 本来であれば、かなりのベテランプレイヤーが、何万回戦ってようやく1回勝てるレベルの存在だった。


 しかし――


「もう、終わりですか?」


 少年の声が、静寂に響き渡る。

 

 金色の長髪。

 紅と蒼のオッドアイ。

 そして、両手に握られた只の木刀。


 少年の名は、ヒナタ・イツキ。


 いや、この世界において彼をそう呼ぶ人間はほとんどいない。


 プレイヤー数、約五億人。

 世界中のプレイヤーが集うVRMMOゲーム『エデンオブ・オーディール』。

 その世界で、彼はこう呼ばれていた。


 ――『灼紅の剣姫』と。


「うる……さいっ!!」


 カナデが魔力の塊をヒナタに向けて放つ。

 大地を砕き、空気を震わせるほどの一撃。

 

 だが、彼はその攻撃を避けようとしなかった。

 むしろ、嬉しそうに剣を構える。


「楽しかったよ、君との試合(戯れ)」


 ヒナタが剣を振り下ろす。

 次の瞬間。


 魔力の塊に閃光が走る。

 

 一振り。

 たった一振りだけだ。


 その一振りだけで、魔力の塊が四散する。

 

 その光景を見ていたカナデを含むプレイヤー達は、誰一人として声を発することができなかった。


「う、うそだ……」


 その場で膝をつくカナデ。

 もう一ミリも魔力は残っていない。さっきの攻撃で全ての魔力を使い切ってしまったのだ。


「まじかよ……」


「あれを一振りで?」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

 しかし、ヒナタは気にする素振りもせず、カナデに一太刀入れる。


「ほい、終了」


 カナデの身体が粒子状になり、離散していく。

 そして、会場モニターにでかでかと『WINNER ヒナタ・イツキ』の文字が映し出される。


「んー、このゲーム楽しかったんだけどなぁ。もう終わりかぁ」


 そう言って、メニュー画面を開き、ログアウトボタンを押した。


 ◇◇◇◇◇◇


「……あー、疲れた」


 ヘッドギアを外し、ヒナタ――陽葵一月(ひなたいつき)は大きく伸びをする。

 窓の外では、陽が顔を出している。

 時間を確認する。


「29時30分か……コンビニ行こ」


 財布とスマホを手に取り、陽葵は家を出た。

 朝日が徹夜明けの身体に染みる。


 いつもと変わらない朝。

 いつもと変わらない街並み。


 そして、いつもと変わらない日常。


 ――の、はずだった。


 パァァァァァァァァッ!!


「は……?」


 交差点に差し掛かった瞬間、

 視界の端から、巨大な影が飛び出してきた。


 けたたましいクラクション。

 迫りくるヘッドライト。

 避ける時間など、疾うに無かった。


 ドンッ!!


 細身の身体が中を舞う。

 その瞬間だけ、時間がゆっくりと進んでいるように感じた。

 そして。


 グシャ、という音と共に彼の意識は、闇の奥底へと沈んでいった。

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