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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編2
97/105

93話 調べ事はこっそりと3

(まぁ、あの程度で終わりだとは思ってなかったけど)


 それなりに正装したレティシアは、目の前に聳え立つ建物を睨み据えた。


 レティシアが訪れたのは、天敵である国営軍本部だ。やましいことはないので、この呼び出しが第五区のことについての聴取であることは、容易に想像がついた。


「それじゃあ、行こうか」


 声を掛けられ、レティシアは静かに睨む。なんでローレンス(このおとこ)まで呼ぶ必要があったのだ。尋問ではないというアピールのためか。

 何を聞かれようと絶対に何も言うまい。そう意気込むと、ローレンスのエスコートは無視し、忌々しい建物に足を踏み入れた。





「え? 面通し?」


 応接室に通されたレティシアは、イーツカルツェ公爵が告げた予想外の言葉に、素っ頓狂な声をあげてしまった。


「面通しって、犯人の顔を確認するあれのこと?」

「左様」


 意味がわからない。そう思ったのがまんま顔に出ていたらしい。イーツカルツェ公爵が説明する。


「捕らえた凶賊の中に、君を誘拐した犯人の特徴と符号する者がいたから、犯人かどうか確認してほしくてね」


 まだ口を割れていないのだろうか。あの連中ならすぐ吐きそうなのにと思いつつも、突然訪れたチャンスに心を踊らせる。

 レティシアの誘拐に関与した連中は、下っ端でも黒幕と接触しているから、もしかしたら中枢とも顔を合わせていたかもしれない。捕らえられた凶賊の中に、あの日のヤツらがいるとすれば、レティシアが自ら吐かせられると、レティシアは目を光らせ、


「フィリウス。すまないが、いくら軍の命令だろうと君個人の頼みであろうと、そんな危険な頼みは聴き入れらない」


 しかし答える前に、ローレンスに横槍を入れられた。


「私も子を持つ親だから、君の気持ちは重々承知している。もちろん無理にとは言わない」

「面通しってことは、監獄に行くのかしら?」


 今度は横槍を入れられる前に口を開くレティシア。


「まさか。地下ではあるが、捕らえた者を一時的に入れておく牢だ。全員、手足を拘束している」


 レティシアは鼻で笑った。「無理にとは言わない」と言ったわりに、既に証言と合致する人相の凶賊だけを監獄から移動させている時点で、面通しすることは決定しているではないか。


「当然、見返りはあるのでしょう?」

「レティシア?! ちょっと、何を言って……」


 狼狽えているローレンスとは対照的に、レティシアは足を組み、どっしりと構える。こちとら元凶賊だ。相手が元帥だろうが、ただで協力などしない。

 レティシアはこれが自分の方が優位なのだと示すように、足を組むと、優雅な笑みを浮かべた。


「どんな報酬が望みかね? 軍の権限でできることの中で可能なことならば叶えよう」


 さすがは国営軍の総司令官。レティシアの行動を予想していたようで、笑いながらしっかり軍の権限という制約を付けてきた。レティシアはそうねえ、ともったいぶるように口を開く。


「全国の貴族の財政状況の一覧の閲覧。不正調査を行っているのは軍だから、資料くらい持っているでしょう?」

「ははは、それはまた無理難題だな。情報(それ)を外部の者が閲覧するのに必要なのは、軍の権限ではないのだよ」


 余裕の返答を聞く限り、イーツカルツェ公爵はレティシアの要求をある程度予想していたらしい。


「残念ね。それなら国中の武器商の顧客一覧」

「それも同じだな」


 ここまではレティシアの予想通り。


「そうねえ。それなら……国営軍本部内にある書庫の自由閲覧」


 三つ目にして、本命の要求を出した。施設の広さも、蔵書も、国内最大である国営軍の書庫。ここは古文書も扱っているために一般解放されていない場所だ。

 イーツカルツェ公爵は面白そうに笑った。


「書庫か、いいだろう。ただし書庫に保管されている重要機密情報の検閲は先と同じく、軍にその権限はない。ゆえに君が閲覧できるのは国内外の文献と、書籍のみということになるが」

「……それでいいわ」


 本命の目的はバレていた。レティシアは舌打ちしそうな表情を一瞬作ったあと、返答をした。


(本命は無理なのは承知の上。でももう()()()()()がバレるわけにはいかないわ)


 もう一つの目的というのは、幼い頃、地下の空間で行われた、鳥の仮面を被った爺がやった儀式のことを調べることだ。書庫にそれが記されたことがあるかはわからないが、最大級の書庫で資料を集められなかったら諦められる。


「それでは手配しよう」


 そう告げたイーツカルツェ公爵は、側に控えていた副官に命令を出す。


()()をここへ」

「畏まりました」

「ラインベール卿には別途話があるので、ここに残ってもらえるだろうか。レティシア嬢の護衛には()()()()()()()を付けるから安心してくれ」


 何だろう、狸親父の顔を見ていると嫌な予感がする。というか嫌な予感しかしない。そしてそういう予感は当たる。


「失礼します」


 ノックと共に応接室に入ってきた人物を見て、レティシアは思いっきり顔を顰めた。


()ならレティシア嬢の信頼もあり、腕も確かだから最適な人材だと思ってな」

「私の部下があと二人ほど護衛につきますので、どうぞご安心ください、ラインベール公爵」

「……くれぐれもよろしく頼む」


 ローエンスは安堵していいのやらよくわからないという顔をしつつも、目の前の男に頭を下げた。いや、ローレンス(このおとこ)に承諾を取る前に、こっちの承諾を取れって。


(この狸爺!)


 レティシアは涼しい顔のイーツカルツェ公爵を半目で睨んだ。ヴァスバード侯爵が護衛だなんて、嫌がらせ以外の何物でもない。が、対価()に腹は代えられなかった。


「それでは案内します。レティシア嬢、こちらへ」


 レティシアは舌打ちして立ち上がると、堅物軍人の後ろについて応接室を出た。

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