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機神冒険活劇<カリュプス プロヴォカーレ> 第二部 巨獣たちの楽園編  作者: 九傷


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第34話 シャルの推理④



「読み上げた方がいい?」


「頼む」



 スミヤの年齢を気遣ってか文字のサイズを大きくしているようだが、じっくり読むにはトールへの視線を切る必要がある。

 あの様子だと今更もう何かをすることはないと思うが、まだ油断はしない方がいいだろう。



「抜け忍っていうのは、まあ文字通りと言えば文字通りだけど軍とか組織を抜けた忍者を指す言葉よ。厳密には、正規の手順を踏まずに抜け出した場合のみ抜け忍と呼ばれるみたいだけどね」


「……」



 俺も正規の手順を踏んで軍を辞めたワケではないので、なんとなく背景が見えてきた。

 ……恐らくミカド・トウセンは、まともな方法で忍者を辞めることができなかったのだ。



「忍者は諜報部隊でもあるから、抜けるにはかなり厳しい制約――掟があるみたいね。ここには例として目をえぐったりとか、顔を焼いたりみたいなことが書かれてるけど、まず間違いなく五体満足で抜けられるような組織じゃないわ。そしてだからこそ、掟を破ってでも逃げ出そうとする者が出てくる。でも、狭い島国じゃ隠れられる場所は限られてくるし、追跡されたら逃げ切ることはほぼ不可能と言っていい。……となると、逃げる場所は国外しかないわよね」


「……だな」



 政治家や軍人、スパイなどは、様々な理由により国内に安全な場所がなくなることがある。

 そういった際に国外に逃れるのが、亡命だ。

 それ以外の一般人だと難民という扱いになるが、ミカド・トウセンが本当に忍者だったのであれば亡命で間違いないだろう。


 難民と亡命者の最大の違いは、待遇の差だ。

 なんらかの機密を持っているであろう亡命者は、重要人物として国から保護対象として扱われることが多いため、好待遇になりやすいのである。

 特に敵対国の亡命者であれば有用な情報を持っている場合があり、それゆえに暗殺される可能性もあるため手厚い保護を受けられる可能性が非常に高い。

 難民にも保護制度はあるが、その差は天と地ほどもあると言っていいだろう。



「いくら忍者に厳しい掟があろうとも、それはあくまでも組織内――国内でしか通じないルールよ。他所(よそ)の国には当然他所の国のルールがあるし、それを破るようなことがあればまず間違いなく国際問題に発展する。しかもその頃の龍の国はまだ鎖国状態で他の国と国交も絶っていたし、他国の情報もほとんどなかっただろうから追っ手を出すのも難しかったでしょうね」



 亡命者が自身の安全を図るうえで最も重要な要素となるのが、法による保護である。

 警備やボディーガードなどによる物理的な保護とは違い直接的な効果はないが、長期的かつ多方面に効果を発揮するため、結果的には一番効果的な抑止力となるからだ。

 それに、警備もボディーガードも24時間年中無休で警護できるワケではないし、暗殺者やテロリストを制圧できるほどの人材を何人も用意することなど、高い軍事力を誇る帝国であっても不可能と断言できる。

 ……もしそんな警護体制が取れるとした、自由に行動できないよう監禁に近い環境が必要になるハズだ。



「……あの、一つ確認させていただいても、よろしいでしょうか」



 端末に目を通していたスミヤが、恐る恐るといった感じで尋ねてくる。



「ええ、今は意図してそちらに確認する時間をとってるから構わないわ」



 あえて考える時間を与え自分でその結論に至ったと誘導する話術もあるが――、恐らくシャルにその意図はないだろう。

 まあ、意図があろうとなかろうと同じ結果になる可能性は無きにしも非ずだが……



「ここには、『抜け忍には必ず追手が出されるため生き延びることは困難』と書かれていますが、やはり、トウセンは――」


「ん? ちょっと待って? ミカド・トウセンってもしかして死亡が確認されているワケじゃないの?」


「……それは、私にもわからないのです。トウセンは5年以上前に失踪し、以来行方不明となっております」



 ここまで調子よく推理をしていたシャルだが、どうやらこれは想定外だったようだ。



「……そう、私はてっきり――ってまあ私の推測が破綻するワケじゃないし、いいか。え~っと、それについての推測だけど、恐らく追っ手については出されていないと思われるわ」


「っ!? な、何故そんなことが?」


「そういう契約や制約が締結されたからよ」



 ……まあ、そういうことだろうな。

 俺自身が同じ立場だからこそ、そういった取引がされたであろうことは容易に想像できた。



「契約や、制約……?」


「ええ。現実的に考えると、龍の国にはそれくらいしか手立てがなかったでしょうからね。一応確認するけど、マリウスとしてはどう思う?」


「まず、無理だろうな」



 シャルは俺なら可能か――いや、帝国なら可能か? という意味合いで俺に尋ねたのだろうが、それについては既に俺の中でシミュレーションを行っていたのでほぼ即答できた。


 龍の国は、数多くの(ドラゴン)に守られているという点で凄まじい国防力を誇っている。

 しかし、逆に攻める立場になった際に龍の支援を受けられるかというと、恐らくは否だ。

 龍はあくまでも自分達の縄張りを守っているに過ぎず、それ以外のことには干渉してこない。

 ……これは各国が幾多の侵略失敗から得られた、有力性の高い検証結果である。

 もちろん龍の思考を読めるワケではないので確証があるとまでは言えないが、実際に龍が攻めて来たり防衛以外に出張ってきた記録は残されていないので、歴史がそれを証明していると言っていい。


 そして龍の力がなければ、龍の国は世界における評価通りの弱小国家でしかない。

 たかが抜け忍一人のために、追っ手を密入国させて他国を刺激するような愚策は犯さないだろう。

 たとえ国防力があろうとも、手段を選ばなければ報復する手段などいくらでもあるのだから……

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― 新着の感想 ―
なるほど、一理ありますね( ˘ω˘ )
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