雪解け
「なんでぇっ!!」
試合会場から少し離れた人通りの少ない廊下。
そこで子供のように駄々をこねる成人女性がいる。
『白銀の魔女』カナデ・ミハマ――現10国家の中で最強とも呼ばれる主将。
敵に対し、冷酷な仕打ちをする。冷徹な態度。冷ややかな目。
その特徴から一部では『氷の魔女』とも呼ばれている。
そんな『氷の魔女』が、俺の目の前で駄々をこねている。
「やだやだやだやだっ!!ぜったいヒナタはわたしのクラスにいれるのっ!!」
「ですから、俺はもうリニアさんのところに――」
「まだきまってないじゃんっ!!」
「そうですけど……」
先ほどから俺に冷たい視線を向けていたリニアとメイも、流石に俺に同情したのかカナデを抑えることに専念し始める。
「ほ、ほら、もう試合始まっちゃうし、ねっ? 他にも強い新人はいっぱいいるから。
そうですよね、メイさん?」
「え、ええ。ヒナタさん以外にもお強い方は――」
「やだーーーーーっ!!」
ギャン泣き。
誰だ、彼女を『氷の魔女』と呼んだ奴は。
凍るどころか、ドロドロに溶けて蒸発してんじゃないか。
地球温暖化じゃなくてカナデ温暖化だよ、コレ。
泣き喚く声が廊下中に響き渡る。
そのせいか、ぞろぞろと人が集まり始める。
「誰?」「うるさいなぁ」「子供?」
マズい。この状況を見られるのは一番マズい。
いや、俺はどうでもいいんだけど、カナデが一番気まずいだろ。
仮にも最強の主将なんだ。こんな姿メンバーにでも見られたら、今後どう接していけばいいのかわからなくなるだろう。
「か、カナデさん! まずいですって!人、集まってきてますから!」
「そうですよ! マズいですよ!」
「うぅ~~~~」
ぐすっ、ぐすっ、と鼻を鳴らしながら、ようやく立ち上がる。
そして。
「……ごめん。今のは無かったことにして」
スン……といつもの表情に戻る。
今までの泣きじゃくっていた様子が嘘のように。
「……それじゃ、私は先に戻るから。
試合、頑張って」
そういって立ち去るカナデ。
でも。
「カナデさん、方向反対です」
「う、うるさいっ! ちょっとまちがえただけっ!」
顔を真っ赤にして、会場へと足を進めるのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
試合の順番も間近になり、俺も舞台ゲート前に集まる。
しっかし、本当にいろんな種族が集まっているな。ギルド前では見かけなかったけど、鳥人族や水精族までいる。
……うわっ、めちゃくちゃ俺の事見てくるじゃん。
「ねぇ、あなた『灼紅の剣姫』じゃない?なんでこんなところにいるの?」
水精族の一人が俺に話しかけてくる。
泡のような浮遊体に身体を預けているせいか、身体が上下に揺れている。
「いや、よく言われるんですけど他人ですね。
親戚とかそう言うのでもないんで」
「ふぅーん。ま、私人間に興味はないんだけどねー」
そう言い、また水精族の輪の中へと戻っていってしまった。
去り際にふわっと磯の香りがした。
「ヒナタさーん。ヒナタ・イツキさーん! ゲート前までお越しくださーい」
順番だ。
さて、ここから俺の最強(ry
「――はい! では、試合頑張ってください!」
試合前の身体検査を終え、ハルナに元気に送り出される。
ゲートは異次元式で、潜ると異次元空間に造られた舞台へと辿り着く。
因みにこれはギルド長の魔法『時空操作』で作られている。
それ以前はギルド内に舞台が造られていたらしい。
「ゲートを潜った後、少々異次元酔いを起こすかもしれないので、机に置いてある酔い止めをお飲みくださいね!」
「異次元酔い……」
乗り物酔い、みたいなものだろうか。
まぁ、俺はそう言うのには耐性があるし大丈夫だろ。
俺は慢心しながらゲートを潜っていった。




