第33話 シャルの推理③
龍の国は、数ある島国の中でも非常に特殊な国である。
小さな島国でありながら、今まで多くの国から開国を迫られ、侵略をしかけられながらも、その全てを退けてきたという異例の歴史を持つ。
本来、小国は軍事力や経済力で大国に劣るため、戦争では明らかに不利な立場にある。
資源や兵員数の圧倒的差に加え、面積が小さいことによる不利もあるため、普通は軍事力をチラつかせられただけで戦争にすら発展しないものだ。
しかも龍の国は鎖国していたこともあり、輸入などで資源を得ることもできず他国からの支援も期待できないため、世界軍事力ランキングでは最下位に位置する国であった。
そんな国が、何故数多くの国による侵略を退けることができたのか?
それは、軍事力とは別の強力な国防力が存在していたからである。
……いや、アレは国防力と言うより、立地条件が有利に働く天然の要塞などと同じ系統と言った方がいいかもしれない。
「龍の国が開国された際に開示された情報は数多くあるけど、その中でも一般的に大きく注目されたのが国名の由来と国家の形態、文化になる。まあ国名の由来についてなら、マリウスは開国前から既に知っていたでしょうけどね?」
「……ノーコメントだ」
実のところ、龍の国という名称は元々軍事関係者のあいだで使用されていた通称である。
他にもドラゴン・アイランドや楽園など様々な呼称があったが、どれも正式名称ではない。
龍の国の正式名称については元軍人である俺も知らなかったが、開国の際に『扶桑』と発表されたそうだ。
しかし、既に国家間では龍の国という名前が浸透しており、扶桑という名前自体の意味も理解しにくかったことから、一般的には龍の国という呼称が浸透することとなった。
他の国でも名前が長かったり、意味が理解しにくい名称の場合は別の呼称をされているケースがあるため、そう珍しい話ではない。
そして当の扶桑――龍の国の宰相も、それを聞いて「大いに結構です」と返したそうだ。
普通に考えれば自国の名前は正式に呼称して欲しいと難色を示すと思うが、龍の国としてはむしろ歓迎するくらいの反応だった――と様々なメディアで語られている。
ただ、これは単純にその宰相が懐の深い人物だったというワケではない。
……それほどまでに、扶桑にとって龍は特別な存在だというだけの話だ。
「スミヤさん達も知ってはいると思うけど、龍の国にはその名が示す通り龍が生息している。それも、確認されているだけで20体以上の巨大種が定着していると言われているわ。そして、その龍達に守護されているからこそ、龍の国は鎖国を維持できていた」
正式に各国から明言されているワケではないが、シャルの言っている内容は事実である。
長い歴史の中で龍の国は幾度となく侵略の危機にさらされたが、そのことごとくを退けてきた。
しかし、その防衛を担っていたのは人ではなく、龍であったと言われている。
龍の戦闘力は文字通りの一騎当千であるらしく、各国から放たれた侵略の軍勢は龍の国へ上陸することすらかなわなかったらしい。
それどころか、場合によっては艦隊が全滅することすらあったそうだ。
近代の戦争において、攻め入った軍隊が全滅するということはまずあり得ない。
戦力差があり現実的ではないと判断された場合や、消耗が激しい場合は撤退基準に基づいて速やかに撤退戦に移るからだ。
そして防衛側も、わざわざそれを追って殲滅するようなことはない。
周囲は敵だらけという状況でそんなことをするのは明らかに無謀だし、防衛とはいえ敵兵を皆殺しになどすれば、その非道さを世界中から非難され敵を増やす結果になりかねない。
……しかし、それはあくまでも人間目線での話だ。
肉食の猛獣に殺人は良くない! と説いても無駄なように、龍に人と同じ倫理観を求めることなどできはしない。
一部の龍には知性が備わっていると言われているが、龍からすればただ縄張りに侵入した外敵を駆除しているに過ぎないのだから、非道だなんだと言われる筋合いはないだろう。
それに、もし仮に話が通じたとして、一体どう説得するのか?
これから貴方達の縄張りを荒らしに行きますが、どうか手加減をしてください――とでも伝える?
…………想像するだけで羞恥心が込み上げてくる。
「ただ、もちろん国の防衛全てを龍が担っていたワケじゃないわ。少数精鋭部隊の侵攻くらいじゃ龍は出張って来なかったみたいだし、そういう場合は当然龍の国が抱えている戦力が投入された。それが、忍者と武者よ」
忍者――、俺でも聞いたことのある龍の国における特殊な組織である。
基本的には諜報部隊と同じ軍事組織らしいのだが、怪しい術や体術を用いて兵士のように戦闘もこなすらしい。
対して武者は正真正銘の戦闘部隊なのだが、組織というよりは傭兵や開拓者のように協会所属の個人の集まりなのだそうだ。
龍の国では主にこの二種類の戦闘組織が存在しており、国防など様々な場面で重用されていたと伝えられている。
そして、この二つの組織の対立こそが、龍の国が開国する要因となったようだ。
「そして国家の形態についてだけど、龍の国――正式名称『扶桑』は開国前、忍者を擁する『扶桑』と武者を擁する『山城』の二国が対立していて、最終的に『扶桑』が勝利したことで統一が成された。ただ、これはどちらかというと和解に近い結末だったそうよ。そのきっかけについては諸説あるけど、戦乱中はどんな国でもドラマチックな人間関係が生まれるものだし、そりゃあ色々なことがあったんでしょうね」
現実的に戦争は悲劇しか生まないため些か不謹慎な話ではあるが、歴史的な観点ではドラマチックと表現するしかないような人物関係が多々ある。
シャルの言うように、そんな話はどんな国にも存在するだろう。
「開国してから10年のあいだに歴史書を含む色んな書物が流れてきたし、それを題材にした創作物も沢山生まれた。その中には当然忍者に関するものあったんだけど、忍者の話って正直物凄く面白いから、私も知識だけは豊富なのよね。それが、トールの存在が龍の国側に知られたとしても問題ないと判断した理由でもある」
そう言ってシャルは端末を操作し、今度は別のページを表示する。
「これは、龍の国が開示した公式の資料をまとめたサイトよ。私が口で説明するより、直接自分で読んだ方が安心するでしょ? この、『抜け忍』って書かれた項目ね」
……抜け忍?




